吾輩は『ねこ』なのである。 1
今回の物語は猫を主人公にしています。なので、私たち人間が当たり前のように使っている物の名前等を理解しておらず、遠回しの表現が非常に多くなっております。例を挙げると、りんごは「赤い球体」など、見た目で表現している事が多いので、それで察していただけるとありがたく思います。登場人物は全員動物というわけでもなく、ちゃんとした人間も出てきているので、その辺を少しはカバー出来ているんじゃないかと自負はしていますが・・・
動物視点の物語は初めての試みだったので、非常に執筆が難しかったです。
バトル系の物語を書くのも難しく感じつつ、それを避けるように試しに書いてみたのですが、もしかすると、こっちの方が難しかったかもしれません。
全18話。既に完結している物語なので、前回のようなデータ消失からの失踪はありませんので安心してください。
吾輩は『ねこ』である。
そう、『ねこ』なのである。
ねこならば、主の言うことには細心の注意をはらうものである。
特技は、特にない。
そんな吾輩が、最近一つのことを気になりだした。
主が、何か吾輩の知らない場所で美味いメシを食らっているらしい。
普段通りなら吾輩のご飯を用意してもらって、主とともに飯をかっ食らうのが一般だったのだが、仕事で帰りが遅くなると聞いた時は、共通して顔を赤くして帰ってくる。
それだけならまだいい。最悪の事態になるのは、その場で倒れ込んで眠りにつくのだ。吾輩が何度起こそうと試みても、うんともすんとも言わない。初めて見たときは、その無反応さと、口元から漂ってくる鼻腔全体を刺すような強い臭いに半ばパニックにもなった。あの頃の吾輩は、かなり取り乱していただろう。
そして、今日も主の帰りは遅くなるらしい。
今度は何を食らってくるだろうか。
「あー、いたいた」
主の嫁が吾輩の方に近づいてきた。吾輩は、正直このオナゴは苦手だ。機嫌が悪い吾輩の気も知らないでベッタリとくっついてくる。睨みを利かせれば、デレデレの顔に鼻の下を伸ばす間抜け面が、余計に苛立ちを加速させる。
だが・・・
「もうすぐご飯にしようねぇ」
顎に指先二本が前後すれば、目を細めてしまっている。いくら苦手なオナゴでも、これだけは気持ちがいい。これだけで長時間撫でられてしまっては、骨抜きになる吾輩も、容易に想像できてしまう。
おい、オナゴ。指先は三本が礼儀だろう。
「かわいいー!」
顎掻きを終えた時に鼻先をペロリと舐めたら、オナゴの甲高い声。そうだ。これも苦手だ。普段はそのような高い声ではないだろう。
まったく、困ったオナゴだ。
夜中、吾輩は専用の部屋で過ごしていた。ここまではいつもと変わりない事ではあったのだが、今日はそうではなかった。
ついさっき、主が帰ってきた。それに対してオナゴが捲くし立てる様に、普段より低い声で何かを言っていた。それに主が怒り、口争いが始まった。今はその決着が着いてはいるが、隣の部屋でオナゴの震える声が聞こえてくる。
吾輩は、二人が言っている内容はよくわからない。
だが、関係に亀裂が入ってしまっているのは、なんとなくわかる。
こういう時、吾輩はどうすればいい。
部屋の扉に爪を立てつつ、ガリガリと音を立ててはいるが、誰も開けてくれそうにない。
ならば、と窓の方を見たが、そこもしっかりと閉まっていた。吾輩がもう少し器用であれば、この窓も簡単に開けてオナゴの元へ行けるのだが・・・無念。
次こそは、と大きな声で鳴いてみたが、隣のオナゴの鳴き声の方が大きいように聞こえてしまう。助けたい思いはありながら、その相手から助けを遮られるとは、なんと滑稽な―――
主よ・・・
何故吾輩の呼び声に気づかない。
何故オナゴの元へ行って助けてやろうとしない。
吾輩は、もう何度も扉の前で泣き続けたが、その日は誰も扉を開けてもらうことなく一日を終えた。
もう一つ二つの作品はどうしようか考え中です。
削除するか、放置したままにするか(執筆活動はほとんど行っておりません)
次回公開は5日0時の予定です。