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真実  作者: 南波航助
1/7

1:事件

嘘を付いてしまった。今までそんなこと、無かったのに。それも、多くの人間にだ。僕はどうすれば良いんだろう。中学だってもう行きたくない。ゲームをしている方がよっぽど楽しい。みんなうっとおしく感じる。僕はベッドの上でそんなことを考えていた。小さな部屋。それが僕の居場所。

「浩助、ご飯」

母親のうるさい声がまた聞こえてきた。今呼ばれたように、僕の名前は浩助。川野浩助だ。

「今行くよ」

「早く来なさい」

「分かってるから」

どうして親ってのはここまでしつこいのだろうか。僕の心は熱くいらだちを覚えていた。ああ、どうしても気になってしまう。あの嘘が。僕は階段を駆け下りた。一段一段が母親に会いたくないと物語っているようだった。

 家族四人が食卓に座った。僕の兄が隣で姿勢良くそびえ立っている。天才だからそう思えてしまうのは仕方ない。

「あなた、庄一ね、今度学校のスピーチコンテストに出るんですって」

「ほほう、それは良かったな」

父親はいい加減だ。どうでもいいの一言につきていた。話題になるのはいつも兄ばかり。もうこんな暮らしは嫌だ。死にたいと何度思ったことか。いつもの用にご飯は終わった。そのまま僕は部屋に戻った。「勉強しなさいよ」っと母親に言われながら。

「はぁ」

僕は大きくため息をついた。あの嘘、どうしようか。携帯が鳴った。

「もしもし」

「あ、浩助ぇちょっと良いか」

「良いけど」

親友である昌広だった。僕はどきっとした。

「あのことなんだけど」

「うん」

汗が額から流れ落ちた。

「呼ばれたんだろ、学校に」

「ああ」

「何て言った?」

「何も知らない、って」

「親にもか?」

「そうだよ」

「分かった。お前もその気なんだな」

「・・・・・・うん」

「分かった、じゃあなぁ」

「おう・・・・・・」

電話が切れた。胸が痛い。この感覚は何だ。僕は学級長だ。今日の学校でのこと、常識では考えられないようなことが起きたんだ。僕は頭を囓った。咄嗟にテレビを付けた。予想通りのニュースが流れている。

「今日未明、石川中学校の教員多田秀男さんが何者かによって殺害されました。警察では現在も捜査を進めている模様です。中学生からは何も知らないとの声が多く出されており、犯人は今だ不明です。殺害状況は大変複雑であり捜査は難航しております。多田さんはもともと理科の教師をしていて・・・・・・」

テレビを切った。かみかみのアナウンサーだ。やっぱりな。死んだんだ、多田先生。明日の学校はこれでちゃらだろう。

「浩助、明日の学校は休みだって」

母親がまた叫んできた。

「ああ」

「やっぱりあのことが原因のようよ」

「そうだろうね」

予想は的中した。先生が一人死んだんだ、当然だろう。本当にあいつがやったのか・・・・・・。警察を巻くほどの事件。犯人を僕は知っていた。同じ組の男子、如月裕也だ。彼は一言で天才と言える様な男だ。クラスのボス。多田先生には恨みを持っていたらしい。彼が僕に言った言葉。「完全犯罪は可能なんだよ」って。本当にやっちゃうなんてな。彼の父親は政治家だし、お金に困ることは無いらしい。クラスのみんなに昨日宣言していた。有言実行かぁ。このこと、誰かに言ったら僕も彼に殺されてしまうかもしれない。クラスの誰一人として、このことは言わないだろう。僕は頭を抱え込みながら、そう思っていた。




「この事件、そろそろ時効らしいね」

「え、マジッスか」

俺の名前は三田春一。どこにでもいるような刑事だ。十年前起きた教師の不自然死事件が今年の十二月八日に時効になるらしい。今が十月だから・・・・・・後二ヶ月程度か。この事件の時、俺は新米刑事だった。あの頃は興味が無かったが、時効になってしまうとなると少し残念だ。

「で、田辺さん。これって、どんな死に方でしたっけ?」

俺は上司である田辺三郎に聞いてみた。

「えっとねぇ・・・・・・。確かぁ、中学の教師がねぇ。理科の研究室で、首をナイフでひと着きされて倒れてたんだっけなぁ。でもねぇ、何の証拠も見つからなかったらしいんだよ」

「へぇ〜そうなんすか」

俺みたいな頭の持ち主では解けそうにない問題だ。

「ホント、分かんないよねぇ〜」

「はい〜」

田辺の口癖は語尾を伸ばすことだ。たまに嫌になる。

「何か、気になりますね」

「うんうん」

「俺、調べてみよっかなぁ」

気になると行動に移したくなるのが俺の癖だ。

「ここんとこ事件ないし、良いよぉ」

何ていい加減な上司なんだろうか。まぁ嬉しい限りであった。

「じゃ、頑張りたいと思います」

「終わったら仕事やって下さいねぇ」

「はい」

俺は元気よく返事をしてしまった。この事件には何かある。今更だけど、刑事の勘って奴だった。

「ならほら、これ使えるんじゃない?」

「何ですか」

「その時のクラスの名簿だよ」

「おぉ〜」

「十年前だからねぇ、個人情報とかうるさくなかったもんだから住所も載ってるよ。まぁ多分引っ越してるところが多いと思うけどね」

「借ります」

「いいよぉ」

俺はパッとファイルを受け取った。三日坊主であることも俺の癖であったから、田辺も軽い気持ちだったのだろう。

「一人ってのも寂しいっすねぇ」

「そうだねぇ。あ、ほらほら。浅野くんも一緒にどうよ?」

それまで隣で書類に手をかけ、話に一切入ってこなかった女に話しかけた。

「私は結構です。仕事がありますので」

「いいじゃないのぉ、たまにはさぁ」

「いえ、職務がありますので」

田辺は浅野に嫌われている。浅野というのは浅野美和子という女で、一年前ほど前からここで働いている。仕事女という感じであった。ルックスは良いのだが、性格がちょっと。

「ほらほら、この事件手伝わないと仕事やらせないよぉ」

「そ、そんなぁ」

おかしな話である。

「分かりましたよ、その代わり、給料はしっかりと頂きますよ」

「いいよいいよ」

いい加減な田辺。

「田辺さん、良いんですかぁ?」

俺は思わず聞いた。

「いいのいいのぉ」

「何でです?」

「若い二人は難問を乗り越えてくれよぉ」

意味が分からない。

「ささ、お二人とも早く行きなさい。さ、早く」

「あぁ」

俺と浅野は押され、無理やり外に出されてしまった。俺はドアの隙間から中を覗いてみた。田辺が携帯ゲームを出していた。笑顔が溢れている。そういうことか、ゲームを職務中にもやるために俺らを・・・・・・。まぁこっちとしてはいい話だ。このままにしておこう。

「さ、浅野。調べるぞ!」

「・・・・・・はぃ」

そんなこんなで俺らはこの難事件を調べることとなった。

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