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蒼雷の高翔  作者: 氷華 青
25/31

苦悩と福音

それは、僕と弦歌がギター練習を四回やった次の日だった。珍しく、チャットで風花に呼び出された僕は、窓の外に夕陽が煌めく学校に来ていた。

「やぁ、風花。珍しく僕を呼び出して、どうしたの?」

「天さ、弦歌とギター練習何日やった?」

「それは、二人きりでってことかな?」

静かに彼女は頷いた。

「四日分くらい」

「思い出して。この夏休み、私と二人きりになったのは、何日分か」

「い、一日………だね」

「それって、さ………私たち、付き合ってるって、言えるのかな………?」

言えると思う。それは、甘いのか。それとも、彼女が辛いのか。

「じゃあ、僕を呼び出したのって………!」

「うん、私から告白したのに、ごめん、やっぱり、別れてください」

僕は、自分を責めた。なんで、なんでもっと、彼女と一緒にいてやれなかったのか。いや、この表現では、まるで僕が上の立場に立っているみたいだ。だから、なんで、彼女と一緒にいなかったのか、が正しいのだろう。きっと、彼女は、待っていたのだ。僕の誘いを。彼女は彼女なりに、自分の夏休みを作り上げようとしていた。それを、僕は害したのだ。僕は、「Daybreak」のためと言えど、彼女と過ごす時間を、あれだけ楽しいと感じたにも拘わらず、無意識に避けてしまっていたのだ。

「風花が、そう決めたのなら、そうさせてもらう。ごめん、苦しめて」

「じゃあね、今まで、楽しかった」

彼女は、そう言い残して去った。嘘だ。何も、こんなところで虚勢を張らなくてもいいのに。一番身近なところで、僕に苦しめられている人がいたなんて。ショックを受けた。一度、決意したはずだった。彼女の悲しそうな眼を見て、決めたはずだったのに。とても後悔した。彼女の、苦しみの涙を思い出して。


Fuka『ごめん、クラブが忙しいから、バンド辞めたいです。ここまで一緒にやってきて、迷惑だとは思うけど、もう、続けられない』21:47

つるか『わかった。悲しいけど、そんな理由ならしょうがないね。クラブ、頑張って!』21:49

Fuka『うん………今まで、ありがとう』21:49

『Fukaが退出しました』


なんて酷いやつなんだ僕は。今まで「Daybreak」のために頑張っていたのに、そのせいで風花どころか、「Daybreak」にさえも迷惑をかけてしまうなんて。


それから僕は、ギターに更に打ち込むようになった。夏休みが明けて、隣の席の風花とは、ほとんど話さなくなった。彼女は、友達の女子や、煌輝とよく話すようになった。


実力テストがあった。全ての力を注ぎ込むことなど、できるはずがなかった。

実力テストが終われば、次は鈴蘭祭だ。あと二週間。鈴蘭祭のステージに向けた「Daybreak」の準備は、万全といえるものではなかった。ヴォーカルは抜けたし、そのショックでみんなのテンションは下がるしで、僕の所為で全てが崩壊してしまった。鈴蘭祭にはクラス企画というものもあり、ピンククラスは、「妖怪探し」にすることになった。といっても、妖怪に模した人形を作って、それを校舎中に隠すだけだ。その人形を二週間で作るのが、至難の業なのだが。僕は、「妖怪探し」をしに来てくれた人たちに、捜索に入ってもらうためのシナリオ作りをする、シナリオライターの役割をすることになった。昔から、文章を書くのが好きで、自分から望んだのだ。ただ、シナリオは、企画が決まった三日後に完成させた。だから、今は妖怪人形の作製を手伝っている。

「青澤君、井戸を手伝ってくれ!」

「大河君、了解!」

「大河、こっち来てくれ!」

「わかった!青澤君、あとは頼んだぞ!」

「げっ、まじっすか………」

僕は、元々工作が得意ではない。対して、大河君は、工作が大の得意なのだ。工作が得意というのは、とても羨ましいことだ。そんなことを思っていると、あることに気づいた。

「あ」

「ん、どした、天」

「忘れてた、クラス対抗能力対決の説明!勇、あとは頼んだ!」

「お、おい、天!」

勇に任せて、集合場所に急ぐ。

「すいません、遅れました!」

と言いつつ、メンバーを確認。クリムゾンクラスは、やはり光だ。スカイブルークラス、心。パープルクラス、日文。ネイビークラス、伊達。ビリジャンクラス、安定の知らない人。アドバンスクラス、こちらも安定、智楯君。

「遅いぞ、青澤。数学の授業中ならず、集合までも俺の邪魔をするのか?」

よりによって紺野先生が説明担当だなんて、僕もツイてない。

「いいえ、滅相もございません」

「口では何とでも言える。さて、ようやく全員揃ったところで、説明を始める。今回のクラス対抗能力対決は、『マキアー』」

「マキアー」、ギリシャ語で「戦い」。しかし、これだけでは、ルールがわからない。

「ルールは、簡単。いつものバトルイベントを、七人でバトルロイヤル形式で行うだけだ。しかし、協力は禁止だ。そのような動きを認識した場合、直ちに関係するもの全員を失格とする」

まぁ、当然だろう。少人数なのに、協力なんかされたら、見ている側はつまらないだろう。失格も食らうし、クラスの為にも、そんなことは絶対にできない。今回の僕の点数は、388点。Layer情報によると、智楯君は430点を超えているらしい。これは、策を講じないと。

「以上で、説明は終わりだ。解散」

直ぐに、みんなが机を離れる。こんな説明、面倒くさい以外の何でもない。ただ、クラスの為なのだ。「マキアー」そのものには、興味がある人ばかりだろうけど。教室を出ると、スマホが震えた。


つるか『今から、ちょっとした話し合いをしたいから、来れる人だけでいいからピンククラス前に来て欲しい』16:25


「天、これって………」

「うん。行こう、心」

そして、「Daybreak」五人が集まった。

「それで、話って?」

「みんな、だいたい予想はついてると思うけど、風花が抜けたことに関して話したい」

「だろうな。ヴォーカルがいないのはまずい」

「それで、ヴォーカルなんだけど………ドラムのヴォーカルは、難しいと思うから、夕辺はドラムに専念してもらって、あとは………」

「私、ヴォーカルはいいかな。キーボードに集中したい。それでいい?」

「うん。それで助かる。あとは、たぶん、一番やりやすいのは、ギターだと思うんだよね。村詩がやりたいならともかく」

「いや、俺もいい。俺は、ベースをできればそれで」

「オッケー。なら、あたしと天で回していく感じでいいかな?」

『いいよ(ぞ)!』

「えっと、じゃあ、『This game』と『Shuttle』はあたし、『シュガビタ』と天が書く曲は天が歌うってことで」

「了解」

「よし、今回五人で話すのはこれだけ。あとは、天、ちょっとだけ残ってくれない?」

「わかった」

「先に行ってるぞ、天」

「うん」

ピンククラス前の廊下は、僕と弦歌だけになった。

「あの、曲なんだけど………風花に向けての曲にできないかな?」

「いや、それじゃ、ダメだよ。風花は、あんなこと言ってたけど、本当は僕の所為なんだ」

「どういうこと………?」

それから僕は、弦歌にあの日の出来事を話した。


「なるほど、そういう事なんだ。でも、『Daybreak』を辞めたのは、たぶん天の所為じゃないと思うよ」

「え?」

今度は僕が疑問を持つ番だった。

「本当にクラブで忙しそうだし」

「いや、それは………」

「あと、訊いてみたんだ。風花に、なんで天と別れたのか、なんで『Daybreak』を辞めたのかって。そしたら、天と別れたのは、過ごす時間が少なかった所為だって言ってた。でも、『Daybreak』を辞めたのは、クラブに集中したいのと、あと、『自分だけが置いていかれてる』気がしたからって言ってた」

「そんなこと、ないよ。だって、風花の声は………!」

「うん、風花の歌声は素晴らしい。それは、『Daybreak』のみんなが認めてる。でも、まだ風花自身は、認めてないんだと思う。あたしたちに見合う歌声じゃないって。あと、こんなことも言ってた。『ギタリストとしての天は、尊敬してる』って」

その言葉、いや、福音と言うべきかもしれない、が僕の耳に入った時、それは僕の涙腺を崩壊させた。ゆっくり、ゆっくりと。

「僕こそ、風花を、尊敬していた。ずっと、感謝もしていた。もう一度、歌って欲しい。『Daybreak』のためにも」

「それを、歌にすればいいんじゃない?」

「そう、するよ。うん、やってみる。ありがとう」

「うん。楽しみにしてる」


それから僕は、弦歌に引き出してもらったその気持ちを、また仕舞わないうちに、大急ぎで曲を書いた。

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