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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

破棄系

身から出た錆

作者: アロエ




栄えある王都の名門校にて、私は運命の人に出会った。


彼女は平民だったが、そんなものは気にならないほど素直でくるくると変わる表情がとても愛らしく魅力的な女性だ。


何から何まで完璧な劣等感を擽るような、男を立てることすら知らない私の婚約者とは大違いだった。私ではなく王妃の地位欲しさに存在する婚約者がいるから、愛しい彼女を迎えることができない。……しかし理解しなければならないこともあった。公爵家の後ろ盾がなければ私に王位など回ってはこないということ。


正妃たる母上が私を王とするためそのように根回しをしてくれていたから今、私は王太子として祭り上げられているということ。だが頭ではわかっていても心がそれを否定する。


上辺だけの私しか知ろうとしない公爵令嬢のどこを愛せよう。私に心の内も明かそうとしない、あくまでも政略的な関係であるとばかりの態度の彼女の、どこを愛でればいい。



そしていよいよ公爵令嬢が私の癒しであり、理解者であり、全てを包容するような力を持った愛しい彼女との障害にしか思えなくなってきたある日、いじめにあっているとの告白を彼女から受けた。


これは利用できるのではないか、そう私は思った。身分の高い令嬢が守るべき平民に嫉妬心を抱き、傷付けようとするなど言うまでもなく醜聞である。



母上の思惑も高慢知己な公爵令嬢どちらも潰せ、尚且つ私に傷のつかない良い策となろう。全て公爵令嬢が悪いとしてしまえば母上の怒りや苛立ち、憎しみもあちらに向く。



私は早速婚約者を嵌めるために情報をかき集め、方々へと罠を張り、場合によっては賄賂や脅しなどを行い策を講じていった。


そうしていよいよ断罪を目前に控えた、前日。



どんよりとした雲が空を覆い、今にも雨が降り出しそうな暗い朝だった。従者が用意してくれた洗面具で顔を洗い、日の香りがするタオルで顔を拭っている際、荒々しく扉を叩く音がし私は眉を寄せた。


どうやら父上より召集がかかったらしいと取り次いだ従者が告げた。こんな唐突に一族皆召集されるとはただ事ではないと私も早々に着替えを済ませ、王の間へと足を向け。


母上と私、それに側妃のマリィエル様と腹違いの兄であるエリオットとマーシャル。



この二人の兄は私より出来がよいとされ母上が毛嫌いをしていたために私も少なからず彼らを苦手としていた。彼らがいると母上の機嫌は悪くなるから。


チラと王と並んで席につく母上の表情を窺えばやはりどことなく芳しくはなかった。そんな母上など毛ほどにも気になさらずに王は口を開いた。この居並ぶもの達の誰でもなく私だけを睨めつけるよう、射殺さんばかりの厳しい眼差しが刺さるようだった。



「今朝、ガーネルダ公爵の娘、ルベンナが儚くなった。発見された時には既に手遅れに近い状態であり、部屋には遺書が残されておったと。賊などの可能性は極めて低く、その事により公爵家から我が王家へと抗議がなされた」



公爵令嬢が死んだ?


断罪を行う為に私がどれだけの労力を費やしたと思っているのかと、私は悲しみや喜びよりも先に理不尽な怒りを感じていた。


更に続いた父上の言葉もわけがわからない。何故公爵令嬢が死んで王家に苦言を呈するのか。まったくもって自分たちの娘一人きちんと把握できない、監督不行き届きが問題ではないか。



王家に罪をなすりつけようなど、仮にも公爵を名乗るものがしていいような行いではない。そう考えていた私の心を、否私以外にも母上なども顔を顰め不快感を露わにしていたが、それを打ち砕く発言を王は続けたのだ。


遺書は紙面上のものだけでなく記録石を数個、更にこちらから令嬢へとつけていた王家の影たるものらに調べさせた、非常に信憑性の高い調査結果を記した書類の数々、それらが揃い明らかになった事柄があった。


それは彼女の周りで彼女を私の婚約者から外そうとする動きの他、罪無き罪を被せようとあの手この手と様々なもの達が裏で工作をしていたこと。


傀儡となりうる次世代の馬鹿な王(私)を操り、国を裏から操り思いのままにしようと目論む輩。政敵は多かった。そしてそんな奴らは賢い彼女(未来の王妃)を疎んじ、機会があればここぞとばかりに排除しようとする。



それに気付かず彼女を庇うどころか、その内に私がいたこともそこには記されていたそうだ。彼女は知っていた。政略のためにと据えられた婚約者が色恋に狂い、自分を疎んじている事を。


公の場に引きずり出し私が断罪を起こし婚約破棄を強行しようと企て、策を練っていた事を。いずれは王となるものを支え共に歩むべき王妃となるのだと我慢し耐えてきた事。厳しくいいつけられ泣いた事。親や周りから愛などなく、全てできて当然と言われ続けた事。


そんな自分では望んでいなかった苦しみの中、唯一の光であった私にそのような事を考えられていると知った彼女は抗い生きていく気力、気持ちも何もかもを失って、失意の内に自らの命を絶ってしまったと。



嫌な汗が背中を流れた。



しくじった。彼女を悪役にし私と愛するあの娘は結ばれ祝福されるはずであったのに、これでは私たち、いや、私が悪者のようではないか。何が悲しかっただ、何が苦しかっただ。


私のことなど上辺だけしか見ていない、王妃の座だけしか頭になかったくせに。死んでまでこのような面倒を残し私を害しようなんて。なんて意地汚い女だ。



違います、私はそんな事など企てたりはしておりません。と、訴えようとしても揃えられた数々の証拠がそれを許さない。


綿密に、あの女を追い出そうと立てていた計画がそっくりそのまま自分に返り首を絞めるなんて。



結局、私は父王や母上、側妃や兄たちにまともな言葉を聞かせられないまま、自室にて沙汰を待つよう言われ部屋に戻された。


私を庇おうと何度か母上が口を開き加勢してくれようとしたのも見えたが、加勢するにしても私の分が悪すぎた。


母もまた何も言う事ができず、側妃や兄たちの視線に唇を噛みかけて必死に耐えているようだった。子の失態はそのまま母の失態に繋がる。わかっていたはずであったがそれをまざまざ見せつけられたのは堪えた。



それからあまりかからずに私は王位継承権を取り上げられ、王太子の座は私より兄に移った。


元よりその秀でた才から望まれていたと聞くがそこかしこで人々が口にする祝いの言葉や兄の治世に対する期待に途方に暮れ私がこれまで学び必死に築き上げようとしてきたものは何であったのかと心に影を差した。


母上も王妃の座から下ろされ、その実家も侯爵から子爵にまで下げられ側妃よりも低い位に落とされた母上は毎日泣き暮らしている。時折気が触れたように暴れては侍女や私や護衛に掴みかかったり暴力を奮ったりと王妃であった時よりも激しい癇癪を起こす。



私の愛した彼女は国王と様々な貴族達の怒りを買ったせいで生きながら地獄を味わわせるような刑罰にと身を窶しているらしい。


何人もの男を誑かし、令嬢や侍女や教師や店の売り子や……兎に角数えきれない人々の人生を狂わせ破滅に追いやった毒婦に相応しい悍しい狂気に塗れた罰を、被害を受けた者たちが報われるまで。


兄に子ができるまで私は牢に身を拘束されるがままだ。その後はどうなるのだろう。去勢か、彼女のように処刑されるのか。或いは飼い殺しにされるか行かず後家に婿に行くか。


……本当に、何故こうなってしまったのだろうか。


わからない。私にはわからないんだ。




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