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怪力男の現彼女と四人の歴代彼女たち  作者: 音無威人
あくまで序章に過ぎない
10/10

未来に幸あらんことを

「新郎は新婦を愛することを誓いますかでごわす」

「誓います」

「新婦は新郎を愛することを誓いますかでごわす」

「誓います」

 力男(りきお)使子(じぇるこ)の結婚式が始まった。ゴワスが神父の真似事をしている。

 シバール、遊花(あそぼっか)、マージョ、カンフは晴れやかな笑顔で、新郎新婦を祝福していた。そこに悲しみは見えない。

 突然、比翼連理の丘が光を放った。光の玉が、枝階段を伝って降りてくる。その光は人の形を成した。

 光が晴れると、木のツルを体に巻いた茶髪の女の子が現れた。

《我も祝福しよう。そなたたちの愛は永遠なり》

 この声は比翼連理の丘の守護神。女の子だったのか?

「ありがとうございます」

 使子(じぇるこ)は微笑んだ。その笑顔は見る者を温かくさせるものだった。

《そなたらの未来に幸あらんことを》

 彼女は祝福の言葉を授け、比翼連理の丘へと戻っていった。


「誓いのキスをするでごわす」

 二人は恥ずかしそうにしている。ダサ男が小さい声で、「バカ、それは飛ばせ」と言っているのが聞こえた。

「ミーたちは大丈夫だよ。ね」

 てめえがそう言うならとダサ男が引き下がる。なんで"私"はダサ男と手を繋いでいるんだろう。

「お主から繋いでたぞ」

 マージョの言葉に頭が真っ白になった。まさか、ありえない。

「何言ってるね。今も自分から握りに行ってるあるよ」

 カンフが指差す先には、ダサ男の手をぎゅっと握り締めている少女の手があった。

 ナレーションは空を見上げ、天気がいいなと現実逃避した。それくらい衝撃的だった。

「手を離す気はないみたいだな」

 遊花(あそぼっか)がニヤリと笑う。違うぞ。繋ぎたくて繋いでるわけじゃないからな。

「てめえはツンデレか」

 ダサ男は呆れていた。見下ろされているのが恥ずかしい。

「そう言えば、篭狼(こもろう)殿、男女の理想の身長差は十五センチらしいぞ」

 うっかり測りそうになってしまった。絶対気づかれてる。ニヤニヤするんじゃない、モテルンダ。

「可愛いです。ナレーションさん」

 使子(じぇるこ)も微笑んでいた。誓いのキスは?

「終わりました」

 いつの間に。見逃してしまった。悔しい。

「大丈夫ですよ。私がばっちりと撮影しておきましたから」

 ウワンがにこやかな顔で、カメラを指差していた。後で現像してもらおう。

「次はブーケトスの時間でごわす」

 ピリと空気が張り詰める。シバールたちは戦闘態勢に入っていた。誰にも渡さないという気持ちがひしひしと伝わってくる。

 モテルンダも構えていた。手には剣を握っている。なんか怖い。ブーケトスってこんなんだったっけ?

「お、おぉ」

 ダサ男はめっちゃ引いていた。モテナイ、ゴワス、通せん坊は体をぶるぶると震えさせ、怯えている。

 ウワンだけが恍惚とした表情を浮かべていた。変態かな?

「あいつは女同士の争いが好きで堪らないんだよ」

 ダサ男がこそっと教えてくれた。はぅ、耳がヤバい。

「あんま煽んな」

 煽っているつもりは断じてない。はっ、煽られるということは、私に女を感じている? だとしたらすごく嬉しい。

「やりにくいったらありゃしねえ」

 ダサ男はなぜか頭を抑えている。手を伸ばしてみた。よしよしと撫でる。盛大なため息を吐かれた。なぜだ?

「イチャつくのはそれくらいにするでごわす」

 イチャついてなんかない! あっ、みんなニヨニヨしてる。その顔、止めて。恥ずかしい。

「はぁ、こっちのことは気にすんな。英雄の彼女さん、さっさとブーケを」

 使子(じぇるこ)はポイとブーケを放り投げた。その場に似つかわしくない衝撃音が響く。

「ブーケはミーが貰う」

「いや、オレのものだ」

「わらわに寄越すんじゃ」

「誰にも渡さないね」

「我が貰い受ける」

 ブーケトスは戦場と化した。一体誰が、ブーケを勝ち取るというのか。

 おおっと、ブーケが争いの余波で飛ばされた。その先には一人の少女がいる。

「ほう」

 ダサ男は、ニタリとした笑みを浮かべている。ブーケは"私"の手の中にあった。参加してないのに。

 彼女たちは怒ってるんじゃ……。あれ、怒ってるどころか笑ってる。くっ、生温かい目だ。

「どうする?」

 興味があるのかないのか分からない平坦な声だった。どう返せばいいのか分からない。

 無敵のナレーションが口を噤むことになるなんて、由々しき事態だ。

 とりあえず抱きついてみよう。

「なんでだよ」

 頭をぽかんと叩かれた。痛い。

「とりあえず離れろ」

 手も離れてしまった。悲しい。また繋いでくれた。嬉しい。

「俺のこと好きすぎんだろ」

 ダサ男の胸をぽかぽかと殴る。繋いだ左手が熱かった。

「なんか悪いな」

 なぜかダサ男は、シバールたちに頭を下げている。彼女たちは気にしないでというように手を振った。

「ミーたちのことは気にするな。ナレーションが幸せなら、ミーたちも嬉しいからね」

 分かってしまった。ダサ男が頭を下げたわけが。

 なんてことだ。彼女たちの気持ちを考えず、浮かれてしまった。申し訳ない。

「気を使われるほうが逆に傷つくね。私たちは大丈夫ある。ナレーションは幸せな家庭を築くといいね」

 カンフにぽんぽんと頭を撫でられる。ダサ男との未来を想像してしまい、嘔吐にも似た症状を覚えた。

「何でだよ」

 ダサ男、子供の名前は絶対に"私"が決めるからな。

「結ばれる気満々かよ」

 ブーケを受け取ってしまったから仕方ない。結婚しなければいけないのだ。

「結婚すんのはいいけどよ、その相手が俺である必要性はあるか? ないよな。てめえを可愛いとは思うが、好きかどうかは別問題だろ」

 その通りだと思った。ダサ男は好きなんて言ってない。自分の気持ちを押し付けていた。どうして結婚できると思ったのだろう。

 自分がイヤになる。手を繋いでいるのが辛くなった。離れた分の距離が、"私"とダサ男が相容れないことを示しているようで、心がズキズキと痛んだ。

「ナレーションさんを傷つけるなんて許せません」

 使子(じぇるこ)は怒っていた。ダサ男に詰め寄る。

「俺、てめえに惚れてるって言わなかったっけ?」

 彼女は瞬間移動並みのスピードで、力男(りきお)の後ろに隠れた。

「安心しろよ。嘘だから」

 嘘? 何でそんなしょうもない嘘を。

「目的を達成するまでは、動機を明かすわけにはいかなかったからな。結婚式を壊す理由になる、それっぽい嘘をついたんだよ」

 なるほど。つまり好きな人はいないと。

「目を輝かせるな。言っとくけど、俺はてめえと結婚するつもりはねえ」

 せっかくブーケを受け取ったのに。女の子を悲しませる趣味はないって言ったじゃないか。

「だからこそてめえと結婚するわけにはいかねえんだよ」

 ダサ男の言っている意味はよく分からなかった。"私"との結婚が、なぜ女の子を悲しませることに繋がるのだろう。

「いずれ分かるときが来るだろう。今はまだ知らなくてもいいことだ」

 ダサ男は"私"の頭をぽんぽんと撫でた。複雑な気分だ。

「さて皆様、俺の身勝手なわがままに付き合ってくれて感謝する。俺も願っているよ。皆様の未来に幸せがあることを」

 ダサ男は遊花(あそぼっか)に視線を合わせた。どこか悲しげに見える。ツキンと、胸に痛みが走った。

「妹をよろしく」

 ダサ男はシバールたちに頭を下げ、背を向けた。

「行くぞ、てめえら」

 彼の後にウワンたちがついていく。行かせてはならないと思った。嫌な予感が頭から離れない。

「ダサ男!」

 振り返りもせず、ダサ男はひらひらと振った。

「さようなら」

 ダサ男たちの姿は見えなくなった。空気が静まり返る。不自然な様子が気になった。

「よろしくってどういうことだよ兄貴」

 遊花(あそぼっか)の声が力なく響いた。


 後に"私"たちは後悔することになる。ダサ男をムリにでも引き止めなかったことを。

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