2015年フェスピ&マジラビ舞台記念SS第2弾
マジカル☆ラビリンスより。ティアラの過去話です。ネタバレを含むので、本編エピローグまで読了後にお読み下さい。
『やーい、捨てられっ子のティアラ!』
物心がつき始めた頃、村の子供たちに、そうからかわれた。
生まれてすぐに、この村から遠く離れたところにあるジャングルで拾われた私。
義父母の間には子供ができなくて、私を見つけた時、義父は「神様のお恵みだ」と喜んでくれたらしい。
初めてその話を聞いた時は驚いたけれど、不思議とすんなり受け入れられた。
自分にとっての親は義父母であって、それ以外の何ものでもなかったから、ふたりの本当の子供じゃないと知っても、気にはならなかった。
けれど、捨てられていたという事実は、時間が経つごとに私の胸に重くのしかかっていった。
本当の親の顔は知らない。どこにいるのかも。どうして捨てられたのか。自分は必要なかったのか。
そんな取り留めのないことを考えるようになって、ひとり泣いていた時。
「おい、ティアラ!」
呼ばれて振り返ると、幼馴染のクラウンがいた。
彼は村の子供たちの中心で、なぜかいつも私に意地悪をしてくる。
私はまたいじめられるのではないかと怯えた。
「ク、クラウン……なんの用ですか?」
涙を拭きながら後ずさる。クラウンは腕組みをしてじっと睨んでいた。
彼は私の顔を見るといつも、怒鳴ったり、髪を引っ張ったり、時には突き飛ばしてくるので、私にとっては怖い存在だ。
「また泣いてんのかよ、泣き虫ティアラ。ガキみてー」
「あうう、クラウンの方が私より子供ですよ~」
外見年齢はさほど変わらない。でも実年齢で言えば、私の方が年上だった。
私の言葉にカチンと来たのか、クラウンは「うっせー!」と怒鳴り、私の腕を引っ張った。
「ちょっと来いよ」
「ど、どこに行くんですか? やーっ、放して下さい~っ」
「騒ぐんじゃねぇよ! いいから黙ってついて来い!」
クラウンは私の腕を掴んだままどこかへと飛び立つ。
何をされるのか、どこに連れて行かれるのか。掴まれた腕も痛いし、怖かった。
怖くて目をつむって、何も見ないようにした。
「着いたぞ。見てみろよ」
しばらくして、クラウンが私の手を放したけれど、私は震えるだけで目を開けようとしなかった。
それでも、クラウンは何も言わずに待っていてくれているようで、私はおそるおそる目を開けた。
見えたのは一面の花畑。意識すると、花のよい香りが漂っている。
「わぁ……お花がいっぱいです……っ」
「オレのとっておきの場所だ。誰にも教えてやんねーけど、お前にだけ特別に教えといてやるよ。だから」
クラウンは地面から花を一輪引き抜くと、ぶっきらぼうに私に差し出した。
「うっとうしいから、いつまでも泣いてんじゃねーよ。ここならお前の仲間もいるかもしんねーし、元気出るだろ」
私は驚いて、その花を受け取れなかった。
言い方は悪いけれど、慰めてくれている? あのクラウンが。
この時に気づいた。言葉も態度も悪くて、意地悪だけれど、本当はクラウンが優しいってことに。
クラウンの差し出す花をそっと受け取り、私は笑みを浮かべた。
「ありがとう、クラウン。元気がなくなったら、またここに来てもいい?」
クラウンはそっぽを向いて「勝手にしろ。他の奴には絶対言うなよ!」と言って飛び去っていった。
私を捨てられっ子だとからかった子は、その後、私に対して何も言わなくなった。
それどころか怯えるように謝ってくれた。
後から知ったことだけれど、クラウンがその子を怒鳴りつけたらしい。
『今度、ティアラを捨てられっ子だって言ったら、オレが許さねーからな!』
村の子供たちのまとめ役だったクラウン。クラウンの言葉には誰も逆らえなかった。
でも、クラウンは私には何も言わない。
その話だって、数年後にカリン様から、本人には内緒で教えてくれたこと。
素直じゃないよな、とカリン様は笑っていた。意地悪で、不器用で、照れ屋で、素直じゃない。
いつしかそんなあなたを、私は好きになりました。
「おい、泣き虫ティアラ。女王陛下がお前のこと探してたぞ」
元気が欲しい時、私はこの花畑に来る。ここは私とクラウンしか知らないから、いつだって私を見つけるのはクラウンだけ。
「ふえぇ、泣き虫じゃないです~っ。何年経ったら分かってくれるんですかぁ」
アスカ姫様が女王になられた今でも、時々、意地悪をされるけれど、あなたが本当は優しいってことを知ってる。
「泣いてんじゃねーか。ったく、いつまでも変わんねーな」
でも、素直じゃないあなただから、簡単には受け止めてくれないでしょう。
だから、この気持ちは私の胸に留めておきます。
「……変わらないなんて、クラウンに言われたくないもん」
精一杯の呟きも、あなたには届かない。
「あ? なんか言ったかー?」
「なんでもありませんっ。早く姫様のところに行かなくては!」
「姫じゃなくて女王だろ。いつになったらその呼び方直るんだよ」
あなたが私の気持ちに気づくまで、私は泣き虫ティアラでいます。
あなたが気持ちを伝えてくれるまで、この気持ちは教えてあげないからね?