表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪力男の現彼女と四人の歴代彼女たち  作者: 音無威人
あくまで序章に過ぎない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

ガチで気持ち悪い見た目のモテナイ様と実力者モテルンダ

「これが比翼連理の丘」

 使子(じぇるこ)の眼前に聳え立つは、対となる二本の大木だった。この木の頂上に丘がある。

「急いで登らないと」

 比翼連理の丘に行くためには、大木の周囲に生えている枝階段を登らなければいけない。その道は非常に険しい。

 頑張れ使子(じぇるこ)

「はい!」

 彼女は枝階段を登った。さすが天使大王の娘。登るのがめちゃくちゃ速い。……羽、生えてるんだから飛べばいいのに。

「無理です。これ飾りなんで」

 飾りだったのか。なんて使えない羽だ。宝の持ち腐れとはまさにこのこと。

 ナレーションだったら恥ずかしくて、天使とは名乗れない。名乗りたくもない。末代までの恥だ。

「それ以上言ったら、泣いちゃいます」

 ナレーションはお口にチャックした。でも喋る。だってナレーションだもの。

「おっとー、待ちやがれ。この先はモテナイ様が通さんぞ」

 ガチで気持ち悪い見た目の奴が来た。横レインボーイのルックスがいかにマシだったか、よく分かる。

「俺様は気持ち悪くなんかない」

 口から液体が飛んだ。それはそれは汚いツバだった。あれほど急いでいた使子(じぇるこ)の足を止めてしまうくらい汚い。

 近づくのもイヤ。これでは正午に間に合わない。どうする使子(じぇるこ)

「これでも食らえ!」

 おおっと、石を投げつける。よっぽど近づきたくないようだ。

「そんなもの効かん」

 徐々に距離を縮めるモテナイ。吐きそうになる使子(じぇるこ)。涙目になるモテナイ。完全に吐いた使子(じぇるこ)。涙が止まらないモテナイ。

 使子(じぇるこ)、絶体絶命の大ピーンチ。


「――レディを泣かすのは感心しないよボーイ」

 どこからともなく飛んでくるロープ。モテナイは拘束された。泣いているのは俺様だという声が聞こえたような気がするが、多分気のせい。

「誰ですか?」

 使子(じぇるこ)とモテナイの間に降り立つ一つの影。そこにいたのはカウボーイスタイルに身を包んだ美女だった。

「ミーはアメリカ生まれのカウガール、シバール。力男(りきお)の元カノさ」

 修羅場の予感。ワクワク。

「元カノが何のようです?」

 あっ、怒ってる。嫉妬むき出しだ。可愛いぞ使子(じぇるこ)ちゃん。

「ユーを助けに来たのさ。先に行きな。こいつはミーが引き受ける」

 シバールはロープを引っ張り、モテナイを転ばせた。グフッというむさくるしい声が聞こえる。近寄りたくないタイプだ。

 名前からして、いや見た目からしてモテないだろう。恋人がいたら神経疑う。

「俺様をバカにするなー!」

 なんとロープを力ずくで引きちぎった。モテナイは使子(じぇるこ)とシバールに近づく。

「いやぁ」

 使子(じぇるこ)、ドン引き。モテナイ、ガチ泣き。

「女の子を泣かせるとは感心しないよ、ボーイ」

 シバールは使子(じぇるこ)の前に立ち、腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。

「ウェスタンガン」

 轟く雷鳴の音。銃口から直線状の電撃が伸び、モテナイの体を直撃する。黒焦げになって、より気持ち悪い見た目になった。

「今のうちだよ、レディ。力男(りきお)の元に行きな」

 シバールは使子(じぇるこ)の背を押した。

「どうして助けてくれるんですか?」

「同じ男を愛した同志だから」

 使子(じぇるこ)の問いかけに答えを返し、シバールは二発目を撃つ。

「ありがとうございます」

 使子(じぇるこ)は頭を下げ、モテナイの横を通り過ぎ、頂上へと向かった。

「許さんぞ、お前らー」

 怒り狂ったモテナイはシバールに飛び掛った。

「くっ」

 モテナイの巨体はシバールごと枝階段をぶち抜いた。枝階段は崩れ、シバールは落ちてゆく。

「シバールさーん!」

「ミーのことには構わず、力男(りきお)を助けるんだ。レディ、あいつを必ず救ってくれ!」

 シバールの姿は見えなくなった。枝階段が地面に衝突した音が聞こえる。

「必ず……助けます」

 歯を食いしばった使子(じぇるこ)は先へと進んだ。

 ナレーションは非力な自分を憎んだ。実況しかできないことに、これほど腹が立ったことはない。

 見ていることしかできなかった。シバールが落ちてゆくのを。

 "私"はなんて無力なんだろう。






「ここから先を通すわけには行かない。我が名はモテルンダ。いざ尋常に勝負」

 二人目の敵が現れた。漆黒の鎧に漆黒の剣。只者ではなさそうだ。

「はっ!」

 避けるんだ! 使子(じぇるこ)!

「はい」

 使子(じぇるこ)は漆黒の剣をギリギリでかわした。怪我がなくて良かった。

「ほう、やるな。ではこれはどうだ?」

 剣が増えた。二本の剣を水平に構え、モテルンダは回転を始めた。まるで竜巻のごとき疾風の刃が枝階段を削る。

 当たったら確実に死ぬ。逃げるんだ使子(じぇるこ)

「遅い」

 漆黒の剣は、使子(じぇるこ)に迫りつつあった。使子(じぇるこ)のスピードでは逃げ切れないほどに。

 逃げて、逃げて、お願いだから逃げて。

「――お前がな」

 突然モテルンダの体が吹き飛んだ。いつの間にかツインテールの女の子がいた。黒マントを颯爽となびかせている。

「オレは遊びの達人、遊花(あそぼっか)力男(りきお)の元カノだ」

 お前もか!

「ま、また」

 使子(じぇるこ)は複雑そうな表情を浮かべている。素直に喜べないのだろう。

「我の邪魔をする気か!」

 憤怒の形相を浮かべているかもしれないモテルンダ。鎧をまとってるから表情が分からないのだ。

 でもナレーションは声のプロフェッショナルだから、声だけで感情が分かっちゃうのだ。すごいぞナレーション。

「おもしろい」

 全然分かってなかった。恥ずかしい。声から火が出そう。ファイアー!

「なんで燃えているんだお前は?」

 遊花(あそぼっか)が驚きの声を上げた。モテルンダが炎に包まれている。ホワイ?

 ま、まさか、ファイアーって言ったから? 新しい能力に目覚めてしまったとでもいうのか!?

「これが我の最強形態、真っ赤な鎧だ」

 モテルンダの能力でした。もうやだぁ。

「ナレーションさん、ふざけないでください」

 使子(じぇるこ)の目は冷たかった。ふざけてないもん。ナレーションしてるだけだもん。

「……」

 無言は止めて。そうしてふざけている間に。

「やっぱりふざけてるじゃないですか」

 遊花(あそぼっか)とモテルンダの戦いは始まっていた。

使子(じぇるこ)といったか。何をぼーっと突っ立っている。正午まで時間がないんだ。さっさと助けに行け」

 モテルンダの剣戟を、遊花(あそぼっか)は必要最低限の動作でかわしていた。強い。

「で、でも」

「助けたくはないのかアイツを」

「助けたいです!」

「なら行け。オレは強いから大丈夫だ」

 使子(じぇるこ)は迷うそぶりを見せた。迷いを振り払うかのように目をつむり、上に向かって駆け出した。

「それでいい」

 死ぬんじゃない。死ぬんじゃないぞ。遊花(あそぼっか)

「あぁ」

 置いていきたくはなかった。行かなければ、シバールと遊花(あそぼっか)の戦いが無駄になると思った。

 絶対に助けなければ。ナレーションは使子(じぇるこ)を追いかけた。



「お前じゃオレには勝てない」

 モテルンダは弱くはない。だがオレには遠く及ばない。

「悪いが、次で終わらせてもらう」

 オレは決着をつけるべく、右足を後ろに引いた。拳を握る。気力が漲るのを感じる。

 モテルンダが剣を振り回しながら、近づいてきた。隙が多い。

 ここだ! オレは右拳を放った。

拳拳波(けんけんぱ)

 鎧は壊れた。モテルンダは吹き飛び、地面に落ちていく。

「オレも上に行くか」

 足が沈んだ。なんだ。何か熱い。

「なっ、枝階段が燃えているだと!」

 視線を下に向けると、鎧を着ていないモテルンダが目に入った。まさか、燃える鎧を投げたのか。

 死にそうになっている身で。敵ながら、なんて天晴れな奴だ。

「オレもここまでか」

 伸ばした右手はどの枝にも届かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ