異世界転移拒否
とある学校の教室内。
次の授業を準備している生徒たちの前に突然魔法陣が出現し、その場に合わない服を着た女が現れる。
「せっかく転移を妨害したのにこうなったか」
「くやしいな、僅差で負けてしまった。気付いたのに」
「そんな、私が先を越されるなんて」
どうやらこの教室にいる複数人が事前に転移魔法が現れる事に気付いて対策しようとしていたようだ。
「呼び出しに失敗して逆に転送されてくるなんて珍しいんじゃない?」
「それだけレベルが低いということだろ」
「この魔法陣もうちょっとなんとかならなかったんだろうか」
「余計なリスクは有るし無駄な箇所が多すぎるし」
転移してきた女はようやく落ち着いたようで、立ち上がり周囲を見回す。
『ここは・・・』
『あんた転移魔法を失敗してこっちに来たみたいだな』
『王女にその言い方は失礼なんじゃない?』
『ん、女王だったか。調べときゃよかったな。まあこの程度の技量しかないなら大したことないんじゃないか?』
『基本的に王女は魔法使いとしては優れている場合が多いが、今回こうなった以上は実力不足は否定できないというところだろうか』
『ちょっと調べたが俺たちを呼ぼうとした理由は魔王が出たってだけだな』
『全く、魔王なんて頑張れば1人で倒せるだろ』
色々いい放題の生徒らであるが、王女は大きな疑問を持つ。
『あなた達何故私達の言語で話しているのですか?』
王女も生徒らも特に翻訳のための道具や魔法は使用していない。
『それがどうした?』
『複数言語なんて習得していて当たり前でしょう』
異世界の言語なのでどこで知ったのか謎だ。
『それはともかくもうじき授業始まるから帰ってもらおうか』
『それでは私達の世界が救われません。誰か1人だけでもいいので来ていただけないでしょうか』
『行きたくないな』
『時間の無駄だ』
『しかし向こうに戻ってもまた同じ儀式やるんじゃないだろうか』
『あのレベルだとまた同じ魔法陣でやりそう』
『また私達が巻き込まれると面倒ね』
『となると厄介か、仕方がない』
門前払いの状況だったが、結局生徒らが折れる形となる。
そして、クラス全員でじゃんけんが始まった。
『うー負けた…』
気弱そうな男子生徒が負けて、世界を救う役目を負うことになった。
「えーっと、これぐらいでいいか」
男子生徒が魔法を発動する。
『終わったよ』
『え、まだ向こうにすら行っていないのですが』
『空間干渉して魔王と幹部全部倒したから大丈夫だよ、確認も終ってるけどちょっとやりすぎたかも』
王女の世界は救われたらしく、男子生徒は席に戻っていく。
『魔王という存在がそんな簡単に倒せるなんて、実感がまったくないわ』
ここで10分の授業間の休みが終わり、授業開始のチャイムが鳴る。
『授業始まっちゃったから、転移魔法を使って帰ってもらいましょう』
ここで教師が入ってくる。
教師は一瞬王女の方を見る。
「あんたたち、早く席に着きなさい。そっちの片付けはやるから」
先生が魔法を発動し王女が消えた。
「先生魔法使えたんだ…」
「使う予兆がなかったってことはかなりの実力かも」
無詠唱魔法でも魔法を使うための準備はある程度必要なので、予備動作のようなものが発生する場合が多い。
しかしこの教師は魔法をいきなり使用したように見えた。
空間転移は位置指定の関係で構成が変わるため、魔法を事前準備していた可能性もない。
魔法の技術面で色々聞きたい生徒がかなりいるようだが、既に授業の開始時間。
何事もなかったように授業が始まる。
「起立、礼、着席」
「それでは今日は二次関数の続きを、そこ授業中に核兵器は作らない。国語と英語の先生からも報告が上がっています」
「え、気付かれてないかと思ってた」
「あれ、暗黒魔法の改良とかやってたけどまずかったか」
「しまった、核融合発電所の設計図とか描いてたの確実にバレてるな」