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蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

クレーマーおばさん

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ…

 俺は石根勲。そば屋の『蕎麦いしね』を営む店長だ。

 俺は22歳に脱サラをし、とある有名そば屋で修行をして、30歳になり、今に至る。この、蕎麦いしねは、アルバイトは俺を除いて、2,3人、店内も大体10人しか入れないが、ここを建てて1ヶ月、ここを気に入ってくれた人ができて、俺は嬉しかった。

 そんなある日のこと、その日は休日。それは店を開けて数分経ったときだった。扉の向こうから中年女性の声がした。

 「すいませーん。入ってもよろしいかしら」

 「は、はい。今お店開けたばっかです!」

 「じゃあ失礼しますね」

 その人が扉を開けると、まさに中年女性と言う顔をした人がいた。体型は少し細めだった。しかし、服装だけは派手で、ピンクのシャツとズボン。靴は高級感を表すような黒いハイヒール。首には金のネックレス。指には、左手の薬指以外全て、ダイヤにラピスラズリにルビー等の指輪をしていて、更には某高級ブランドのバッグを持っていた。

 彼女はお店の中を見渡すと、少し怒りっぽい表情となり、そのまま席に座った。

 「ねぇねぇ、あなた、店長さん?」

 俺は、彼女に呼ばれた気がしてそこに行った。

 「はい、私が店長ですが」

 「あらそう!じゃあちょっと言わせてもらうわね」

 すると、彼女はまるで嫌味な口調で話し始めた。

 「ここのお店のそば、全部220円なの?」

 「え、えぇ、そうですけど何か?」

 「何でこんな安いの?」

 「ま、まぁ、使ってる食材が全て、国産というか…あと、お金が少ない人にも食べてほしいので…」

 「あのねぇ、ざるそばとか、もりそばとかなら220円ならわかけどね、天ぷらそばなんかは、せめてねぇ…まぁ、だいたい750円かしらねぇ…あと他は…350円ね」

 「は、はぁ…」

 「あ、冷たいもりそば1つね」

 「は、はい。えっと冷たいもりそば1つですね」

 数分後、俺は彼女にもりそばをもっていった。念の為俺はその場にいた。

 「どうぞ、もりそばです」

 「いただきます………………ん!?」

 彼女は、そばを一口分つゆにつけ、それをすすった。すると彼女は、予想外なことを言った。

 「あ、あのう…どうでしょうかね?」

 「…ううん………ダメ」

 すると、彼女は手を力強く机に叩きつけて、ヒステリックに叫んだ。

 「あのねぇ、ここのつゆ、薄いよ!」

 「えっ…それはどう言う…」

 俺は勿論つゆには手を抜いてない。醤油に塩、水、鰹節にみりん。基本中の基本を入れている筈だ。しかし、彼女は続ける。

 「実はね私、最近塩分足りてないのよ。昨日、医者に低血圧って言われてねぇ、実は朝食も濃い味付けの食べ物を食べてきたのよ。なのに何これ…何かの仕打ちかしらねぇ!」

 彼女は唾を飛ばしながら叱りつけた。

 「もういいわ。もう出るわよ。また別の高級料理店で口直しするわ」

 「えっ!ちょっと!そばは…」

 「五月蝿いわねぇ!全くもう…いらないわ、あんな低級のそば」

 彼女はいつの間にかレジについていた。

 「はいこれ、お釣り要らないから。あと、来週また来るから、良くなってたら今までの事、無しにしてあげる」

 彼女はお店を出ていった。彼女が置いていったものは十万円。そしてそれは下には何が名刺らしき何かがあった。俺は名刺をポッケに入れ、調理室に入った。

 (まぁ、あんな事をグチグチ言えるのはそば協会かなんかか?)

 そんな事を思いながら、俺はそれを見る事にした。しかしそこには、こんな事が書かれていた。

 『株式会社ミナミ食品 専務 嶋原豊美』

 (な、ただの会社の上役なのかよ…)

 まさか一般人に指摘されるとは思わず何か残念な気持ちだった。

 念の為、つゆを一口分舐めても、濃さは普通であった。

 「ン、どうしたんスか、店長。つゆ舐めて」

 「そうすよ、どうしたんですか急に?」

 「ん、あぁ、鶴井、桝野。来てたのか」

 こいつ等は鶴井勝と桝野稔。アルバイトだ。

 「いやぁ、さっきお客さんにね、つゆが薄いって言われちゃってね。そんな薄いかなぁ?」

 一応二人にもつゆを一口舐めさせたが。普通だと言った。後から来たお客さんにも普通だと言われた。

 その夜。俺は調理室で1人つゆの味見をしていた。とはいえ、ただ濃さを変えているだけだが。

 (うん、この濃さでいいかな…ん、あと、値段も変えないとなぁ…)

 俺は彼女に言われた通り全てを変えた。

 勿論、お客様やアルバイトは辛いだの、濃いだの、高いだの、言われたが、俺の心は変わっちゃいなかった。

 1週間後、店を開けると、すぐに彼女は来た。

 「やぁ、お久しぶりねぇ」

 「ど、どうも、いらっしゃいま…」

 「どう?最近は?」

 「えぇと、まぁまぁですよ」

 「じゃあ、冷たいもりそば。」

 「はい、冷たいもりそばですね」

 俺はあの時と同じく彼女にもりそばを持って行った。

 「どうぞ、もりそばです」

 「ありがとう、さてあの時と同じかしらねぇ」

 俺はその言葉を聞いて、何か不安を感じた。そして、その不安は現実となった。

 「何よこれ!」

 彼女はまた机を叩き、ヒステリック気味に叫んだ。

 「お客様、どうかされましたか?」

 「このつゆ、濃いのよ!」

 「こ、濃い?」

 「そうよ!私ね、昨日検査を受けたのよ。その結果、高血圧だったのよ、高、血、圧!」

 「でもこれ、先週お客様が希望したことじゃ…」

 「もう…うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!もう怒ったわ、もう次からクレームバンバン入れてやる!」

 すると彼女はそばを残し、お金も出さずにすぐに出ていった。

 そして、宣言通り、彼女はクレームをし始めた。

 「ドアの立て付けが悪い!」

 「薬味が多い!」

 「泣いている子供がうるさい!」

 「のりの盛り付け方が雑!」

 等、沢山のクレームを言われ、ストレスが貯まる一方。遂にはまだ30代なのに、頭が白に染まった。

 そして最終的には、町中を歩いている時に、心臓発作を起こし、死んでしまった。こうして、俺の人生と、蕎麦いしねは閉店した。




 一方その頃、彼女は、自分の会社である株式会社ミナミ食品に帰った。

 「社長、ただいま帰りました」

 彼女が言う社長は、若く、七三分けの髪、服装は青のビジネススーツ。胸元には、『株式会社ミナミ食品社長 南蓮斗』と言う名札があった。

 「お疲れさん、嶋原。さて、戻すとしますか」

 すると南は、ポケットから小さなリモコンをだした。

 「嶋原を元の顔に戻せ」

 南がそう言うと、彼女、いや彼は元の顔に戻った。服装も、元のマダム風の服装から、黒のスーツとなった。

 「あと、これ、君の名札」

 南は嶋原に『株式会社ミナミ食品専務 嶋原豊』と書かれた名札を渡した。

 「にしても、この顔変えリモコンは素晴らしい。対象にこのリモコンを向けると、有名人の顔や、偉人の顔、更には、動物の顔になる。流石、親のコネと金で集めた国の超一流の科学者に作らせた甲斐がある。あ、そうだ、嶋原よ、どうだった、店潰し、『クレーム編』は?」

 「えぇ、大変でしたよ。奴の店にすぐにクレームをつける為に最寄りのホテルに行ったり、クレームを考えなきゃいけなかったので、結構長い期間でやりましたよ」

 「そうか、やはり、クレーム編は駄目だったか。やはり従来の『詐欺編』にしよう」

 「わかりました。社長」

 「フフフ、私の目標は、日本中、いや、世界中を、ミナミ食品一色に染めること。なので、お店が潰れるのも仕方ないな。それはともかく、さっきクレームが来てな、『お前に教わった通りにやったら、店が潰れた!』と、来た。お前はどう思う?」

 「全く、クレームですか、くだらないものですね」

 「フッ、現に私達がやっていた物も、そのくだらないものじゃないか。ハハハハハハハハ」

 「確かに、そうですね。イッヒヒヒヒヒ」

 二人の笑いは、会社中に響いた。

読んでいただきありがとうございました

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