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蒼雷の高翔  作者: 氷華 青
23/31

六人と午前

そして、その日はやってきた。ピックとノート、筆記用具に、それからギター。それらを持って車に乗る僕は、車窓(こう言ってしまうと電車の中みたいだが)の景色を眺めていた。いつも見ている、僕らの町の景色。それでも、敢えてスマホから目を離すと、こんなにのどかで美しい(美しいかどうかは人によるが)景色が広がっているのだと、改めて気づく。また一人で考えて、その考えにわざわざ一人でつっこむ。そんなことをしていると、待ち合わせの駅に着いた。

「ここでいいか?」

父に問われる。

「うん。ありがとう」

そして、車は去った。駅には、既に村詩がいた。

「いやぁ、駅の場所は知っていたが、こんなところまで来たの、初めてだぜ」

「え、そうなんだ」

彼は、もちろんギターを持っていた。

「村詩のギターはどんなの?」

「それは、後のお楽しみだ」

暫くして、駅に列車が到着した。僕らが、待ち望んだ列車だ。ただし、スマホでゲームをしながら。そして、駅から夕辺が降りてきた。


天『さっき三人集合したから、今から歩いて向かう』8:02

つるか『了解。こっちは女子三人ともいるよー』8:02


「よし。行きますかー」

「そうだな」

それから僕らは歩いた。

「っと、そうだ。弦歌の家に、ドラムあんのかな?」

「確か、あったよ」

「よかった。それがなきゃ、俺が行く意味がないからな」

「よし、ちょっと今から、クイズしよーぜ」

『いいねぇー』

「俺が問題出すわ。問題。『四君子』とは、菊、竹、梅と、何?」

「うーん………竹と梅だから、松?」

「違うな」

「なら、薔薇か?」

「それも違う」

「あ、わかった!蘭だ!」

「正解!」

「よっし!」

「………まぁ、はっきり言って、数打ちゃ当たる、だよな」

「………だね」

僕らは笑いあった。そして、一頻り笑った後、夕辺が切り出した。

「よし、じゃあ、次は俺が問題出すぞー。問題。『キリマンジャロの雪』、『誰が為に鐘は鳴る』、『老人と海』で有名な、アメリカ合衆国の小説家は誰?」

村詩が、「『誰が」の辺りで「はいっ!」と手を挙げた。

「お、村詩」

「ヘミングウェイ!」

「正解。まぁ、『誰が為に鐘は鳴る』は有名だもんな」

「僕は、村詩が手を挙げた時にやっとわかったよ」

クイ研は、みんな反応が早い。そうこうしているうちに、弦歌の家が見えてきた。

「あ、ここだよ」

「うわぁ、でけぇ」

インターフォンを押す。やはり、直ぐに弦歌が出てきた。

「おはよー、みんな。上がって上がって!」

「おう。お邪魔します」

「俺も、お邪魔します」

「今日もよろしく!お邪魔します!」

「天の上達ぶりが気になるなぁ」

「まぁ、楽しみにしておいてよ」

四人で二階に上がる。少し廊下を歩くと、そこには、やはりあの広い部屋があった。

「広っ!」

「いくら広いとは言え、広すぎだろ」

「だよねー。私も最初に入らせてもらった時、ほんとに弦歌の部屋か疑っちゃったもん」

風花と心は、もう練習をしていたようだったが、僕らが入ってきたのを見て、こちらに来た。

「まぁ、楽器好きだから、色々置きたかっただけなんだけどね。あと、一人娘だし」

「そうなんだ………」

「でも、楽器があるから、今の自分がある。兄弟がいなくても、楽器が兄弟だから、寂しいなんてことはないよ!」

「それに、僕らだっている」

「だね」

「いい事言うじゃん、天」

「まぁ、たまにはね」

「よしっ。全員集まったことだし、チューニングしたら、さっさと始めるよ!鈴蘭祭は、一ヶ月後なんだからね!」

「そうだね」

「『This game』は、私のソロから始まるから、頑張らないと!」

「うん。キーボード大事だから、頼んだよ、『ここ』!」

「『シュガビタ』は俺のソロだったな」

「夕辺も頼んだぜ!ベースの俺はまぁ、ずっと大事だな。頑張る」

「うん、二人とも、頑張ろう!」

「ねぇ、天。ここなんだけど、ちょっと合わせてくれないかな?」

「ごめん、まだ弾けないんだ。弦歌に確認してくる!」

「あ………うん」

このバンド、始まりだけで判断するのは少し危ないかもしれないけれど、上手くいく予感がする。

風花の歌声に男子も女子もみんなが魅惑され、夕辺のドラムや心のキーボードの上手さに驚き、弦歌のギターや村詩のベースに絶対の信頼感を抱き、僕も上達し、ハードだけど楽しい時間が過ぎ、三時間ほど経っただろうか。

「ふわぁ、疲れたぁ」

「だね。みんな、お昼ご飯ある?」

誰しもが、しまった、というような顔をする。

「近くにパン屋さんあるから、みんなで行こっか」

「いいねぇー」

「いいぞ」

「それはありがたい!」

「やったー!」

「弦歌、ないすぅー」

五人五色の反応。これがこのバンドの良さでもある。さて、そんな僕ら六人は美辻家を出る。

「いやぁ、ここ、絶対ミスしないねぇ」

「そんなことないよぉ。みんながいいから、私も調子いいんだよぉ」

「夕辺もすごいよね」

「姉さんが付きっきりで教えてくれたからな。そーゆー天も、上達早いな」

「僕も、弦歌先生の教えにしっかり従ったからね」

僕は、その時風花の顔が曇った気がしたのを、気に留めないことはなかった。

「さ、着いたよ」

正直、僕はパン屋というところに行った経験はあまりないので、どんなものか想像し兼ねた。だいたいの、パンが並んでいるだけの店内なのだろうという想像しかできなかった。しかし、店内に入った瞬間に広がるパンの美味しそうな匂いに、僕は、パン屋をなめていたと悟った。僕は、朝ごはんはほぼ毎朝白米を食べているが、実はパン派だったりする。ということもあって、僕はこのパン屋を楽園認定することになった。

「ふわぁ、いい匂い」

同じことを感じても、僕は心の中で考えを増幅させ、風花は声に出す。

「そうだね」

同意は忘れない。さっき風花の顔が曇った時の恐怖も、僕は忘れない。

「天、どんなパンが好き?」

「僕は、クリームパンが好きかな。風花は?」

「私も好きだよ、クリームパン!あとは、メロンパンと、チョコパン!」

「僕も」

「気が合って良かったぁ。パン、何にする?」

「どうしようかな。サンドイッチも好きだから、カツサンドにしようかな。あとは、クリームパンとメロンパン」

「結構食べるね。私は、メロンパンとチョコパンでいいかな」

風花が、何かを思い出したかのようにビクッとする。

「ねぇ」

「何?」

他の四人は、それぞれ男女にわかれてパンを選んでいる。

「あのさ、本当は、テスト前に言おうとしてたんだけど………」

「うん」

「今度、二人でどっか行かない?」

「もちろん!どこにしようか?」

「またチャットで決めよっか!」

「うん。そうしよう」

「ちょっとぉ、そこのラブラブカップルぅー?早く買わないと置いてっちゃうよぉー?」

『はぁい』

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