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GANERATION・LIFE  作者: 紫堂花純
3/3

噂の湖

4



アルバーナ・サーカス団は昼の部と夜の部に分かれて公演している。

公演以外の時間は何をしているのか、大きく分けて三つある。

休息と練習、そしてリハーサルだ。

ゼロやリンは夜の部に講演するため、昼の部に比べ朝は若干遅い。


しかし、今日のリン、昼の部の団員達とほぼ同じ時間に目が覚めてしまっていた。

なんとかもう一度寝ようと試みるが、努力空しく一層目が冴えてしまったため、潔く寝床テントから這い出したしだいである。


「あー眩しいなぁちくしょーめ」


ぐっと背筋を伸ばしついでに二の腕も伸ばす。

さんさんと降り注ぐ太陽を浴びて


「……やっべシミできる」


と、ぼやいた。


昨夜の団長との口論は一時間続き、もう限がないと悟ったリンは、

団長の腹部に渾身の一撃を叩き込み、一人テントに戻って来たのである。


もしかしたら団長は今もそこらへんで伸びているかもしれない。


「あ~あの親ばか団長のせいで喉がまだガラッガラよ全く」


小さな声で毒づくと、同じテントからゼロが起きてきた。


「おはようゼロちゃん、昨晩はよく眠れましたか?」


「ちゃんはいらないよ」


 相変わらずのポーカーフェイス。


顔はもうしっかりと起きていて、あくびをする様子もなければ、寝癖の一つもない。


「まぁ、あんたみたいなストレートヘアに天パの気持ちなんてわからないでしょうけど」


「なに?」


「何でもない」


リンはそういって、昨夜帰ってきた時のゼロの様子を思い出した。


何も知らずに安らかな寝息を立てる。

寝ている時だけ見せる年相応のゼロの顔。

枕元にまだ湿り気のあるぬいぐるみ。


なぜだろう。

なぜだかすごく安心している自分がいたのだ。


「リン、僕の顔に何かついているの?」


「近いんだけど」と、そっぽを向くゼロ。

その様子を見て、なんとなくだが気づいたことがある。


「あんた、ちょっとずつだけど、変わってきたよね」


「僕が?」


「ええ」


今日もまた、厳しい日々が始まる。


けれど、必ず起こるであろう心の変化が楽しみだ。


「何にやにやしてるの?気持ち悪い」


「……まぁ、そのくらいの生意気は許してやるわよ」


その時まで面倒見るくらいならいいかと思ったリンであった。

ふとゼロ手首にあるバングルが視界に入る。


「気に入ったの?そのバングル?」


「え、別にそんなんじゃないよ」


 照れ隠しなのか、ゼロは右手首からバングルを外そうとする。

 しかし、


「っとれない」


「え?」


「とれないんだけどコレ」


 懸命に外そうとするがバングルはゼロの手首をくるくる回るだけで外れる様子はない。

リンも手を貸すがゼロの手首が赤くなるだけだった。


「これ確か昨日ゼロがもらったウサギについてたものよね」


「そうだけど」


「その時なにか言ってなかったの?外し方とか、一度つけると外れなくなるとか」


「何にも言ってなかったよ。もらうつもりもなかったし、リンが来てすぐいなくなっちゃったし」


 ゼロの声がだんだんと小さくなる。


「ゼロ、あんた大丈夫?」


 心配そうなリンの顔がゼロを込む。


ゼロの頭の中には昨夜あった男の顔がはっきりを浮かんでいた。


彼の眼を見たとき、自分と共通する何かを感じた気がしたのだ。

それは好奇心に近い何か。

しかし、今は恐怖があった。これ以上、関わってはいけないような。

このバングルをしていてはいけないような気がしてならなかった。


「おーい、お前たちー!」


 その時、朝食係の団員が慌ててこちらに駆け寄ってきた。


「どうしたの?そんなに慌てて」


リンが落ち着いてと彼の肩に手を置いた。


「リン! 食料泥棒がでた!」


「え?」


肩においたリンの手が離れる。

突然の出来事で口ごもるが顔面蒼白の団員を見て「ショクリョードロボー」と復唱してみる。


「あ、あぁ食料泥棒ね。えーっと、ねずみとかじゃなくて」


「違うよっあれは間違いなく人だって!

確かこっちに逃げてきたと思ったんだけどほんとに見なかったわけ?」


「嘘なんかついてないわよ、私とゼロしかまだ起きてきてないし」


「おっかしいなぁ~」


 頭を抱えあたりをキョロキョロ見渡す団員を見て、ゼロが「あ」っと口を開いた。

そういった‘出来事’に最近会ったばかりだったからだ。


団員は頭を掻きむしりながら、特徴を話し始める。


「あれはきっと男だな。で、ぼさぼさな頭で服装もなんか小汚かった」


「え、なにそれ思いっきり不審者じゃない?」


 うげぇ~っといやな顔をするリンに、「そうだろう?」と団員が答えた。


「方向は間違ってないと思うんだよなぁ。もしかして、湖の方へ逃げていったのか??」


それを聞くや否、ゼロは湖とは反対に走り出した。

その方面には厩舎がある。

馬で追いかけるつもりだ。


「ちょとゼロあんたが捕まえるつもりなの!」


 リンの声を無視し、ゼロは走っていく。

 団員は今思い出したと手をたたいた。


「リン、ゼロを追いかけたほうがいい。町の連中が話していたんだが、

湖にはあまり近づかない方がいいかもしれない」


「え、何かあるの?」


「噂では、この一遍は昔エルフの領土だったみたいでな、

奴らの守護獣のユニコーンの神殿の跡地なんだそうだ。なんでも願いを叶えてくれるとかなんとかね」


「それなら私も聞いたことある。願いを叶えるエルフの神獣のことでしょ?」


「それだけじゃねーんだよなぁ。生き残ったエルフがアダルクトになってタルクトにいいように働かされているほとんどが親を失った幼い子供たちだ。その子供たちの思念が漂ってるんだと」


それはまだ新しい戦後の出来事。


転々とする街で、見かけるのも少なくない

‘アダルクトとして生活している’かつてエルフと呼ばれていた者達。





馬を走らせ、湖に着いたゼロ。


「ねー!!いるんでしょーーー!!!」


団員の特徴からすれば昨日あった男に間違いない。

ゼロは注意深く目を凝らし辺りを探す。


そして、


「いないんでしょ?ゼロにも」


ぼさぼさで小汚い男でなく

ぬいぐるみをくれた、あの女の子が立っていた。

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