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2:魔法使いは山に籠りて

初期モンスター、スライム登場!(しかし戦わない)


 エルドランと別れた後、魔法使いオフィーリアは山に籠った。

 これは当時の魔法使いにとって、至極当たり前のことである。

 魔法使いは山、あるいは洞窟などに籠り、魔法の研究をするのが常識であった。今のように金庫もなく、ましてパソコンなどない時代である、研究成果を他の魔法使いに奪われないよう自衛したのだ。

 また、町や村に迷惑をかけない意味もある。普通の動物と違い、魔物は繁殖しない。『魔』物というとおり、魔法によって自然発生する生命だからだ。

 山や洞窟、迷宮などに魔物が多いのは、そこを拠点とする魔法使いの研究のせいでもあった。だからこそ魔法使いは人里離れた場所に棲み、ひっそりと暮らしていたのだ。

 ただし良い面もあった。魔法使いにとっても邪魔な魔物を討伐に冒険者が来る。彼らは自分のレベルをあげることを目的としているが、魔法使いが討伐のお礼として宝箱を置いているからだ。魔法使いの研究によって作られた魔法道具や体力を回復する薬、あるいは装飾品など、冒険者にとって金になるものが多かった。なにより魔物を倒せばドロップと呼ばれる魔法の結晶が獲れ、高値で取引される。

 戦闘能力のない村人たちにとって魔物はひたすら迷惑なだけだが、冒険者には金の生る木でしかなかった。




 山に籠ったオフィーリアだが、オフィーリア伝説とでもいうべき様々な伝承を残している。

 ある時は病の母のために薬草を求めて山に侵入した少女に薬を与えてやり、ある時は山を開発しようとやってきた男たちに幻影を見せて恐怖に陥れ、駆け落ちしてきた男女には助言を与えて人里に案内し、人間に追われたエルフやドワーフ、ゴブリン、果てはオークなどの亜人と呼ばれる異種族も保護したといわれている。

 聖オフィーリア教導会ができたのもこの頃だ。名の売れた魔法使いに弟子入りする見習いは多く、独身で子のいないオフィーリアは喜んで弟子を受け入れた。聖がついたのは死後のことだが、どれだけ彼が神聖視されたのかが窺える。なお、弟子に教えるために教会を造り、現在の聖オフィーリア教導会本部となっている。





*************




 王立魔法院が発見した洞窟は『試練の洞窟』と名付けられた。魔法で封印されていた入り口の古代文字を解読した結果、そう書いてあったという。


「いや、あの場所にある洞窟っていえばシュラインの洞窟じゃないかな」


 理奈が突っ込んだ。王立魔法院の魔導士では古代文字は読めないのだろう。


「知り合い?」

「変な薬を開発してるバーさんだった。回復魔法じゃ内臓系の病気は治せないからって」

「良い人じゃん。なんで洞窟なんかに籠ってたんだ」

「時々爆発したり、うっかり変な魔法薬作って村人が猫になったりしてたから…」


 理奈の返事に翔は「お、おう」としか言えなかった。魔法使いは研究オタクの変人が多いが、シュラインも御多聞に漏れず変人だったらしい。


「けど、本当にシュラインの洞窟だったらちょっとヤバイかな。あそこ、魔法が残っててもおかしくないよ」

「魔物が出るのか?」

「たぶんね」

「探索はネット配信されるっていってたよな。パソコンつけようぜ」

「テレビ切り替える」


 翔がそう言いだすのはわかっていたのだろう。理奈は手元にあったリモコンをネットに切り替えた。


「感想書くならこれね」

「お、サンキュ」


 リモコンの使い方を説明すると、わくわくした顔で画面を見る。翔はやはり、冒険好きらしい。理奈は苦笑を漏らした。


「なあ、どんな魔物が出てくると思う!?」


 空になったビール缶ふたつをゴミ箱に入れ、二缶目を取り出す。冷蔵庫の中を見てついでにつまみも取り出した。


「シュラインが洞窟を出たのがいつかわからないけど、千年以上は経ってる。生き残りがいるとしたらスライムが妥当じゃないか」

「あ~、あの厄介モンスターか…」


 理奈の答えに翔もさもありなんと同意する。スライムは事実、厄介な魔物なのだ。

 ゲームでおなじみの魔物、スライム。雑魚と思われがちだが彼らの生態は実に厄介なのだ。流体生物であり、魔法とある程度の湿度さえあれば無限に湧いて来る。そして、彼らは生餌しか食べない。攻撃ではなく、本能である。

 スライムの体は流体であり、いかようにも変化する。獲物が気づかない間に足元に忍び寄り、あるいは木や天井を這いあがって近づいて来る。全身を覆われてしまえば最期だ。ゆっくりじわじわ消化される。生餌しか食べないので息の根を止めるのは本当に最後になる。死なせてくれともがいてもスライムに絡めとられた体は思うように動けず、逃げられない。

 これの厄介さに拍車をかけるのが獲物が生餌、それも魔法を持った生物である、というところだ。魔法を持たない洞窟や無機物、植物などには目もくれない。一度生まれたスライムは本能に従って食欲を満たそうとする。それが人間であろうが魔物であろうが、それこそ別個体のスライムであろうが同じことだ。洞窟に入ったはいいもののお目当ての魔物がおらず、やたら強いスライムだけだったという話もある。


「…お、結構集まってるね」


 テレビ画面の向こうには、今まさに洞窟へ向かう冒険者たちが決起集会をしている。


「剣士、武闘家、魔導士、あとあれは傭兵かな?銃持ってる」

「装備がしょぼいのは仕方ないとして、作戦立ててるのかなぁ」

「アルならどうする?」


 問われた理奈はうーん、と考えた後、言った。


「探査ロボットで内部調査からだね。せっかく科学の力があるんだもの、それを活かしていかないと」

「かがくのちからってすげーってやつ?」

「そうそれ」


 スライムは確かに厄介で脅威だが、言い換えれば忍び寄ってくるのを防げれば簡単に倒せるのだ。


「集会所に置いてある照明で洞窟を照らしながら進めば、熱の放射で自然消滅させられると思う」

「……あいかわらずえげつねえな、お前の策は」

「俺のモットーは安全第一ですから」


 厭な顔をする翔にも理奈はすました顔だ。


「第一敵を知らずに突っ込んでいくほうが馬鹿なんだよ。何が出てくるかわからないっていうのにさ」

「命乞いをしても無駄な相手だってわかるのは、その時になってからでは遅いしな」

「その通りだ」


 魔法使いの魔法には様々な種類があった。火・水・風・土・闇・光、それぞれの属性で研究が進められ、いくつもの魔法が編まれた。

 しかし、ただひとつだけ作れなかった魔法がある。


 死者の復活。


 死人を生き返らせることは、どの魔法使いにもできなかった。


『それでは我々も行きます!試練の洞窟には果たして何があるのか?魔物は本当にいるのか?魔導士様と検証しながら進みます』


 魔導士はそれっぽくローブを着て杖を持っていた。王立魔法院は王立とあるように税金で運営されている。磨かれた水晶と思しき石を填め込み細かな細工の施された杖はいかにも高価そうだ。杖は自分で作るものという認識の理奈はフンと鼻を鳴らした。

 自信満々の魔導士と現場には慣れているリポーターが恐れげもなく洞窟に入って行った。


「全滅かなあ」

「先頭のやつらを犠牲にして逃げれば後ろのは助かるんじゃない?」

「でもスライムは分裂するし、靴の溝に隠れてばらまかれたらヤバいんじゃ」

「直射日光のアスファルトに耐えられる個体がいればね」


 あっさりとその危険性を回避し、理奈はつまみに出したくらげの中華和えを食べる。きゅうりとくらげの歯ごたえが楽しい。ぴりっと辛い味付けはビールと良くあった。


「あーウマー」

「なあこれわざとだろ」

「うん」


 くらげを箸でつまみ、翔がげんなりとした声で言った。


テレビ見ているだけで話が進まない…。

次話は冒険者のターンになります。

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