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⑯兄妹対決!?



 人の姿も見当たらない団地の狭間を、【魔法少女ティンダロス】がノシノシと進んでいく。


 「でさ……どこら辺に居そう?」

 【博士なら真ん中の公園に居るよ】

 「団地の中じゃないの!? 何だか調子狂うなぁ……」


 見た目はヒラヒラとしたリボンをあしらった、白とピンクを基調とした甘ロリ系の衣装だが、見る者が見れば【魔法少女ティンダロス】の体型に若干の違和感を持つかもしれない。


 肩幅は同年代の女性と比べて、優に一回り以上は逞しく、そしてキュッと締まった足首から、ややほっそりとした下腿三頭筋を経てアスリート顔負けなヒラメ筋へと繋がるが……その要所要所に蓄えた筋肉の厚みは、尋常な量ではない。例えれば器械体操の選手を上回る、と言えば判り易いか。


 「……で、博士は何してるん? まさか……お散歩?」

 【違うと思う。ちょっと待って……あ、見えた】


 ティンダロスは複雑に中空を舞う電波から、コードの中を走る微弱な電気信号を読み取り、公園に向けられて設置された防犯カメラの映像を盗み見る。


 【……誰かといっしょだね。男……女? 細い奴だね】

 「助手のアンドロイドじゃないの?」

 【違うね……()()()()()()()()()。あんたと同じ生身だね】


 クネクネと体型を変えながら画像を解析するティンダロスだったが、最後の言葉を聞いてめぐみは目を瞑った。




 「……そっか。じゃあ、【戦闘員A】なのかな……」


 それだけ呟くと、めぐみは再び目を開く。




 「……お兄ちゃん、かもしれないんだ……」


 その瞬間、めぐみの身体は一気に加速し、公園を囲む鉄製の柵を軽々と飛び越すと音も無く着地した。




 藤棚と遊具がポツポツと周囲に点在する長方形の公園、その中心に白衣を纏った博士と、黒っぽい上下のスキンスーツに包み込んだ細身の男性が彼女達を待ち受けていた。



 【魔法少女ティンダロス】は、【戦闘員A】と向き合う。


 「……久し振り……おにいちゃん……」




 【戦闘員A】は、博士から離れると【魔法少女ティンダロス】の前に進み、呟いた。


 「……めぐみ……なのか?」




 【やーやー博士!! はじめましてこんにちは!! すげーすげー本物だよ!!】


 空気を全く読まないティンダロスは、珍しく興奮気味に喚きながら博士に近付くと触手(?)を伸ばし、ペタペタと身体を撫で回していく。


 「……いきなりフレンドリーだな!? あ、はじめまして博士です、って我ながら変な自己紹介だなぁ……」


 突然現れた相手ではあったが、博士は驚きもせず対応し、対峙する二人から離れてから、


 「さて……お噂はかねがね伺ってるよ? 【ティンダロス】さん」

 【わーわー!! 知ってんの!? すげーすげー嬉しい!!】

 「調子狂うなぁ……まぁ、知ってるって言うか、全身投影(フルダイブ)でネット接続してる知り合いから()()()()()()理解の埒外だって聞いてたんでね」


 思わぬ褒め言葉にクネクネと身を捩らせつつ、ティンダロスは喜びを全身で表現しながら、


 【わーわー!! 嬉しいな!! 博士からそんな言われてテンション上がる!! 知識の塊みたいな博士に言われたら妊娠しそう!!】

 「すんの!? いや……マジで?」

 【しないけど? うん、適当に言っただけ!!】

 「だよな……見た感じで判るけど……」


 暫しの間、興奮冷めやらぬ勢いで舞い上がっていたティンダロスはやっと落ち着いたのか、ようやく何時もの調子に戻ったようで、


 【あー、こんなに興奮したのは、ココに来て以来だなぁ。久々にニョキニョキしたなぁ!】


 妙な表現の応酬に、流石の博士も少々引き気味だったが、何とか彼も平常に戻れたようである。


 「……それが興奮してる感じだったんだ……流石は別次元の存在だなぁ」

 【……そこまで知ってるの?】

 「……まぁ、一応……まー、電子と実像の垣根を容易く飛び越す【超越者】なんて、初めてだけどさ」


 ほほぅ、と感心したように返答して、ティンダロスはめぐみの方に身体を伸ばしながら、


 【あー、向こうは向こうでヒートアップしてるみたいね。どーせ、おにいちゃん帰ってきて! とか言っててさ、いや帰らない、って繰り返してんだろーけど】


 あっさりと断定するが、あながち間違ってはいないようである。めぐみが手を振りながら郁郎に訴え続けているが、郁郎は応じようとはしない。


 暫くの間、堂々巡りのやり取りをしていたが、やがてめぐみは諦めたのか、静かに郁郎から離れていった。


 【交渉決裂だねー。で、次に取る行動って言ったら……】

 「まあ、実力行使だね」


 郁郎に背中を向けて肩を落としながらトボトボと歩いていっためぐみだが、突如足を止めると同時に振り返ると、


 「……だったら……拳で判らせるしか……無いよね?」


 力の抜けた虚ろな表情から一変し、口角を吊り上げて凶悪な面相になるや否や、バチンと拳同士を打ち鳴らしてから足を開き、薄い靴底を踏み締めながら構えを取る。


 「……噂には聞いてたけど、【魔法少女ティンダロス】って肉弾戦に特化した珍しい【超越者】なんだって?」

 【そーそー! 弓矢も使うけどさ、あれってタングステン製の矢尻を使ったバカ重い矢なんだぞ? 構えるだけでも普通じゃ無理なんだからね~】


 そんな世間話をする二人を余所に、めぐみは闘気を練り上げ高めていく。その気魄(きはく)は空を飛ぶ鳥を慌てさせ、草木に掴まる虫達も鳴りを潜めてしまう。更に高まる裂帛(れっぱく)の気合いが頂点に達した瞬間、彼女の背後に小さなクレーターが出来る程の衝撃波を生み出しながら驀進。


 「 お に い ち ゃ ん の …… …… ッ 」


 その勢いのままに叫びながら、郁郎の直前まで辿り着いためぐみが引手を捻りつつ、虎の掌の形を保ちながら……


 「 バ カ ァ ー ー ッ ! ! 」


 ……怒号に等しい叫び声と共に放たれた掌底が、接触範囲にじわりと滲む陽炎を生み出しながら全運動エネルギーを爆発させる。


 二人の間から文字通りの大気の波紋が広がり、団地の壁面で反響しながら上空へと抜けていく。その余波は建物のガラスを揺らし、小規模な地震に似た状態を発生させていくのだが……奇妙な事に、これだけの騒ぎが起きているにも関わらず、団地の住人は様子を見に来る事も無かった。


 しかし、そんな状況など我関せずとばかりに、めぐみは新たな打撃の応酬を始め、防御に回った郁郎の防御姿勢を揺るがさんと激しい連打を繰り出していく。


 「……ッ!? マジかよ……女子校生が出せる類いのモンじゃないぞ、たぶん……」


 その勢いで砂塵が巻き起こり、思わず顔を伏せて眼を細めてしまった博士に、ティンダロスが自慢気に話し始める。


 【でしょー? アイツの知らない内に、私が色々とネジ込んでるからねー。ブルース・リーに阿羅漢(あらはん)でしょー、それに少林寺とそれと……】

 「あー、うん……それって、もしかしてブルーレイ?」


 その無邪気さに相反する幾多の名前の羅列に、呆れながら博士が補足する。その言葉にワキワキと触手をうねらせながら、


 【そー! 強そうな戦い方を過去の映像から抽出して、めぐみが寝てる間に頭ん中へ直接流し込んだんだー。ついでに気脈と気功の操り方と経絡を開く方法とかねー】

 「……頭に直接って……もしかして()()使()()()()()()()()にインプリントしたのか?」

 【当たりぃ~♪ グリア細胞をフル活用したから思考に影響は無いと思うよ? 元がバカだから判んないけど~】


 次から次へとめぐみを【超越者】として改造した方法を説明するティンダロスだったが、博士はニヤリと笑ってから郁郎に眼を向けて、


 「奇遇だね……まさか【魔法少女】と【戦闘員】の作り方が同じだったなんて……ね」


 そう言った瞬間、めぐみの激しい攻勢を受け流すだけだった郁郎が、今まで見せなかった鋭い動きをすると同時に、初めて声を発した。


 「……めぐみ、強いね……」


 思わぬ言葉に一瞬動きを止めためぐみは、ややモジモジしながら構え直してから答えた。


 「……ふあっ!? そ、そうかな……?」


 そんなめぐみの様子に少しだけ頬を緩めた郁郎だったが、直ぐに真顔になると同時に、防御一辺倒の構えから攻撃重視の上段の構えへと変えて、


 「うん……強い。でも……俺の方が、もっと強いよ……」


 言葉と共に、先程めぐみが見せた掌底を引いて気魄(きはく)を籠める構えを取ると同時に、独特の呼吸を伴う大気を切り裂くような声が団地の壁面に反響する。


 【うわぁー! 同じ感じだね!? 凄い凄い!! ……でも何が違うの?】


 はしゃぐように身体を伸び縮みさせるティンダロスだったが、ピタッと動きを止めると博士に向かって疑問を投げ掛けながら、グイッと伸び上がる。


 「うん、めぐみさんは……良く判らないけど、たぶん生身の身体のままで無双の強さを手に入れてるんでしょ?」

 【そーだねー。魔法少女なんて言っても、中身は人間のまんまだからねぇ。じゃあ、あの子は違う?】


 鋭い指摘に頷きながら、博士はさも当然と言わんばかりに腕を組み、二人の間から巻き上がる強烈な風に耐えながら、答える。



 「まぁ、ねぇ……そりゃあ、詰め込めるだけの知識と技量をキチンと生かし切れる身体を用意しなきゃ……宝の持ち腐れだろ?」


 博士が言った瞬間、郁郎が目にも止まらぬ速さで真下から掬い上げるような鋭い掌底を放ち、それを顔面ギリギリの危うい間際で受け止めためぐみの身体が、蹴られたボールのように宙高く舞い上がった。


 「……見た目は人間、中身は別次元……【戦闘員A】のアルファベットはね、究極(アルティメット)のAなんだからさ……」


 得意気な博士の言葉を裏付けるように、郁郎が攻守を入れ換えてめぐみの落下地点へ跳躍し、両手を重ねながら前に突き出した。


 (……やばっ!! 防御が間に合わない……ッ!?)


 ガゴッ、と骨と骨が激しく当たる鈍い音が鳴り響き、着地した直後で反撃する余裕のないめぐみが、ゆっくりと公園の砂利に向かって崩れる直前、郁郎が抱えるように受け止めた。





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