能力と翔球
昨夜は結局、誰かさんに机とごっつんこさせられたせいで疲れて21時に眠ってしまった。さぁ、今日は十教科全て受けなければ。いつもなら信じられないくらい早い始発の電車に乗る。学校に着いたのは、午前六時。そして十分後にテストは始まった。まずは、英語表現Ⅰ。五文型に少々手間取ったものの、何とか全て書き終えた。そして午前七時。英表終了。答案に若干の不安を残しつつも、次の古典に備える。また十分間が過ぎ、テストが始まる。『宇治拾遺物語』か。そういえば、習ったな。僕のモットーは、空欄を残さないこと。古典でもそれを達成し、午前八時。自分的には、いとをかし。いや、いとよろし、くらいかな。試験監督の先生と僕しかいない教室の黒板には、先程の英語表現Ⅰの点数が書き出される。93点。やるじゃん、自分。次は、数学Ⅰ,Ⅱ,A①だ。八時五十分、僕は驚いた。まだ三分の一が残ってる。僕は初めて、テストで空欄を作ってしまった。よし、「数学以外で」をモットーに付け足そう。古典は、83点だった。少し低いかもしれない。九時十分、コミュニケーション英語Ⅰ、つまりEC Ⅰが始まった。このテストは、担任の桃原先生が作ったらしい。あの人、こんなに難しいテストを作るんだ。辛うじてモットーは達成。ただし、まったくもって自信無し。そして、数学Ⅰ,Ⅱ,A①の点数が出た。79点。本当に、七九(泣く)。酷い。次の現代文こそは。小説好きな僕は自信を持った。が、気づいてしまった。あ、勉強してない。しかし、難なく現代文終了。ノー勉でよくあそこまで書けたと思う。ECは、案の定75点。気は抜けない。ここから、後半戦だ。十時十分、数学②。二次関数の基礎だったから、身構えていたほどではなかったので、安心した。十一時十分、化学を乗り越え、十二時、昼休憩に入った。現代文は87点、数学②は85点だった。午後の暗記教科で巻き返したいところだ。
暗記教科は、満足な出来だった。午前の化学、97点。現代社会、96点。生物、84点。世界史、95点。合計で、874点。焔君よりは高い点数だ。焔君は852点だと聞いた。そして四時十分。いよいよ、自分の能力が神話の中の一つ、二つ、もしくはそれ以上になることが決まる。僕は桃原先生を前にして、心臓の高鳴りを悟られないように努力した。そして。
「青澤天君。君は今回のテストで850点以上をとり、さらにこのクラスの最高成績者だった。素晴らしいよ。次も頑張れよ。さて、能力だが、スタンダードクラス6つの240人のうち、ベストスコアを出した者にはこの能力が与えられる━━━主神の力だ」
体に弱い電流が走った。かと思うと、それは全身に広がり、若干の痛みを与えてきた。が、それもすぐに収まった。そして、テストの疲労が一瞬で消えた。
「これが、ゼウスの力………」
「そして、850点以上をとった者には二つ目の能力が与えられる。君には、そうだな……うん、名前からして、これだな。ワタツミの力を与えよう」
「ワタツミ……日本神話ですね?」
「ああ。さあ、今日はこれでおしまいだ。帰ってもいいぞ」
「あ、はい」
ワタツミの力の体への反応がないことに疑問を抱きつつ、僕は教室を出た。ゼウスの力を得た。僕が物語の主人公ならば、物語はクライマックスのシーンだろう。でも、そんなはずはないので、僕の人生は続く。部室で着替え、荷物を持ち、体育館に入る。もう、みんな来ていた。僕はバドミントン部に所属している。折角なので、自分の力を試してみることにした。みんなは、自分の能力をバドミントンにも使う。もちろん、校内でだけだが。ということで、僕もやってみることにした。スタンダードクラスの友人、日野 昇輝は、普通に対戦すると勝てないものの、今回は能力戦。彼は以前、光の力を持っていると言っていた。目眩ましとかだろうか。僕は頭の中で戦法を構築した。主審の友人が試合の始まりを告げる。
「ラブオール、プレイ!」
サーブは僕からだ。後ろをめがけて高く上げる。いつもなら急いで後ろへ下がってスマッシュかドロップだが、さあ、どう来る。
「やぁ!」
予想通りのスマッシュだったが、僕はその直前、予想外の事実を目の当たりにした。なんと、彼は瞬間移動したのだ。呆気にとられた僕の横を、シャトルは鋭く通り過ぎていった。
「ワン、ラブ、日野」
「なるほどね」
そういうことか。彼は光の速さで動くことができる。ただし、最後まで体力はもたない。体力消費が激しいのだ。証拠は、最初の涼しい顔が一ポイント目から崩れたこと。だから、できるのはポイント間にせいぜい一、二回だと想定。日野君のサーブ。前に静かに来た。ヘアピンで返す。ただし、ただのヘアピンじゃない。正電荷を付与したシャトルでのヘアピン。そして、コートに負電荷を付与する。ただのヘアピンだと思っていたのだろう、日野君は能力を使わなかった。しかし、ネットを越えた瞬間、シャトルはなんの比喩でもなく、本当にコートに吸い付いて行った。
「ワンオール」
よし、使いこなせてる。能力戦では勝てるかもしれない。そして僕のサーブ。さっきと同じ手を使う。「フォールドロップ」とでも名付けようか。思った通り、能力を使う日野君。そして日野君は、ロブを打った。が、見上げてもシャトルは見えなかった。当たり前だ。シャトルは光速で軌道を描いたのだから。
「シャインロブ……」
誰かがそう言った。
「トゥー、ワン、日野」
日野君のサーブ。サーブは速かった。しかし、静の動作では光の能力はフルにでないのかもしれない、僕はコートと脚に負電荷を付与して間に合った。これからは「ダッシュボルト」と呼ぼう。そしてそのまま、フォールドロップで返す。すると、日野君は瞬間移動後、シャインロブを打ってきた。やはり、返せない。
「スリー、ワン、日野」
また日野君のサーブ。しかし、今度は上へ上がった。ただ、速い。コートと脚に負電荷を付与する。しかし、ダッシュボルトのように平面じゃなく、高さで動いた。つまり、跳んだ。 「ル・ヴォル・ブレケラヴノス」、日本語で、「蒼雷の高翔」。さっき考えたのだが、それがこの技の名前だ。ラケットに負電荷、シャトルにも負電荷。コートに着地。すかさずコートに正電荷。「雷霆スマッシュ」。信じられない速さだったのだろう。日野君は、まるで一ポイント目の僕のようだった。シャトルはまた、コートに吸い寄せられた。落雷のように。
「トゥー、スリー、青澤………」
主審も夢を見ているかのようだった。僕のサーブ。フォールドロップ。日野君はル・ヴォル・ブレケラヴノスを警戒して、ヘアピンを打ってきた。しかし、僕は、コートに正電荷を付与して、コートにシャトルが着かないようにする。取りやすいシャトルを、ロブで返す。シャトルの正電荷を大きく、大きくして。当然、そんなことをしたらコートから離れていく。日野君は自分が動ける範囲にしか、瞬間移動できないと思ったから、そんなことをしたのだ。慌てる日野君。コートのエンドラインギリギリで、コートに負電荷を付与する。シャトルはまた、雷霆の如くコートに落ちる。「サンダーロブ」。日野君は動けなかった。
「スリーオール」
五点マッチなので、あと二点だ。日野君にはまだ、隠された能力があると思う。それをなるべく引き出したい。僕のサーブ。サンダーロブで上げる。日野君は油断無しで瞬間移動で落下点辺りで構える。出来る限りの高速で落とすが、日野君はどうやったのか、サンダーロブに追い付いてスマッシュをしてきた。コートに正電荷。勢いを弱める。
「昇輝のプリズムアイだ」
試合を見ている浜辺 潮君が言った。ネーミングセンスは、いいのか悪いのか。みんなのショットのだいたいの名前は彼が付けた。
フォールドロップで返すが、プリズムアイからは逃れられなかったのだろう、日野君は瞬間移動で追い付いて、シャインロブを返して来た。またコートに正電荷。脚に超強正電荷で縦に飛ぶ。もう日野君は気づいただろう。自分が過ちを犯したことに。ル・ヴォル・ブレケラヴノス。瞬間移動はこのポイント間に二回使われた。日野君は見るからに疲れ果てている。もう瞬間移動は使えないだろう。大分高く跳んでいるので、こんなことをじっくり考えられるのだ。雷霆スマッシュか、カットでフォールドロップか。ここはギリギリに雷霆スマッシュ。やはり日野君は取れなかった。
「フォー、スリー、マッチポイント青澤」
「いいぞ、天!昇輝も頑張れよ!」
浜辺君の声が聴こえる。よし。ちゃんとした試合で勝てない分、ここで勝ってやる。まずはサーブ。フォールドロップ。日野君はヘアピンで返して来た。サンダーロブ。カットが返って来た。コートに正電荷。シャトルを少し浮かして、プッシュで応戦。フォールドロップの要領で高速でコートに落とす。日野君は瞬間移動で追い付く。しかし、僕はあることに気づいた。僕にはもう一つの力があったはずだ。空中の水分子の音がした気がした。それらは、僕に「今じゃない」と言っていたと思う。なんだよ。今じゃないのか。期待してた人もいたんじゃないか。失望から、はっとして、日野君のショットを見た。それは、ネットをギリギリ越すことができず、日野君側のコートに落ちた。
「ファイブ、スリー、マッチ青澤!」
僕はラケットを投げてしまいそうな勢いで跳び跳ねた。勝つって嬉しいなぁ。次は能力無しで勝ってみたいものだ。それからは、通常戦をした。色々な人と対戦したが、五戦中一勝四敗だった。




