リスのシマキチと王冠
山奥の森の中に、リスたちだけが住む村がありました。
「腹減ったなぁー。ドングリないかなぁー」
リスのシマキチは、食べ物探しが下手でした。だから、いつも腹ペコです。
この日も食べ物を探していましたが、見つかりません。諦めて巣穴に戻ろうとしたとき、草むらの中に光る物を見ました。
シマキチは草むらに入って、それを拾い上げます。
それは、丸くて、金色をしています。周りはギザギザしていて、裏には、薄い木の板が貼り付けてありました。
「何だろう?」
これは、瓶の蓋として使う王冠でした。しかし、シマキチはこれが何かわかりません。
シマキチは、王冠を持って帰って、リスの村の長老に聞くことにしました。
シマキチは王冠を長老に見せて尋ねました。
「これは何でしょう?」
長老は王冠を隅々まで見て答えました。
「わからん。見たことも無い物じゃ」
シマキチは他のリスにも聞いてみますが、誰もが「わからない」と答えます。
シマキチは王冠を持って、すごすごと巣穴に帰りました。
シマキチが不思議な物を持っていると聞き付けたコビタが、シマキチの巣穴を訪ねて来ました。
「シマキチ、変わった物を持ってるんだって! 見せてくれ」
シマキチは王冠を取り出し、コビタに見せました。
コビタはしばらく考えた後、言いました。
「何だろう?」
「皆、わからないって言うんだ」
「そうか、誰もわからないのか。でも、綺麗だね。僕にくれないか?」
シマキチが「えっー、ダメだよー」と言った途端、お腹がグーと鳴りました。
「シマキチ、お腹が空いてるの?」
「何も食べてないんだ」
「じゃ、それとドングリを交換しないか?」
シマキチは少し考えて答えました。
「それならいいよ」
コビタは、王冠を持って自分の巣穴に帰りました。そして、ドングリ1個を持って、シマキチの巣穴に戻ってきました。
ドングリを受け取ったシマキチは、お腹が少し膨れました。
次の日、いつものように、シマキチは食べ物を探しに出掛けました。でも、食べ物は見つかりません。
「今日もダメかー」
諦めて巣穴に戻ろうとしたとき、草むらの中にまた王冠を見つけました。今度は2個ありました。
シマキチは、2個の王冠を抱えて帰る途中、流行好きのムサジに会いました。ムサジはドングリ1個を持っています。
腹ペコのシマキチは、ムサジに王冠を見せて「これとドングリを交換してくれないか?」と、お願いしました。
「そんな物いらない。だって食べられないもん」
ムサジは素っ気なく言うと、去っていきました。
シマキチはしょんぼりしながら巣穴に戻ると、オシャレ好きのモモが待っていました。
「コビタに金色の綺麗な物を見せてもらったんだけど、それはもう無いの?」と、モモは聞いてきました。
「これかい?」
シマキチはそう答えると、2個の王冠を見せます。
モモは2個のドングリを取り出して言いました。
「それ1個とドングリ2個を取替えっこしよう!」
シマキチは喜んで交換しました。だって、ドングリ1個としか交換できなかった王冠が、ドングリ2個と交換できたのですから。
次の日の朝、シマキチが巣穴を出ると、木の下でムサジが待っていました。
ムサジはシマキチに尋ねます。
「昨日持っていた金色の物、まだ有るかい?」
「1個だけだけど、有るよ」
「ドングリと交換してくれないか」
「昨日、『いらない』って言ってたじゃないか」
「コビタとモモが見せびらかすもんだから、僕も欲しくなったんだ」
「でも、1個しかないし……」
シマキチが渋ると、ムサジは「モモとはドングリ2個と交換したんだろう。僕はドングリ3個を出すよ」と、言い出しました。
「本当にドングリ3個と交換してくれるの?」
「本当だよ」
ムサジはそう言うと、ドングリ3個を差し出しました。
シマキチは、王冠1個とドングリ3個を交換しました。
シマキチは受け取ったドングリを巣穴にしまい、食べ物探しに出掛けました。だけど、今日も食べ物は見つかりません。その代わり、また王冠を1個拾いました。
(どうして、食べ物を見つけられないのだろう。見つかるのはこればかり……)
今日も、シマキチは王冠だけを持って巣穴に帰ります。でも、今日は巣穴にドングリがあるから、腹ペコでも少し安心です。
帰る途中、今度はコビタに会いました。
「シマキチ、今日も拾ったのかい?」と、コビタはシマキチの手にある王冠を指しながら言いました。
「そうだよ。食べ物は見つからないのに、こればかり見つかるんだ」
「また、それとドングリを交換してくれないかな」
「一昨日、交換したじゃないか」
「実は、友達にどうしても欲しいと言われて、ドングリ4個と交換したんだ」
シマキチはびっくりしました。ドングリ1個と交換した物が、4個と交換されていたからです。
コビタは、シマキチの様子を気にすることなく言いました。
「1個と交換してとは言わないよ。今度はドングリ5個と交換しよう」
「それじゃ、コビタが損するじゃないか」
「損かもしれないけど、欲しいんだ」
シマキチは、損をしてまで欲しいと言うコビタに驚きました。しかし、コビタは、損するとは限らないと考えていたのです。今度は、王冠1個がドングリ5個以上と交換できるかもしれないと思っていました。
シマキチがコビタに王冠を渡すと、コビタは「後でドングリを巣穴に持っていくよ」と言って、帰って行きました。
その日の夜、シマキチの巣穴には、ムサジと交換したドングリ3個と、コビタと交換したドングリ5個がありました。
シマキチは8個のドングリを見ながら考えます。
(僕がドングリを探しても、なかなかこんなに集まらないよな。だったら、食べ物を探すより、あの金色の物を見つけて交換する方がいいんじゃないだろうか)
次の日から、シマキチは食べ物を探さず、王冠を探しました。
シマキチは王冠探しの才能があったようで、王冠はほぼ毎日見つかり、拾う数も今までより多くなりました。
シマキチは、拾った王冠全部をいっぺんに交換することはありませんでした。必要な分のドングリを得られれば、それ以上の交換はしませんでした。
初めは王冠1個とドングリ5個を交換していましたが、次第に6個、7個と増えていき、王冠1個とドングリ20個を交換するようになっていました。
白地に青い星のマークが描かれた王冠を見つけたときは、皆が珍しがって取り合いになり、ドングリ100個と交換したこともありました。
王冠を見つける前のシマキチは、いつも腹ペコでした。しかし、王冠を交換するようになってからは、腹がはち切れそうになるまで食べました。
そんなに多くを食べるようになっても、王冠は巣穴に溜まっていきました。
少ない王冠で、たくさんのドングリが手に入るようになり、毎日拾う王冠が使い切れず、徐々に余っていったのです。
その結果、シマキチの巣穴には、王冠の山ができました。
シマキチは、王冠の山を見て思います。
(これを全部交換すると、どれだけのドングリになるだろう。もう、ひもじい思いをすることは無くなったんだ。これは宝の山だ)
シマキチにたくさんのドングリをもたらしてくれる王冠は、シマキチにとって、何よりも勝る宝になっていました。だから、シマキチが王冠の山を宝の山と思うのも、当然だったのです。
王冠が多くのドングリと交換されるようになると、王冠探しを始めるリスが出始めました。シマキチほど多く拾えるリスはいませんでしたが、そのリスたちが拾った王冠は、どんどん交換されていきました。
ある日、お腹が減ったシマキチは、水玉模様の王冠を持って巣穴を出ました。
そして、たびたび王冠をシマキチから手に入れていたムサジの巣穴を訪ねました。
「ムサジ、居るかい?」
「何だい? シマキチ」
シマキチはムサジに王冠を見せて言います。
「これとドングリを交換して」
「もう交換はしないよ」
「何でさ、集めていたじゃないか!」
「だって、たくさんあるんだもん」
ムサジはそう言って、巣穴の中をシマキチに見せました。そこには、たくさんの王冠がありました。
シマキチはムサジとの交換を諦めて、美しい王冠が好きなモモの巣穴に向かいました。
「モモ、居るかい?」
「シマキチ、何か用なの?」
シマキチはモモに王冠を見せて言います。
「これとドングリを交換して」
「要らないわ」
「何でさ、よく見て。綺麗だろう!」
「綺麗だけど……。飽きちゃったの。だから要らない」
そう言われたシマキチは、モモとの交換を諦めました。
次にシマキチは、珍しい王冠を欲しがるコビタの巣穴に行くことにしました。
コビタは、シマキチから珍しい王冠を手に入れ、他のリスと交換して、より多くのドングリを得ていたのです。だから、いつもシマキチに「珍しいのがあったら、知らせて」と言っていました。
なので、シマキチはコビタならこの王冠を欲しがるだろうと思って、訪ねたのです。
「コビタ、居るかい?」
「シマキチ、どうしたの?」
シマキチはコビタに王冠を見せて言います。
「これとドングリを交換して」
「それは、できないよ」
「何でさ、こんな珍しい模様の物は見たことないだろう!」
「ちょっと前までは、簡単に交換できたけど、今じゃ難しいんだ。だから、珍しい物でも要らないよ」
「たくさんのドングリと交換してくれなくてもいいんだ。それでもダメ?」
「ダメ!」
シマキチは、コビタにキッパリと断られ、コビタとの交換を諦めました。
シマキチは、村の中を歩き回って王冠とドングリの交換をお願いしましたが、誰も相手にしてくれません。ちょっと前までは、誰もが王冠を欲しがり、交換を断られることはなかったのですが、すっかり様変わりしていました。
お腹が減って、シマキチが座り込んでいると、しっかり者のジリスが1個のドングリを抱えて通りかかりました。
「ジリス、どこに行くの?」
「巣穴に帰るところだよ」
シマキチはジリスに王冠を見せながら聞きました。
「これを持っているかい?」
「持ってないよ」
「だったら、これとそのドングリを取り替えて欲しいんだけど」
「ごめん、それはできないよ」
「これ欲しくないの?」
「欲しくないよ。何の役にも立たない物、持っていても邪魔なだけだろう。じゃあね」
ジリスは足早に去っていきました。
シマキチは、誰とも王冠を交換できず、しょんぼりしながら巣穴に帰り、王冠の山を見つめていました。
宝の山だと思っていた王冠の山が、今のシマキチの目には、ガラクタの山に映っていました。
<おしまい>




