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愛する君達へ  作者: ぶちハイエナ
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ある時の絆 (絆の視点)

 暗い部屋の真ん中で私は座っていた。

 自分の事を小池 絆と名乗った私は膝を抱えるとそこに顔を伏せる。

 日の光が部屋に入るのも嫌で射光カーテンを閉じた部屋。

 時間の感覚さえ分からなくなってしまいそうな場所で音もなくただそこにいた。

 時折顔を上げるとこの部屋ではないどこかをその瞳に映そうとする。

 しかし、この瞳に暗い部屋以外の何物も映らない。

 虚しさだけが胸の中に渦巻いた。

 何もしたくない。

 何もする気力が起きない。

 もうこのままずっとこうしていたいとさえ思う。

 過去にあった出来事が私の心に棘のように刺さり、ゆっくりと時間をかけてその心を膿ませている。

 外では明るく元気に振舞っていても独りになるとその膿んだ心の傷がそうさせるかのようにこうなってしまう。

 そんな自分を隠そうとするせいで、その傷を癒すことも出来ずに酷くなっていく。

 このままでは心が腐り落ちてしまう事は想像に難しくない。

 早く誰か私に手をさし伸ばしてくれないだろうか。

 いや、手を伸ばしてもらうためにも私がこの手を伸ばさないといけない。

 頭では分かっていても心がそれを拒否する。


 うずくまっている私の傍らに小さな箱がある。

 私はその箱をにそっと手を伸ばして蓋を開けた。

 20本の葉を包んだ紙巻が規則正しく並んでいる。

 吸う訳ではない。

 その蓋を開けた箱からは懐かしい香りが鼻をとおり胸へと広がる。

 心が少しだけ落ち着いた。

 吸う人もいないタバコの箱を宝箱のように大切にそっと閉じる。


 隣の部屋からドアを開く音が聞こえた。

 私はその音にピクリと反応すると聞こえてくる音に注意を払うように耳を向ける。

 部屋の前を通り過ぎるかすかな足音、金属製の階段を降りるカンカンとした響きが聞こえてくる。

 私はのそりと立ち上がると部屋のドアをゆっくりと開ける。

 部屋に茜色の光が差し込む。

 その淡い光さえ眩しくて目を細めた。

 体を屈めるとゆっくりと下にある庭を覗き込む。

 大きな榊が立っていた。

 その榊は生命力を失いつつあるのか弱々しく見える。

 昔はもっと元気だったはずだ。

 木に寿命があるかは分からないが。最近になって急に元気をなくした気がする。

 辛うじて葉を残している枝があるものの、今にも折れてしまいそうな枝が目立つ。

 その榊の前に1人の女性が立っていた。

 私のよく知る女性。

 大きな帽子を被った女性の顔は上からでは確認が出来なかった。

 その女性はくたびれた大きな木に触れる。

 少しするとその木から命を吸い出すように女性の触れた手が光りだした。

 次の瞬間女性が木の前からいなくなった。

 私は立ち上がり辺りを見回す。

 一瞬の出来事で目を離していなかったはずなのに女性の姿はどこにもない。 

 認識さえも出来ず、ただそこからいなくなったとしか感じなかった。

 女性は忽然こつぜんと消えたのだ。


「やっぱり……」

 過去の出来事から予感めいたものを感じていた私はその光景をすんなりと受け入れる事が出来た。

 私のよく知る女性が姿を消したのを見るのはこれが初めてではなかった。

 以前偶然見かけた時は半信半疑だった。

 しかし今改めて見ても間違いなく姿を消していた。

 急いで階下へ走り出す。

 金属製の階段が揺れ大きくな音を響かせた。

 そのまま1階にある1室へ行くと何の合図もないままドアを開く。

「あの木の秘密を教えて!」

 部屋にいた老婆に私は叫んだ。


 老婆は私の表情から何かを察すると、私を目の前に座らせる。

 何か考え込むように顔の皺を濃くすると、何か決断するように深く頷いた。

 そしてゆっくりと口を開く。

「あんたにも教えてもいいかもね。その代わり無闇に使うんじゃないよ」

 やはりあの木には秘密があったのだ。

 私は次の言葉を促すようにこくりと頷く。

「神の力が宿った木で少しだけ過去に戻れる力があるんだよ」

 信じられない話であったが、あの光景を見ていたせいか疑う気持ちはなかった。 

「でも過去にいくら干渉したって現在を変える事は決して出来ない。変えることのできなかった現在に戻ってきて傷つくだけの力さ。現実を変えるなんて都合のいいものなんてないよ。思い出を懐かしむためだけの力と思うんだよ」

 目の前に座らせた私の瞳を真剣に見つめてくる。

 その目が私に警告している。

 深い経験を宿した眼差しが私を推し量るかのように射抜く。

 過去を変えるために力を使うなと言われている事が嫌でも理解できた。

「手で触れればいいの?」

 あの女性のしていた動作だ。

「そうだよ。思い出の時を強く願えばいい」

 思い出の時、行きたい過去のことだろうか。

「戻る時は?」

「私の時は勝手に戻ったよ。3日くらい経ったら戻される感覚が体にやってくる。そうしたら戻ったよ。強く帰りたいと願っても帰れるらしいよ。帰ってきた時は1日も経っていなかったけどね」

 老婆は何かを懐かしむように上を向いた後小さく息を吐いた。

 この老婆も昔に思い出を見に言った事があるのだろう。

「そうなんだ……。過去の自分に会っても問題はないの?」

「問題ないよ。さっき言ったようにどれだけ干渉したって現在は変えれない。過去に行った少しの時間だけなら変わるかもしれないけど、本当にそれが変わってるかも確かめようがないよ」

 過去の自分に会っても問題ないと聞いて私は少しの驚いたが、それ以上に分からなかった問題が解けたように何度か頷くと納得した表情をする。

「あんたがあの時の事て未だに苦しんでいるんじゃないかって思ってるよ。あんたは周りに明るく振舞ってはいるけど独りになると暗い目をしてる。何かあるなら話して……」

 私に何か老婆が話していたがうまく聞こえなかった。

 それよりも自分がこれから何をするかを考えていた。

 顎に手を置き思考の海へ潜る。 

 自分がこれから行うことを考えていると体に力がみなぎってきた。

 先ほどまでの無気力だった瞳にまで力が宿るのを感じる。

「あんたまさか?」

 私の表情で老婆も何か気づいたのだろう。

 私を止めようと手を伸したきたが、その手は空を切る。

 私は外へ飛び出すと何の準備もしないまま目的の榊の前に立ち手で触れる。

 老婆の忠告など忘れていた。

 今から自分が行うことにだけにしか意識が向いていなかった。

 その行動に迷いはなかった。

 先ほどの女性のように手が光りだすと、次の瞬間に私は別の時代へと旅立っていた。


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