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2015年フェスピ&マジラビ舞台記念SS第8弾

マジカル☆ラビリンスより、明衣子の話。渡羽との出会い、そしてその後の話です。ネタバレを含むため、本編と番外編を読了後にお読み下さい。

 何気なく卒業アルバムを開いていて、明衣子(あいこ)はふと思い出した。

 中一の秋、彼と初めて会った時のことを。

 その日は日直の当番で、担任に提出するノートをクラス全員分集め、一人で職員室へ運んでいた。


(うう、重い……やっぱりきついなぁ。誰かに手伝ってもらえばよかった)


 教室から職員室まではたいした距離はないが、30人分のノートとなると結構な重さになる。

 前方に注意しながら、よろよろと明衣子は職員室へ向かっていた。


(日直だからって全部任せなくてもいいのに)


 少しだけ不満を募らせながら歩いていると、向かいの廊下から歩いてきた生徒が、こちらへ歩み寄ってきた。


「重そうですね、手伝いますよ」

「え?」


 誰だろう? 声をかけてきたのは黒髪に眼鏡の男子生徒。見覚えはないけれど、先輩ではなさそうだ。


「職員室でいいんですか?」


 男子生徒は積まれたノートの上半分を取る。

 見知らぬ生徒にいきなり手伝ってもらうのは申し訳ない。明衣子は慌てて、歩き出そうとした男子生徒を引き止めた。


「あっ、待って。やっぱり手間をかけさせるのは悪いですよ」


 男子と話すのは苦手だが、明衣子は勇気を出して言った。男子生徒は一つ瞬きをすると、くすりと微笑んだ。


「一人で運ぶのは大変でしょう? 二人で持てば負担は半分ですよ」

「で、でも……」

「気にしないで下さい。俺が勝手にやりたいと思っただけですから」


 今度こそ、男子生徒は職員室に向かって歩き出した。強引なわけではないけれど、なんの裏もない彼の笑顔に、明衣子は少しだけときめいた。

 職員室に入ると、男子生徒はきょろりと首を巡らせた。


「どこに置けばいいですか?」

「あ、桐谷先生の机に……」

「分かりました」


 男子生徒は目的の教師の机にノートを置くと、何も言わずに明衣子が持っていたノートも代わりに置いてくれた。


「他に運ぶものはないですか?」

「う、うん。大丈夫」

「お疲れ様です。夕方から雨が降り出すと言っていましたし、早く帰……ああ!」


 突然、男子生徒が上げた声に、明衣子はびくっとして言いかけた言葉を飲み込んだ。


「もうすぐタイムセールが始まる時間だ! すみません、俺はこれで」

「えっ、あの、ありがとう!」


 男子生徒は急ぎながらも、明衣子の礼に笑顔を返して行ってしまった。

 この出来事は、明衣子の心に深く刻み込まれたのだった。





(それから、ときどき見かけては声をかけようかと思ったけど、勇気が出なかったのよね) 


 隣のクラスだということを知って、でも、いつもバルカン君と一緒にいて話しかけづらくて。

 二年の時、同じクラスになれてうれしかった。バルカン君とも成り行きで仲良くなって、いつの間にか三人でいることが多くなって。


「バルカン君は、最初はちょっと苦手だったけど」


 ふふ、と苦笑すると、旦那がひょいっとキッチンから顔を見せた。


「バルカンがどうした?」

「うん、ちょっと初めて会った時のこと思い出して」 


 明衣子はリビングのソファで笑った。手元には、仲良くなって初めて三人で撮った写真。

 並んでいる旦那と自分の肩を、バルカンが後ろから抱えるように立って、満面の笑みを浮かべている。

 写真の中の自分は戸惑い気味で、旦那は迷惑そう。


「あー、あのバカが無理やり明衣子を引っ張ってきたんだっけ」

「驚いちゃった。突然、声をかけられたと思ったら、映画を見に行こうって」


 なんでも、三人グループで行くと割引になるんだとかで。


「本当に、後先考えないというか、思いつくままに動くんだよな、バルカンは」


 ティーセットを運びながら、飛鳥(あすか)はため息をつく。明衣子は苦笑し、その写真の隣にあるもう一つの写真に視線を落とす。

 構図はほぼ同じで、服装と表情が違う。バルカンはやたらキラキラと光るタキシードで、昔と変わらない満面の笑み。

 旦那は白いタキシードで、不満と呆れの混じった表情、自分は白いウェディングドレスで、照れくさそうに微笑んでいる。

 自分たちの結婚式で撮った写真。なんだかんだと縁は今も続いている。


「先週も、旅行に行ったお土産だって、写真立てを持ってきてくれたわよね」

「すでに写真が入ってたけどな。旅行先で撮ったあいつの家族写真が。」


 嬉々として差し出してきたお土産の箱を開けてみると、イルカの模様が縁取られた写真立て。

 本来、空白であるはずのスペースには、バルカンと奥さんと息子さんが写った写真が収まっていた。 


「『これでいつでもオレたち家族は、お前らと一緒だ!』とか言ってたわね」

「なんで写真の入った写真立てを貰わなくちゃいけないんだ……」


 そう不平を漏らしながらも、飛鳥は(くだん)の写真に目を向ける。


「ずっと縁が続くのはいいことよ。良い縁なら、なおさら。……この子も、その縁に加わるのね」


 大きくなったお腹を優しく撫でる明衣子。

 写真から視線を外し、明衣子の側に跪いた飛鳥もそっと、明衣子のお腹に触れる。

 ここにいる。新しい家族。自分たちを繋ぐ、宝物。もうすぐ会える。

 飛鳥が明衣子を見上げた。明衣子も飛鳥の顔を見つめ返す。


「この子とバルカン君の息子さん、少し年は離れてしまうけど、あなたとバルカン君みたいに仲良しになれるといいわね」

「俺たちなんかより、もっといい関係を築けるさ、きっと」


 だから無事に生まれておいで。みんな、待っているから。





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