表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼雷の高翔  作者: 氷華 青
30/31

音楽と友情

鈴蘭祭、二日目。昨日は、とても楽しかった。「妖怪探し」の運営などで、飛ぶように過ぎていった時間は、とても価値のあるものだったと思う。今日の午前中も、他のクラスの企画を覗いてみたり、自分のクラスの運営をしたりで、とても充実したものになった。だからこその、午後。どうせだったら、幸せで満たしたい。でも、この午後の時間には、それが遂行されるには不安要素が多いような、約束が待っている。それが、このステージ鑑賞だった。そう、「ライヴ」。弦歌には約束したものの、正直、嫌な思い出が所々にこびりついた、軽音楽である。聴いてみたい気持ちを、聴きたくない気持ちが、素直に通そうとはしない。とはいえ、複数のバンドの音楽を聴いた私は、安らかな気持ちに戻りつつあった。カヴァー曲ばかりだったので、盛り上がりやすい。もちろん、Daybreakのセトリがあのままであるなら、Daybreakを責めるつもりは一欠片もないのだと弁明しておく。オリジナル曲も、たまにはあってもいいと思うから。『小さな恋のうた』を演奏し終えたバンドは、ステージを降りる。そして、次に、Daybreakが上がってきた。弦歌がスタンドに取り付けてあるマイクを取り、話し始める。

「こんにちは。あたしたちは、『Daybreak』です!あたしたちの演奏を聴いてくださるために、こんなに沢山の方々が集まってくださったことに感謝しています。それでは、まず、メンバーと楽器の紹介をさせていただきます。まずは、あたし。美辻弦歌、ヴォーカルとギターをやっています」

確かに、体育館にいる人達は、校内生徒の三分の一はあろうかという数になっていた。話し終えると、弦歌は、少しギターを弾いた。かっこいい、とてもそう思った。とても難しそうな曲だった。拍手が巻き起こる。

「先ほどの曲は、『God knows...』でした。次に、彼」

「青澤天、ヴォーカルとギターをやっています」

天も、ギターを弾いた。とても、始めて半年も経たないとは思えない。こちらもとても難しそうな曲だった。また、拍手が巻き起こる。

「先ほどの曲は、『ロストワンの号哭』でした。続いて、彼」

「村田優詩、ベースをやってます」

そして村詩は、ベースを弾いた。この曲は、私にもわかる曲だった。またまた拍手が巻き起こる。

「先ほどの曲は、『Flamingo』でした。そして、彼」

「緋空夕辺、ドラムをやっています」

そして夕辺は、ドラムを叩いた。クラッシュシンバルの音が鳴り響き、スネアドラムやタムの音が鼓動を刺激する。拍手が巻き起こる。

「先ほどの曲は、『Don't say "lazy"』でした。最後に、彼女」

「佐倉心、キーボードやってます!」

心も、みんなと同じように楽器を弾く。惹き込まれるような、そんな音色だった。拍手が巻き起こる。拍手にも、表情があるような気がした。夕辺の時は、興奮して。心の時は、陶酔して。

「先ほどの曲は、『六兆年と一夜物語』でした。それでは、全員の紹介が終わったところで、一曲目を演奏させていただきます。一曲目は、『シュガーソングとビターステップ』!盛り上がっていこう!」

いつの間にか、丁寧語も忘れたような弦歌が、熱のある声で叫ぶ。いつもの弦歌とは、まるで、までとはいかなくとも、違う。夕辺を除くみんなが、一斉に弾き始め、夕辺が一小節後で叩き始める。すごい。いつ、こんなことができるくらいに練習したんだろう。少なくとも、私がいた頃より二倍は上手くなっている。洗練された、軽快な音が続く。天のヴォーカルが入る。私は、やっぱり、置いていかれてたんだ。既に会場は熱狂し、その渦に包まれながら、私は一人ネガティヴな思いを馳せる。これだ。これこそが、怖かったことだ。今、肌で感じている。私は、歌だけで勝負しようとした。歌なんかより、楽器の方が難しい。それなのに、簡単なことをしているはずの自分が曲を引っ張っていけていないことに、凄まじい劣等感を抱いていた。「私は、このバンドに合ってないんだ」と思うようになった。二番が終わる。村詩と天が向き合いながら、ギターやベースを弾く。苦しい。夕辺のドラムのビートよりも速く、胸の鼓動は早鐘を打つ。もうダメだ。聴きたくない。できない私が、ここにいる。下手くそな私が、ここにいる。思えば、陸上では、何の苦労もしなかった。自分なりに練習をすれば、必ず全国レベルまで登れたのだから。でも、歌は違った。バンドは違った。私は、無意識にバンドをなめていたのかもしれない。そうこう考えているうちに、苦しんでいるうちに、『シュガーソングとビターステップ』は終わってしまった。もっと余裕を持って聴きたかったが、私の性格上、無理なものは無理なのだ。

「続いての曲は、『This game』!」

あまり知らない曲なのか、ザワつく人もいる。大好きな曲なのか、ワクワクしている人もいる。聴衆の心を動かす、そんな演奏。すごい。鼓動はまだ速いままだが、ポジティブ思考はできるくらいになった。心のソロパート。いつも通り、ミスがない。弦歌の声が響く。弦歌の方が、私より上手いと思ったが、あまり落ち込むのはやめておいた。最後の高音ロングトーンもバッチリ決めて、弦歌は少し疲れたような顔を一瞬見せてから、すぐに集中したような顔に戻した。

「次の曲からは、オリジナル曲。あたしたちが、あたしたちなりの感性と言葉で書いた曲。まずは、『Shuttle』!」

「オリジナル曲」と聞いてザワザワしていた体育館も、弦歌の曲名紹介で静まる。私も、この『Shuttle』という曲は聴いたことがない。弦歌のギターが響く。難しそうなフレーズを、見事にノーミスで弾き切る。その顔には、達成感が溢れ出ていた。そして、弦歌は歌い始める。

「♪踏み出す一歩が 自分自身

後ろ気にせず ただ前を向け

歓声が沸く 全て味方に

眼中に火を 灯らせればいい

『いつものペースで』

なんてできないけど

キャンセル利かないから

デッドオアアライブ

生き残るため

ぶっ飛ばしていけ

練習じゃない

今ここで決めてやると勇気を

空気なんてないくらいに

ジャンプしてく

鳴る音軽快に打て!

一番のスマッシュを!」

それを聴いた私は、気づいてしまったのだ。彼女、弦歌が私にくれたメッセージに。なるほど。その瞬間、私の中で全てが繋がった。各フレーズの最初に発音する音をそれぞれ取っていくと、「風花がいなきゃDaybreakじゃない」になる。涙が溢れる。私は、すぐにでも、あのステージに立とうと思った。でも、天のことを思うと、行かない方がいいのではないかという気持ちも、拭いさることはできなかった。心の余裕もないまま、そんなこんなで、二番が始まる。

「♪研ぎ澄ませ頭 熱くならず

完全な不利? ひっくり返しちゃえ!

痛恨のミス 全て消し去り

暗闇に火を 灯らせればいい

『ひたすらに翔べ』

それが本望だけど

準備期間だから

ライトオアレフト

どっちを選ぶ?

迷ってる暇

あるわけなんかない

今自分見てる人に驚嘆を

葛藤なんてないくらいに

惑わせてく

シャトルをまた迎え撃て!

思い描く勝利を!」

二番にも何かメッセージがあるのかと探したが、なかった。でも、感謝の気持ちを私は忘れない。弦歌、みんな、ありがとう。

「♪I became bravely, but I felt alone

However there was my friends cheering me

Hey, my friends, did you know? Your being there

gave me the courage more,more,more!!

デッドオアアライブ

生き残るため

ぶっ飛ばしていけ

練習じゃない

今ここで決めてやると勇気を

空気なんてないくらいに

ジャンプしてく

鳴る音軽快に打て!

一番のスマッシュを!

シャトルをまた迎え撃て!

思い描く勝利を!」

英語のかっこいいフレーズもあり、とても楽しめた。もう、みんながDaybreakの虜だ。弦歌、すごい作詞作曲力の持ち主だ。こうなると、次の天の曲も楽しみだ。

「続いて、『Stand up, stand by me!』!」

少し、違和感があった。歌詞を、しっかり心に刻もうという気に、ごく自然になっていた。ドラムが派手に鳴り響き、ベースが鼓膜を心地よく叩く。そして、天が歌い始める。

「♪ねぇわかったから背負わないで

『気にしないで』って抱え込まないで

君がいなきゃ僕だって

何もできずただ暗闇に迷い込んでる

だけになっちゃうじゃん!

だから立ち上がってよ傍にいてよ

君だけなんだよ!

どれだけ考え込んでもどんなに

自問したって変わらないんだ

あの日さようならと言われた日の

紅く燃えた空

今もさあの日と似ている夕陽が

沈みそうだけど君はどうなのかな?」

やっぱり。天は、私を嫌いになってなんか、ないんだ。あれだけ、悪いことしたのに。ごめん。私が、悪かったね。ほんとに。今まで頬を流れていた涙の二倍の量が一気に流れ、もう止めたいとも思わなかった。嫌だとも、苦しいとも、思わなかった。寧ろ、清々しいと思った。あぁ、あのステージに行きたい。今すぐに行って、みんなと、同じ曲を奏でたい。

「♪僕に言われたって聞きたくないかも

しれないけれどちょっと聞いて欲しいな

君とならば僕だって

力貰う自信を持って立っていられる

強くなれるんだ!

だから上がってきてよ聴いてるだけじゃ

つまらないんじゃない?

それなら涙を拭いてよ今すぐ

マイクを持って!歌を聴かせてよ!

今も君の気持ちが変わらないなら

思い出してよ!

僕らの名前が決められた日の

始まりを告げる輝く夜明けを!」

天のこの歌詞は、許可なのか。それでも、今行ったって、先生に止められるのだ。どれだけ私に天の想いが伝わったって、あの教師たちには伝わらない。

「♪I say you stand up and stand by me

Only you for me!

なにを言われても世界に換えても

君以外なんて認めないんだ!

あの日『よろしくね』と言われた日の

輝いた夜明け

明日もさ夜空を照らし出す日が

昇ってくるけど君はどうなのかな?」

「ずるい………ずるいよ、天………」

私にあれだけ言われても、何の弱音も吐かずに、私に勧誘してきてくれる。それなのに、私は向こうに行けないなんて。必死で、弦歌を見る。そして、眼が合う。弦歌は、少し口の端を緩めたように見えた。

「続いては、最後の曲!最後の曲は、『Daybreak』。最後まで、盛り上がっていこう!━━━さて、ここでみなさんに提案があります。あたしたち、Daybreakは、もともと六人でした」

「………えっ?」

いきなり、何を。

「そして、今いないその一人は、この曲、『Daybreak』の作詞作曲を手がけました。でも、あたしは思います。この曲に一番思い入れのあるメンバーが欠けている今のDaybreakに、そんなに大切な曲が歌えるでしょうか」

初めのうちは、弦歌は聴衆を見回すように視線を移していた。しかし、話が進むと、いつの間にか彼女の視線は私に向いていた。

「この曲は、やっぱりあなたにしか歌えない。良かったら、今からステージに来て欲しい。出来る?」

私の答えは決まっていた。

「はーい!みなさん、こんにちは!私が、Daybreakの六人目、小鳥遊風花です!」

そうして、ステージに向かって走っていく。本当は、こんなに涙とその他でぐしゃぐしゃな顔をみんなに見せたくなかった。でも、私は、そんな顔を見せてでも、歌いたかった。Daybreakで、いたかった。体育館がこれまでにないくらいザワつく。

「それじゃ、いくよ!『Daybreak』!」

聴きなれたメロディが流れ、私は、少し収まりかけていた涙がまた溢れるのを感じた。そして、自分が歌うということを忘れそうになっていたが、すんでのところで間に合った。

「♪一人で全て出来るわけないから

私は全部なんて出来なくたっていい

『抱え込まずに背負わずでいいから』

そう言ってくれる人がまだいるよここに

果てのない暗闇さえ

私たちは歩めるさ勇み足で

ここから始まるbeginning

光をくれたrising

朝焼けを感じて私たちで

クリアし難い難題前にあれど

越えてゆけるさ越えるさ

輝くDaybreak」

声の調子は良かった。バンドを抜けてからも、毎日『Daybreak』を歌い続けていたからだろう。そして、二番に入る。二番の歌詞には、一番思い入れがある。

「♪君には全て賭けたっていいから

私の全部全部無くなったっていい

『明けない夜も止まない雨もない』

そんな言葉がなくても君がいるだけでいい

『がむしゃらに前に進め

振り返るな』自信を持たせてくれて

煌めく涙がshining

乾きますようにpraying

大切な人たちに届けばいいな

私の知らない今日へ過去を超えて

歩幅揃えて出来るさ

飛翔する群青に」

天とチラッと目が合う。バンドって、最高だ。心を合わせるって、最高だ。

「♪私例え今日に飽きて夜明けの時

待ちくたびれたとしても

変わらない私たちは

君でさえも大切な仲間なんだから

ここから始まるbeginning

光をくれたrising

朝焼けを感じて私たちで

煌めく涙がshining

乾きますようにpraying

大切な人たちに届けるよ今

私の知らない今日へ過去を超えて

歩幅揃えて出来るさ

飛翔する群青に

越えてゆけるさ越えるさ

輝くDaybreak

夜明けにまた逢おう」

最後の高音もしっかり決めて、一曲しか歌ってないのに、みんなと同じように拍手をもらう。みんなでステージの前方に立って、礼をする。

「ありがとうございました!」

みんなの顔を振り返る。そして、驚く。あのクールな弦歌が、泣いていたのだ。

「ふう、か、来てくれたんだ………よかっ、た。よかった………」

「弦歌、泣かないでよぉ!そうだ、私、みんなに謝らなきゃ」

そして、ステージを降りる。体育館には、私たちがバンド発表最後だったので、生徒たちはまばらだ。

「ほんとに、ごめん!私の所為で、Daybreakにどれだけ迷惑かけたか………」

「僕は大丈夫。それより、風花、来てくれてありがとう」

「うん。天、一番迷惑かけたね。ごめん。天の想いは届いたっ!私は、もう逃げない!」

「それで、いいんだ」

「私も!来てくれて良かった!」

「俺らの音が届いたんだな。良かったぜ!」

「風花がいてこそのDaybreakだからな」

「うん、みんな、ありがとう!ほんとにほんとに、みんなには感謝しかないよぉ!」

「ありがと、風花」

「あ、もう泣き止んだんだね、弦歌」

「あんまり言わないでよ」

「ごめんごめん。ねぇ、Daybreakの再始動を機に、みんなで写真撮らない?」

「いいね」

「いいぞ」

そして、私の掲げたスマホの後ろに、六人で集まる。

「はい、チーズ!」

綺麗に撮れた。

「ありがとー!」

みんなでお礼を言い合って、その日は解散した。今日の日は、死ぬまで忘れない。忘れたくない。そう思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ