2日目
休みだというのに自然といつもの時間に目が覚める。
休日なので2度寝も出来るが、横を見るともう1つの布団で寝ている相手が目に入り、昨日の事が夢ではなかった事を確認させられる。
ゆっくりと起き上がると洗面台に行き顔を洗う。
仕事の日なら前日の夜に味噌汁の下準備やご飯の予約をしておくのだが、今日は休日なので何もしていない。
今から準備をしてもいいのだが、ご飯が炊けるまで時間がかかってしまう。
冷蔵庫の中を見ると食パン、卵、ベーコンがあったので、今日は洋風にしようと決めた。
洋風と言ってもパンを焼き、ベーコンエッグを作るだけだ。
オーブントースターにパンを突っ込みダイヤルを回す。5分以上に回してから3分に戻す。
何故これをやらなければいけないか分からないが、説明書にそう載っていたのでいつもそうしている。
パンが焼ける間に油をひいて熱したフライパンにベーコンをいれる。
じゅわーっという気持ちのいい音と共にベーコンの焼ける匂いが鼻を喜ばせる。
焦げ目が付いた頃合でひっくり返すと卵を落とす。
再びいい音を奏でてくれた。この音はなんでこんなに食欲を誘うのだろう。
弱火にすると少しだけ水を入れて蓋をする。
そういえば絆は卵は半熟と完熟どちらがいいのだろうか、俺はどちらでもいいので絆に合わせてやりたい。
「卵は半熟!」
奥の部屋から声がする。
エスパーだろうか。
調理の物音で起こしてしまったのかもしれない。
「了解」
その声に返事をすると、黄身が固まらないように注意する。
大き目の皿にトーストを乗せてフライパンの蓋を開くと見事に半熟になっていた。
火を止め、出来上がったベーコンエッグを皿に移すと塩コショウを軽く振る。
「飲み物はどうする?」
「甘いやつがいい」
昨日と同じ甘いコーヒーとブラックを作ると出来た朝食をテーブルへ運んだ。
絆が布団を畳んでくれたようで、テーブルの前に座って嬉しそうに朝食を待っていた。
「おはよう、布団畳んでくれてありがとう」
「おはよう、おいしそう」
口を開けて涎が今にも口からこぼれそうな顔をしている。
そんな顔を見て待たせるのも悪いので箸を渡してやる。ナイフは俺の家にはない。
ピーナツバターも冷蔵庫から持って来た。
バターがいいのだが、バターは高い。マーガリンでもいいが、安くて購入したピーナツバターがまだ封を開けたばかりなので購入は先のことになりそうだ。
絆のトーストにピーナツバターを塗ってやる。
「たっぷり塗ってね」
ベーコンと卵を箸で器用に切り分けて一緒に口に運んでいる。
ご希望通りたっぷりと塗ってやり皿にトーストを戻す。
「ありがとう」
咀嚼中の口を手で隠している。
口に物が入っている時に喋るのはマナーが悪いとは思うが、手で隠してすぐお礼を言う態度には好感が持てる。
俺も行儀が悪いと思ってもそうしてしまうので気持ちは分かる。
自分のトーストにもピーナツバターを塗りながら、家族以外の人とこうして朝食を取るのは久し振りだなと思った。
まさか、それが昨日会ったばかりの女の子とは過去の自分なら夢にも思わないだろう。
他愛のない話を間に挟みながら朝食を済ませた。
食器を洗って時計を見るとまだ7時を回ったところだ。
カーテンを開けると薄明るかった部屋に朝日が差込んでくる。
日の光で体の体内時計が調整されると聞いたことはあるが、朝日を浴びるとぼやけた頭がはっきりとする感覚がするのでその説は信憑性があるのかもしれない。
食事を終えた絆は面白い番組がやっていないかテレビを点けてザッピングしていた。
休みの朝は普段ニュースしかやっていないような時間帯でも違う番組を放送している。
興味をひかれるような番組がなかったのでタバコを吸いに外に出る。
玄関のドアを開けて外に出ると朝の冷たい空気が体を包む。一瞬肩がぶるりと震える。
もう厚手の服を用意した方がいいかもしれない。
少し小高い場所に立っているアパートの2階ということもあり、眼下に朝靄かすむ家並みが見える。
朝靄とは違う白い煙を口から吐きながらその景色をぼーっと眺める。
「おはよう」
声がして下を向くと竹箒を持った大家さんがこちらを見ていた。
恵が歳をとったらこんな風になるんだろうなと思うくらいに恵に似た母親だ。
部屋の前の通路は落下防止のフェンスがあるだけなので下からでもこちらがよく見える。
「おはようございます」
「寒くなってきたわね」
「そうですね」
「今日も娘をよろしくね」
この大家さんは昨日も事を知っているのか。
知っていて何も言われないのは怖いが、それだけ信用してくれていると考えるべきだろう。
不意に目の前に高枝切りバサミが突きつけられ背筋に冷たい汗が流れる。
「これで榊の葉を取ってくれるかしら」
大家はにっこりと笑ってこちらを見ている。
ホラーめいたものを感じたが気のせいだろう。
以前にも同じような事があったので、自分の中の後ろめたさがそう感じさせたのかもしれない。
「分かりました」
高枝切りバサミを受け取る。
軽く頭を振り、気分を切り替える。
手を出した訳ではないし、親まで認知しているならあまり深く考えなくてもいいかもしれない。
30cmくらいの長さで葉の綺麗に生えた部分をいくつか切り落としていく。
神棚に飾るものだと以前に聞いた。
「これくらいでいいですか?」
4本切ったところで大家さんに確認する。
「十分よ。ありがとう」
大家さんを見ると手を使って頭の上に大きな丸を作っている。
「この榊ってどれくらいの樹齢なんですか?」
これだけ大きいのだから半世紀以上は経っていそうだ。
「祖母が小さい頃には在ったって言ってたから100年優には超えてるわね。神社にでも在れば御神木にでもなるんじゃないかしら」
改めて榊を見る。
朝日を浴びて葉に付く水滴を煌かせている木は100年を越える年月を聞いたせいかどこか神秘的な佇まいを思わせる。
もしかしたら神様が宿ってるかもしれない。
「お願い事でもしてみましょうか」
冗談めかして言う。
「あはははは、もしかしたら叶えてくれるかもしれないよ。前にここで死んだはずの母親を見た事があのよ」
「え? 怪談ですか? このアパートって呪われてたりするんですか」
「私の見間違いだろうさ。でも、その母親がこの木を思い出を見せてくれる木なんて言ってたから死んだ人が夜な夜な出てくるのかもね」
そう言って胸の前に手を持ってきてちょこんと曲げるとお化けのポーズをする。
「本当だったら洒落にならないですよ」
怖い話に怯えるほど子供ではないが、さすがに家の前にそんな木があると怖くなる。
それが顔に出ていたのか大家さんが笑った。
大家さんの笑う姿を見て俺も釣られて笑ってしまった。
後ろからドアの開く音がして誰かが出てくる音がする。
誰かといっても部屋の中には絆しかいないので絆だ。
「まだ、タバコ吸ってるの?」
振り返ると少し不機嫌そうな顔をしてじと目をこちらに向けている。
「あら、おはよう」
大家さんが絆の姿を見ている。
部屋から出てきたところを見られた気がするが、大家さんは気にした様子はない。
「おば……、おはよう」
噛んだのだろうか挨拶を言い直している。
「よく寝れた?」
「うん」
「朝ごはんは?」
「食べた」
2人が自然な流れで会話をしている。
その会話にぎこちなさは感じない。
やはり親戚なのだろうか。
「啓、テレビ面白くないから遊ぼうよ」
絆が俺の服を引っ張る。
「はいはい」
「むっ、はいは1回」
眉間に少し皺を寄せると引っ張る力を強める。
「仲がいいのね」
下から大家さんが茶化してくる。
「恵とも仲良くしてね。あの子ったら……」
「もう、お母さん変な事言わないで」
部屋から出てきたのか恵が大家さんに駆け寄ると言葉を遮る。
「おはようございます。準備したら遊びに行きますね」
まだパジャマ姿で寝癖が残る髪を手で必死に押さえながら恥ずかしそうにしている。
「おはよう、ゆっくりでいいよ」
絆が未だに服を引っ張っているので服が伸びてしまう前に部屋へと入った。
絆を改めて見ると寝癖はそのままだ。
恵と違って恥ずかしさはないのだろうか。
そんな姿を気にした様子もなく部屋まで俺を引っ張っていくとゲームを物色し始める。
「古いゲームしかないね」
そんなに古いゲームだろうか?
新しいゲームの本体が出たとは聞いたが若い子に取っては一世代前のゲームすら古いもの扱いになるのだろうか。
絆は何か小さな声でぶつぶつ言いながらゲームを漁る。
「これやろ」
2人用のアクションゲームを手にとって嬉しそうにしている。
仕方がないのでゲームの準備を手早く済ませると2人でアクションゲームを楽しんだ。
1時間くらいゲームをしただろうか、部屋に呼び鈴の音が鳴り響いた。
ゲームのコントローラーをその場に置くと玄関へ向かう。恵が来たのだろう。
玄関のドアを開けると案の定恵が立っていた。
「いらっしゃい」
先ほど見た格好とは違って余所行きの姿をしていた。
パジャマ姿も新鮮だったが、何度か見たことのあるこの姿も可愛らしいと思う。
「お邪魔します」
そう言って頭を下げると部屋に入ってきた。
「絆の相手をしていて」
そう言ってタバコを吸いにまた外に出た。
タバコを吸って部屋に戻ると、ゲームが片付けられていた。
「あれ? もうゲームは終わったの?」
そう尋ねる俺に2人は顔を見合わせて嬉しそうにしている。
タバコを吸っている間に何かあったのだろうか。
絆を見ると着替えを済ませている。
ジャージ姿だったのに髪まで寝癖がなくなっている。
「お出かけしましょう」
「遊びに行こう」
不思議そうにしている俺にそう告げる。
休みだし特に断る理由はなかった。
車で市外にあるショッピングモールへ向かう。
絆が車を乗った時、小さいとか窓が手動だとか驚いていた。
軽自動車の大きさなんてそう変わらないと思うのだが、絆の家は新しい車に乗っているのだろう。
瀬戸内海の見える海岸線沿いを車で走らせると、開いた窓から海の匂いが車内に届く。
日の光を浴びた海は不規則にその光を反射させて目を楽しませてくれる。
「綺麗ですね」
助手席に座る恵がそう呟く。
自分が思っていた事に共感を覚えてもらったようで嬉しくなる。
「そうだね」
気の利いた返事など出来ない自分が少し残念だった。
ショッピングモールに着くと3人で店内に入る。
2人は服を見たいと言って仲良さそうに2階へ歩いていった。
俺も誘われたが、さすがに女性の服を一緒に見る気にはなれなかったので3階の本屋へ行くといって別れた。
女性の買い物は長いと聞いていたが、2人を待つ間に本屋を何週もしてしまい、雑誌も何冊か立ち読みできてしまった。
足が疲れてどこかで休もうかと思っていたら2人が袋を下げて現れた。
口元に笑みが浮かんでいるところを見ると満足できる買い物が出来たようだ。
「お待たせしました」
「あ、何のマンガ読んでるの?」
頭を下げてきた恵とは対照的に絆は俺に荷物を押し付けると読んでいた雑誌を奪う。
「わー、懐かしいー」
新しい雑誌のはずだが好きな作家の新しい連載でも始まったのだろうか。
強引に渡された荷物を手に持ち直す。
もう片方の手が空いているので恵に向かって手を差し出す。
「え?」
俺の手を見て恵が恥ずかしそうにしている。
「遠慮しなくていいよ」
服なのでそんなに重くはない。2つ持ってもそんなに苦にはならない。
「分かりました」
恵が俺の手を握ってくる。
あれ?
手を握り合ったまま固まってしまった。
久し振りに握る異性の手は柔らかかく華奢で、俺の心臓を熱く鼓動させた。
恵みも俯いたまま固まっているので今更荷物の事を口にできない。
「何やってんの?」
そんな俺達を見て絆が握り合った手を切り離す。
安心したような、どこか寂しいような想いが胸にひろがった。
そのまま絆は俺と恵の手を握る。
3人で手を繋ぐどこかおかしな構図になった。
「お腹空いた」
そんな状況を気にした様子もなく絆が自分の欲望を口にする。
左腕に巻いた時計で時刻を確認すると昼の時間を過ぎていた。
「どこかでご飯を食べようか」
「そうですね」
恵もどこか残念そうな顔をしているように見えたが、俺の願望がそうさせているだけかもしれない。
3人で店内にある飲食店で食事を済ませると1階にある食料品コーナーで買い物をする。
食事をしながら夕食はどうするか絆に尋ねたら、
「啓が作ったのを食べるよ」
と、さも当たり前のように答えた。
「私も一緒してもいいですか?」
恵まで一緒に食べたがったので足りない食材を買いに来たのだ。
今まで女っ気がなかったはずなのに、急にこんな状態になって正直戸惑ってはいるが、不思議な事に緊張はあまりなく嫌な気持ちもしなかった。
それどころか落ち着いた気持ちにすらなる。
もちろん先ほどみたいに手を繋いだりするのは別だ。
恵が夕食を作るというので俺はカートを押しながらそんな事は考えていた。
絆が両手一杯にお菓子を抱えてきたが、半分は元の場所に戻させた。
買い物が終わって帰ろうかと思ったが、絆がゲームショップに行きたいというのでショッピングモールの前の通りを隔てた斜向かいにある店に車を走らせた。
その店で絆が中古でゲームを見ながら1時間近くにらめっこをしていた。
悩んだ結果、絆の手に残ったのは1本の人生ゲームだった。
3人で遊べるゲームがなかったので丁度よかったのでそのゲームを受け取りレジで会計を済ませた。
帰り道で海岸線沿いにあるソフトクリームの店を見つけた絆が食べたがるので寄り道をした。
3本のソフトクリームを買うと海岸を歩きながらその味を楽しんだ。
俺はソフトクリームを食べ終わって何気なく絆の方を向くとその瞳から雫がこぼれていた。
「なんで泣いているんだ?」
もしかしたら何か嫌ことでもあったのだろうかと心配になる。
俺の言葉で絆は自分の頬に手を添える。
自分でも泣いていたことに気づかなかったのか驚いた表情を浮かべるとまるで取り繕うかのように笑顔を見せる。
「分かんない。砂が目に入ったのかな」
笑うその瞳のその端からも新しい雫が流れ落ちる。
恵がそんな絆の姿を見て何も言わずに抱きしめた。
絆はその温もりに安心したのか子供のようにしばらく泣き続けた。
その状況をうまく飲み込めない俺は何も出来ずにただ落ち着くのを待つだけだった。
傾き始めた太陽はそんな2人を優しく照らしていた。
家に帰ると恵は買った服を部屋に持って行きすぐに俺の部屋へとやってきた。
「すぐに夕食を作りますね」
自分の部屋から持ってきたのかエプロンを身に着けると夕食の準備に取り掛かった。
普段から作り慣れているのかその動作は手馴れたものだった。
絆はといえば、先ほどまでの状態が嘘のように買ったゲームの説明書をテーブルの上に開いて嬉しそうに眺めていた。
手持ち無沙汰になった俺はタバコを吸いに外に出る。
紫煙を吐きながら沈みかける太陽と闇に染まり始める眼下を見下ろした。
目に映る家々に少しづく明かりが灯り始める。
その一つ一つの明かりに家庭の温もりがあるのだろう。
後ろを向いて自分の部屋を見るとそこにも明かりが灯っていた。
恵か絆が点けたのだろう。
そんな事を自然に思うことで突然やってきたこの生活にいつの間にか順応し始めている自分がいることに気づく。
夕食はカレーだった。
買い物している時から食材で気づいていたがそこは知らないふりをした。
「おいしそう」
気づいていなかった絆は嬉しそうにカレーに目を輝かせている。
色気より食い気なのだろうか、その姿に今にもお腹の音が鳴るのではないかと思う。
「確かにうまそうだね」
人が作ってくれたカレーは自分が作るカレーとは違って見える。
同じルーを使っているはずなのに匂いまで違う気がする。
カレーとは別にマカロニサラダも用意されていた。
「お口に合えばいいんですが」
恵は自信なさ気だ。
「「「いただきます」」」
カレーをすくって1口食べる。
あれ?
同じルーなのに味が違う。
自分が作るものより味に深みがあるというか濃厚だ。
「うまいよ」
率直な意見を口にする。
「よかったです」
自信なさ気だった表情に花が咲いたかのように笑顔になる。
「同じルーなのに味が全然違うね」
「家から別のルーを持ってきて混ぜたんです。後、にんにくをよく炒めて入れてあります」
先ほどまでの表情が嘘のように自信を持って解説をしてくれた。
ルーを混ぜてにんにくを入れるだけでここまで味が変わるものなんだな。
絆の方を見ると黙々とカレーを食べている。
感想など聞かなくてもその行動が美味しいと物語っていた。
そんな絆の姿を嬉しそうに眺めながら恵も食事を始めた。
食事が終わると洗い物は俺が片付けた。
恵がやると言ったがさすがにそこまでさせるのは悪い。
「では、その間にお風呂を済ませてきますね」
食事の時に早めにお風呂を済ませて今日買ったゲームを3人でやろうと絆が言ったのだ。
そう言った絆も風呂に入っている。
時折鼻歌まで聞こえてくるのでゲームをするのが楽しみで上機嫌になっているのだろう。
洗い物が終わってコーヒーを飲んでいると絆が風呂から上がった。
濡れた髪をタオルで拭きながら俺のコーヒーを見つめる。
「私のは?」
そう言うだろうと思って作っておいた冷やした甘いコーヒーを持ってきて渡す。
「ありがとう」
口元に笑みを浮かべて両手でカップを受け取る。
テーブルの横にちょこんと座って温まった体に冷えたコーヒーを流し込んでいた。
両手でコーヒーをゆっくり飲む姿がなんだか女の子らしいなと思う。
自分のカップに少し残ったコーヒーを一気飲み干すと俺も風呂に入る事にした。
重大な問題があることに気付いた。
まさかこんな問題が起こるなど予想もしていなかった。
絆は風呂に入って、脱いだ服を脱衣所に洗濯機に入れている。
昨日は帰って作業着等を洗っただけなので気付かなかった。
もしかしてこれを俺が洗って干すのか。
そもそも一緒に洗っていいのだろうか。
しばらく洗濯機の前で考えていたが答えは見つからず脱いだ服を洗濯機に洗剤と一緒に放り込むと蓋を閉めてスイッチを押した。
昨日の脱いだ分がもう入っているので今更分けるほうが問題になりそうだ。
風呂から上がると恵が来ていた。
部屋に入ると理解できない状況が目に映る。
テーブルをどかして布団が3組並んで敷いてある。
俺の家には布団は2組しかないはずだ。
端にある1組は見た事がないデザインの布団だった。
「これは……?」
「今日は3人で寝ようね」
絆が何でもないかのように言う。
どんどん自分の首が絞められていっている気がする。
布団だけに真綿で首を絞めるとでも言いたいのだろうか。
面白くもない事を考えて恵を見ると、少し恥ずかしそうにこちらを見つめている。
風呂上りのせいかなんだか色っぽく見える。
そうじゃない、思考が変な方向に流れていっている。
この布団を恵が2階へ運んだのだろうか?
恵から想像できない積極性というか行動力だ。
俺が知らないだけでそういう一面があるのかもしれない。
「恵はいいの?」
「だめ……ですか?」
上目遣いで見つめられる。
もう捕まってもいいかもしれない。
手を出すとかではなく、こんな風にお願いされたて断れない愚かな俺を捕まえてという意味だ。
そんな時、洗濯機が洗い物が終わった合図を鳴らす。
この時が来てしまった。
この状況で干すのは拷問に近いのではないのだろうか。
覚悟を決めて脱衣所へ向かおうとする俺をいつも間にか近くに立っていた恵が止める。
「どこに行くんですか?」
なんだろう、笑ってるはずなのに怖い。
「あの、洗濯物を干さないと……」
「私がやりますから」
あ、目が笑っていないんだ。
「いや、悪いし」
目の力が強まる。
「私がやります」
「あ、はい」
産まれたての小鹿のように足が震えそうになるがその場に座って誤魔化した。
26年生きてきて初めて見た。あれは逆らったらいけない目だ。
恵が洗濯を干している間にゲームの準備をして起動させた。
絆は嬉しそうに画面を眺めると、プレイヤーの設定を手早く済ませる。
人生ゲームをテレビゲームでやるとキャラクターの顔や名前、誕生日まで設定するようだ。
絆は俺達の特徴をよく捉えたキャラクターを作成し、恵が洗濯物を干し終わるまでに3人分終わらせていた。
不慣れなゲームの為やってもらえて助かった。
満足そうにどや顔をしてみせる行動が微笑ましかった。
あれ?
俺は絆に誕生日を教えただろうか。
知っているとは思えないし話したのかもしれないし、何か漁ってるときにでも記載されたものがあったのだろう。
ゲームは意外に長く時計の針が次の日に変わる前までかかってしまった。
順位は1位が絆で、2位が恵、3位は俺だった。
2位と3位の間には圧倒的な差が開いていた。
現実でもゲームでも一発逆転を狙うと碌な事がない事を教えてもらった。
ゲームを片付けて寝る準備をして皆で横になる。本当に3人で寝るようだ。
真ん中で横になっている絆は特に気にした様子はなくゲームの余韻に浸っているのか嬉しそうに顔をゆるめている。
寝るまでの間少し話をして明日も3人で遊ぶことになってしまった。
いつの間にか絆の規則正しい寝息が聞こえ始める。
「寝ちゃいましたね」
暗い部屋に恵の声が響いた。
「みたいだね」
「今日はすごく楽しかったです」
その声から楽しそうな気持ちが伝わってくる。
「俺もだよ」
「明日もよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
そう言いあった後おやすみを伝えて眠ることにした。
昨日とはまた違う状況に寝れるか心配になったが、疲れていたせいか簡単に眠ることができた。




