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GANERATION・LIFE  作者: 紫堂花純
1/3

開演

FIRST・LIFE

 

「よう少年、ソイツは俺からの餞別だ」


雲が切れ、月明かりが下町アルノイドに差し込んだ。


今日もいい夜だ。風が心地よい、こんな日には少しどこかに足を運んでからベッドに入るといいだろう。そう、例えば……このアルノイドには先日からサーカス団がテントを構えている。

 きっと、摩訶不思議なできごとが君たちを包み込み、夢の中でその続きを観せるだろう。


 サーカスのテントと聞いてまず頭に浮かぶのはあの特徴的な屋根だ。色とりどりの布を縦横無尽に波立たせ、ライトアップされている。入場口にはおしゃべりな鳥が2羽。緑と黄色の羽を大きく開き「よく来たぎゃー」「楽しんでってぎゃー」「足元に気を付けるぎゃー」「懐にも気を付けるぎゃー」などお客に声をかけている。

 そこから一歩中に踏み込むと、外見の大きさからは想像を超えるスケールの円形会場が広がる。客席は中央に向かうほど低く作られ、その先に見える演技場にぱっとライトが灯る。スモークが天井から広がり、

観客の拍手と歓声が飛び交う。


「お待たせいたしました!! ワタクシ共『アルバーナ・サーカス団』が今宵も皆様方を夢の世界へとお連れ致します!!どうぞ、最後まで楽しんでいってください!!」

 

 少ししゃがれた中年男性の声が響く。

 男性はスタイリッシュにお辞儀してみせるとスモークの中に消えていき、そこから一人の少年が飛び出した。会場が再び歓声と拍手に包まれた。




 

 全ての演目が終了すると、最高のショーを魅せてくれたスターたちを近くでみようと、その場に留まる観客も多い。


そして、今「少年」と呼び止めた彼もその一人である。


「……どうも」


餞別をもらった少年、ゼロは彼を見たまま動けずにいた。特別に怖い風貌や怪しい雰囲気を纏っているわけでもない。

ただ、今までに感じたことない、好奇心に似た何かが胸の中を蠢いていた。


どこかの丘で紫色の花が舞う。


この時二人は、「再会」を果たした。





「エルフ」と「タルクト」ふたつの種族に亀裂が生まれた。


この世界「ウィカルト」には、いくつもの種族が存在している。

それぞれの種族が国をつくり、均衡を保ち平穏に過ごしていた。


 その中で魔術により守護獣を具現化し自由自在に操る種族。そして力こそ他の種族に劣るがあらゆるものをつくり繁栄に長けた種族。

 

 この二つの種族は、互いの干渉を避け、独自に国を発展させていった。


 存在するものの中で生きる「タルクト」にとって、自らの力で生物や現象を具現化させる「エルフ」は脅威に映り、自己を守る力に長けた「エルフ」にとって、集団で身を守る「タルクト」は脆弱に映った。


 正反対の種族が隣接する領土であったことも理由の一つだ。

 決して相容れない二つの種族。


 そして、両国の均衡に亀裂が走った。状況は悪化の一途をたどり、争いの侵食は加速していった。

 

 エルフが生み出す知をもった魔物に、タルクトが特殊な対魔物兵器で迎え撃つ。

 激しい攻防戦は互いの村や町を飲み込み、ついには両種絶滅の危機にまで追い込まれた。

 それにようやく気づいた両国は、互いに兵を退き、安穏した日常を取り戻すことが出来た。


 そしてかつての争いの記憶が薄れ、この平和な日常が続くと誰もが当たり前に思い始めた頃。

 エルフ国の者が、タルクト国の者に襲撃を仕掛けたことを引き金に、怒りに染まったタルクト王は一夜にしてエルフ国を薙ぎ払ってしまった。


 生き残ったエルフたちは「アダルクト」と種族を改めることを強制され、タルクト国に引き取られることになった。


 その後、彼らの姿を見る者はいなくなり、悪い噂だけが国中に流れた。中には、タルクト王の目を逃れ、期を待つエルフたちがいるという噂もあるが、真相は誰にも分からなかった。


 これが、誰もが共通に認識している歴史である。今となっては、そのような出来事が起きたことなど感じさせることなく、待ち望まれた平穏が続いていた。


 繁栄に心血を注いだタルクト国は、王を失い閑散としたエルフ国領土を瞬く間に飲み込み、勢力を格段に伸ばしていった。

 その勢いは、他国も目を見張るほどの進展を見せた。


 丁度その頃、タルクト国に新たな問題が起きていた。主を失くし彷徨う魔物が、タルクトを襲う事態が多発していた。

 平穏な国に度々流れる不穏な声。

 そんな声を吹き飛ばそうと争いの後結成された集団があった。奇抜な動きと豪快なパフォーマンスで人々の興味を湧かせようと考えたサーカ団である。彼らは村や町を転々と移動し、人々に娯楽のひと時を与えていた。

 そしてこの下町・アルノイドにもアルバーナ・サーカス団が、今宵も盛大に人々を湧かせていた。

最高の夜明けを迎えられるように。


 「皆様お待たせいたしました~! 今宵最初のスタートを飾るのは、アルバーナ・サーカス団の花形スター! スナイパー・ゼロ!いよいよ登場です!」


 燕尾服に身を包んだ体格の良い男が両腕を大きく広げている。一目で団長とわかる男に観客からの盛大な拍手が送られる。

 団長は右上のゴンドラに目を向けると、七色のライトが少年・ゼロを照らし出した。

 長い黒髪を高く結い上げ、ロングブーツを履いた容姿の彼に観客席からの歓声と拍手は一層大きくなる。その体格に不釣り合いな黒いジャケットスーツが彼の性別をさらに惑わし、幼い少女にすら見える。

 そのせいか、観客の中には、ゼロを女だと思う者も少なからずいた。


「今宵も摩訶不思議な世界へご招待いたします。それでは参りましょう」


 言われたままの台詞を淡々と発したゼロに合わせて、どこからともかく金色の風船がゆらゆらと宙を舞う。ゼロはボウガンを構え、全てを撃ち抜いて見せた。


 パンッパンッパンッ


 風船が割れる乾いた音が鳴り、中から紙吹雪が観客席に向かって舞い散った。ゼロはゴンドラに設置してある空中ブランコに片足をかけ、逆さまになりながら宙に飛び込んだ。


「第一幕、地上曲芸!」


 団長の声で、新たに十人曲芸師が舞台に現れる。期待に胸を膨らます観客たちの視線を捉え、ゼロは大人顔負けの演技を披露するのであった。

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