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吾輩は『ねこ』なのである。 2

 顔を洗っている中でも、オナゴの声は相変わらずだ。

「一緒に遊ぼう」


 猫じゃらしを手にしてパタパタしているが、吾輩は自分の作業に集中する。顔を洗い、ゆっくりと伸びをしている間でも、猫じゃらしの動きをやめないオナゴ。やむを得ない。

 吾輩は、その場で横腹をつけながら猫じゃらしの動きを追う。おい、オナゴ。動きが速いぞ。そのような動きを見させられると、捕まえられる物も出来ぬだろう。

 みるみるやる気を失せてきている吾輩は、唯一起こしていた頭すらも床に付けた。猫じゃらしの動きも、もはや気にも留めていない。

「ねぇねぇ、聞いてよ」

 その猫じゃらしが吾輩の腹を撫でている最中。眠気が強くなってきた中、ゆっくりと目を閉じる。視界は真っ暗だが、鼻からは、毎日オナゴが食べている物の臭いがする。

「私、どこか間違ってるとこある?」

 オナゴが話す度に、口から強烈な臭いを発してくる。一度吾輩の目の前に差し出されたことのある物だ。オナゴが持っていた二本の棒の上にちょこっと置かれた緑がかった粘り気の強そうな粒だ。もっとも、吾輩には『赤色』というのが分からない故、ひょっとすると緑ではないのかもしれない。

 その臭いは吾輩は苦手ではない。むしろ好物と言える程なのだが、食べようと口を開くと引っ込められた記憶は新しい。

 まったく、今日も困ったオナゴだ。

「どう思う?」

 オナゴの目線が吾輩の高さに合わせてきた。吾輩が謎の食物の事を考えている内に話し終えたようだ。

どのような話だったのだろうか。もっとも、真剣に聞く態度をとっても、オナゴはおろか、主の言い分も理解できない吾輩には、時間の無駄とも言える。

 オナゴよ、そろそろ吾輩は寝るぞ。良いのだな?

 ゆっくりと起き上がり、側の陽の当たる場所で再び寝転ぶと、瞼が重くなってきた。オナゴは、吾輩の動きを目で追うだけで、そこから移動しようとはしない。

「寝ちゃうの?」

 オナゴの指先が吾輩の肉球に触れる。やめろ、と足を引っ込めると、オナゴは腹ばいになりながらゆっくりと近づき、吾輩の横腹をゆっくりと撫で始めた。

 温かく、安心感が芽生えてきては来るが、いつもと少し違うオナゴの手の動き。否、動きは同じではあるのだが、そこから伝わってくる感情という物か・・・

 不思議と顔が上がり、その手の動きを眺めたが、やはり見た目では変わらない。それどころか、その手がゆっくりと吾輩の鼻先に近づいてきたではないか。

 臭いを嗅いでも普段とさほど変わらない。では、何がこの違和感を発生させているのか・・・

 オナゴの顔を見ると、目からうっすらと光るものが零れていた。

 オナゴよ、何故そんな悲しい顔をするのだ。

 吾輩が相手をしているのだぞ。

 いつもなら、あの甲高い声を出しながら吾輩の行く場所を追ってくるほどの執着心を見せてくるではないか。

 何故、なぜ何も言わぬどころか、そんな顔をするのだ。

 訳の分からないまま、吾輩はオナゴの五本指の内の一本を舐めてやる。オナゴの顔色は変わらない。今度は甘噛みを試みてみたが、それほど大きな変化はない。

 吾輩は、どうしたら良いのだろうか。

 苦手とは言ったが、主がいない中、吾輩の時間を共に過ごしてきたオナゴが嫌いなはずがない。

 そうだ。苦手と嫌いは別物なのだ。吾輩はそう思っている。

「かわいいね」

 力のない声に、吾輩はゆっくりと立ち上がった。最後の手段と、オナゴの額に鼻先を近づけてから、ゆっくりと頬ずりをしてやった。これで少しはオナゴの気も紛れてくれるだろう。

 そこまで行動してから、ようやく思った。

 吾輩には、何故オナゴの言葉を理解することが出来ないのだろう。

 オナゴの言葉を理解出来たら、少しはオナゴの力になれたのかもしれない。


 主よ・・・

 吾輩では、オナゴの本当の気持ちを察することは出来ない。

 オナゴの気持ちを一番理解できるのは、主なのだ。

 主よ。

 早く帰ってくるのだ。

 帰ってきて、オナゴの気持ちを察し、元気にしてやるのだ。

次回公開は7日0時になります。

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