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来訪者


 ある人気投稿小説サイトがあった。

 その人気小説投稿サイトで、人気作品を作ることができれば、即座に書籍化をして、プロになることもできる。

 プロに至る登竜門の一つとして数えられていた。


 その人気小説投稿サイトでは、異世界系ジャンルがとても流行っていた。

 流行っているだけあってランキングが、異世界系ジャンル、その他のジャンルとで、分けられているぐらいだ。

 作り手も異世界ばかりを作っているけれど、読む方まで異世界ばかり読んでいる。

 それ以外興味ないのではないかと勘違いしてしまいそうなほど、異世界関係の作品で溢れかえっていた。


 そんな世界に一石を投じようと、一人の男が立ち向かおうとした。

 男は、果敢に挑み、作品を投稿し続けたが、鳴かず飛ばずで無為に時を費やし、今や男も30代。

 若さもすべて費やした男に明日はあるのか?


 次回、最終回『人生の終焉』を乞うご期待。


 …

 

 ……


 …………はぁ。

 

 思わずため息しか出ない。

 何やってんだよ、俺は。

 パソコンに向き合い、テキストアプリを立ち上げてから、自虐風の物語を書いてしまった。

 

 痛みも無いのに心が痛い。

 なんでこんなに人生詰んでしまったのかって、頭を抱えたくなることがある。

 夢追い人なんてそんなものだ。

 まるで若葉が枯れ葉になって、木から、はらりと抜け落ちるように、時間という資源を失えば、地上に落ちていくのが必然だろう。

 ただ、落ち葉ほど必然を受け入れ難いのが、俺という人間の問題なわけで、甚だ嫌になるが、クズと言って差し支えないダメ人間のなせる所業というものがある。

 

 どっこらせっと、ベッドの上で横になってみる。

 肘をついて片手で頭を支えれば、ブッダにでもなったかのように悟りの境地に至る、わけがないわな。

 漫然とした時間の浪費。

 それを受け入れられるだけの人間性だけが育ってしまった。

 今の俺が、物思いに耽る豚と言うなら、否定もしないか。

 

 窓のカーテンすら締め切った部屋に、明るい日差しが見えている。

 また夜を、気づかないあいだに過ごしてしまったみたいだ。

 昼夜を逆転した生活を続けて何年になるか、朝日を浴びたのが何十年も前に思えてくる。

 

 何にも思いつかない。

 作品に立ち向かうだけの気概を失ってから、ついにアイデアすら枯渇してしまったみたいだ。

 いよいよ無の境地に至ったかなんて、大層な話しじゃない。

 何を作り出せばいいのか見失っているだけだ。


 たくさん作ったと思う。

 自己便宜をはかる手立てがある一点はそこだけだ。

 作り手として、無駄に頑張ってしまった。

 そう、俺の頑張りは、すべて無駄だったんだ。

 

 夢を諦めるのは、まだいい。

 それはいいんだが、問題は、人生をどう受け入れるかって話しだ。

 夢の無い人生って何だろう?

 

 は、また始まった。

 悪癖なんだ。

 ひたすら頭の中で思考が、湯水のごとく沸いて出て来る。

 どんなに考えたって、結論は結局同じことなのに。


 トントン

 

 俺の部屋のドアを叩く音が聞こえて、ちょっと驚いた。

 いや、違和感というべきだろうか。

 

 俺の部屋は、家の二階にあるので、ここまでやってくるには、階段を上らないといけない。

 つまり、誰かがやってくるとき、足音が聞こえてきて、気配が必ずあるわけだ。

 このドアを叩く相手からは、その気配すらなかった。

 両親なら、上品にドアを叩くより先に、無造作にドアが開かれる。

 

 トントン

 

 またノックだ。

 俺は、ほんのりと感じる、背筋の寒さからか、横になっていた体を起こした。


 だが、怖気づいて、声1つかけられない。

 相手の様子を伺うしかなかった。


「あのー、もしもし」


 ドア向こうから若い女の子の声が聞こえてくる。

 とても、張りのある、いい声だ。


「だっ……ううん! 誰だ?」


 初めて出したせいか、かすれた声で、咳払い一つして、格好もつかないけど質問は投げた。


「わたしは、使者です」


「使者?」


「はい、あなたを迎えに来ました」


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