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④おばーちゃんちのお隣さん。



 【……東内神(ひがしうちがみ)駅に到着いたしました。お降りの際は……】


 電車が駅に着いた瞬間、ダタッと飛び出した私は勢い良く階段を一段抜かしで駆け上がると渡り廊下を一気に通り抜け、そのままの勢いで手すりに手を当てながらタタタタと階段を真っ直ぐ駆け降りた。


 タッチパネルに定期を当ててピッ、と音を立てながら開く通せんぼ板ももどかしく、早く早くと焦りながら再スタート。通学カバンをイッチニ、イッチニとリズミカルに振り回し、厚ぼったい冬服の裾をバタつかせながら、駅から走って走って……




 「おばーちゃん! 目が見えるようになったってホントなの!?」


 勢い良く扉を開けておばーちゃんちに入った私は、


 「……顔の骨格と目鼻の間隔、唇上下左右のバランスから算定して、三等親以内のご親戚と判断しました。お孫さんですね」


 ……塾の先生みたいな格好した女のヒトに、いきなり査定された。


 「あのぉ……おばーちゃん、このヒト、誰……?」






 「もうぅ!! お隣さんが来てるってんなら先に言っておいてほしーんだけど!? ビックリするじゃん……」

 「千海(ちうみ)ちゃんはほんにあわてんぼうだからねぇ! もう少し落ち着いた方がいいんじゃないかぃ?」


 アハハと笑うおばーちゃんに文句を言ってみても、確かに私が悪いんだけどさ……ま、性格は直ぐに変わらないんだから、仕方ないでしょ?


 「お孫さんの千海さんは、高校生ですか」


 お隣さんの千乃さんは、ものっすごい美人なんだけど……何だかロボットみたいな喋り方をするヒト。それに話してからジッと私の顔を見る眼力が凄くて、何と言うか……頭の先っぽから爪先まで、分析されてるみたいで落ち着かないんだよね……。


 「そ、そうですよ? えぇっと、昭嶋のお隣の、太刀川(たちかわ)高校に行ってます。二年生なんですけど……」

 「太刀川高校は……共学ですね。好きなヒトは居ますか」

 「えっ!? い、居ませんけど……」


 いきなりそう言われて、反射的に言っちゃったけど……なんか、やりにくいなぁ……。


 「千海さんは、学校は楽しいですか」

 「楽しい……かなぁ? 部活もしているし、友達も居るから……楽しいと思うよ、うん」


 しっかし千乃さんって、凄くストレートに聞いてくる。背丈は私とそんなに変わらないけどさ、ギュッて詰まってる感じ。何がって……上手く言えないけど、中身が濃いヒトだよね。


 「じ、じゃあさ! 千乃さんは好きなヒトいるのかなっ!?」


 いひひ、逆に聞いたったよ! さぁ~て、何と答えるやら……


 「私は婚約者の浅井さんが居るので、他に好きなヒトは居ません。新しく現れる事も御座いません」


 ……うわっ、無表情のまんま、ズバッと即答されちゃった……し、しかも婚約者っ!? 大人だなぁ……お隣さんだけに?


 「ほら、空気乾いてるから喉が渇くでしょ? 千海ちゃんも何か飲むかい?」

 「……あ、だったらコーヒーがいいな。ミルクと砂糖入りでさ」


 千乃さんと話してるのを見てたおばーちゃんが聞いてきたから、ついそう言うと何故か千乃さんがサッと立ち上がり、迷う事なく冷蔵庫からミルク、食器棚からスティックシュガー、そして私の使ってるマグカップを取り出して、当たり前みたいにコーヒーを入れてくれて……いやいやそーじゃないっ!?


 「あのっ!! じ、自分で淹れますけれどっ!?」

 「この前お邪魔した時に一度見てポジションは全て把握していますので、ご心配無く。そしてこれは塩ではなくて砂糖です。大丈夫です。千海さんは砂糖一杯ですか、それとも目一杯ですか」


 うん……話を聞いてくれないヒトなのかな……それとティースプーンとおっきなレンゲを両手に持ってるのはジョークだよね?


 「千海ちゃんは昔からお姉さんがいたらいいなぁ、ってのが口癖だったからねぇ。よかったんじゃない?」

 「やだなぁ、そんな昔の事は忘れてたわよ……もぅ」


 おばーちゃんが恥ずかしくなる位にちっちゃな時の事を蒸し返すから、私は何となく俯いて、コーヒーの中身をグルグルかき回した……千乃さんが居るのに、全然気にしないんだからさ……ホント、困っちゃうよ。





 【……ねえ、おかーさん!! わたし……おねーちゃんがいないの、なんでっ!?】

 【……千海……無茶な事を言わないで……海人(かいと)のお姉さんはあなたなのよ?】

 【……わたし、じぶんがおねーちゃんでいたいなんて、おもったことないもんっ!!】




 ……はああぁ……幼稚園の頃は、友達のお姉さんが羨ましくて、ついついお母さんに無茶な事を言ったけど……今じゃ別に……


 「千海さんはお姉さんが欲しかったんですか。なら、私がなります」

 「いや、別に……今の、冗談ですよね?」


 何回見てもピシッとしたスーツ姿が似合ってる、真面目でキリッとした雰囲気の千乃さんだけど、すっごい真顔のまんまでそんな事をサラッと言っちゃうから……冗談に聞こえない。


 「いえ、かなり本気です。私は親類縁者では有りませんが、いわゆる義兄弟ならぬ義姉妹として居るならば、可能だと思います。遠くの親戚よりも近くの他人の方が義姉妹としてうってつけです」

 「やっぱり本気だったんですか!? ま、まぁ……うむぅ……」


 で、結局……よく判んないけど、差し出されたコーヒーカップに自分のを当ててカチンと鳴らしながら、私は千乃さんと【義姉妹】になった……って、ホントに良く判んないけどさ。


 「で、早速ですがスマホの仲間登録しましょう。早速のおねーちゃん命令です。おねーちゃん命令は絶対です」

 「おっ、おねーちゃん命令っ!? なにそれっ!!」


 おばーちゃんが大笑いする目の前で、私は千乃さんのスマホに自分のスマホを重ねながら、仲間登録したけれど……チラッと見えた待ち受け画面、結構カッコいい背広姿のヒトの姿が映ってた気が……浅井さんって、このヒトの事かな?


 ……で、何で私、おばーちゃんちに来たんだっけ?






 「博士、私は千海さんと義姉妹になりました」

 「……はぁ!? 千乃、何言ってんの?」


 俺は昼前に帰宅した千乃にいきなり告白されて、訳が判らず聞き返しちまった。直ぐに説明してもらって理解はしたが……やっぱり良く判らなかった。義姉妹とか桃園の誓いかよ……三國志か?


 「で、博士。どのような行動をすれば姉妹としての絆が深まるのでしょうか」

 「……絆? ……ねぇ。うーん、一緒に買い物に行ったり、ガールズトークしたりとか……かな」

 「了解いたしました。早速、千海さんと商店街に行ってきます」


 何となく返事すると、千乃はスタッと立ち上がり、迷う事無く玄関に向かうとポケットからスマホを取り出して、扉を開けながら話し始めた。


 「……はい、おねーちゃんです。……ええ、買い物です。……否定は受け付けません。おねーちゃん命令は絶対です」


 うっわ!! いきなり強硬だなぁっ!!


 「では商店街に行ってきます。四十五分後に帰宅いたします」


 とか言いながら出ていったが……千海さん、マジですまん。……まだ会った事無いけど。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 千乃さん、かわいい。 ……リアルにいて義姉妹だったら、困ってしまいますけど(笑)。 [一言] 続きを楽しみにしています。
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