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奪った牙とその報復

ギルドを出る時に受付嬢に頼んで地図を描いて貰ったのだが、凄く分かりやすい。ギルドの受付嬢には地図を創る技能でもあるのだろうか?

地図によれば屋敷は隣の国へ行く道から二キロほど脇に逸れたとこに建ってる様だ。徒歩で行くにはかなり遠いが、馬車に乗るのは嫌なので俺は身体強化を使い走っている。馬車よりは速いが、体力の消耗か激しい。

一時間ほと走ったとこで木陰に入り休憩をする。暫く肩で息を整える。


『いや~、全力疾走してましたね』


「なるべく王都から離れたかったからな」


『乗り物酔いに効く魔法を創れば馬車にも乗れますよ』


「そこまでして馬車に乗りたくない」


『いや、馬車があるのと無いのとじゃかなり差がありますよ!』


「例えばどんなだ?」


『荷物の運搬』


「お前の作ったポーチがある」


『普通の人には無いですからね?それと移動手段』


「走った方が速い事がついさっき証明された」


『それも出来る人と出来ない人がいます』


「少なくとも俺には出来るから問題ない」


『ああ、何だか常識が何処かへ行ってしまった気がします』


「異世界に召喚された時点で常識もへったくれもあるか」


『それはそうですけど』


「そして俺の傍に一番の常識壊しがいる」


『それもしかしなくても私ですよね?』


「自覚がお有りの様で」


『何かそういう言い方をされると凄くムカつきます』


「しっかし、屋敷遠いな」


『馬車を借りなかったのが悪いです』


「仕方無いだろ、乗り物酔いが嫌なんだから」


『それは良いとして、何時まで休むんですか?』


「移動を再開しろって言いたいのか?」


『そこまでは言いませんが、このままだと日が暮れますよ』


「わかったよ」


俺は立ち上がると足を解し歩き始める。


『およ?今度は走らないんですか?』


「もう王都から大分離れたし、走る理由も無いからな」


『夜はどうするつもりですか?』


「夜も歩くぞ。限界が来ない限りな」


『既に一度徹夜してるからハイになってません?』


「お前に無理矢理起こされて魔法を練習した時よりはましだ」


『そこまで言わんでもいいじゃないですか』


「それだけの事をやってんだよ」


『そういえば朝から何も食べてませんよね?』


「朝どころか昨日の昼から何も食べてないぞ」


『王城で出された物は触りもしてませんでしたね』


「牢屋で出された物なんか食うかよ」


『でも食べてないと死にますよ』


「例えそうだとしても生理的に無理」


『確かにあれは人に出す物じゃなかったですよね』


「あの水とかドブから汲んできたんじゃねぇの?」


『腐ってるのは確実でしたね』


「あんな物を口にする方がどうかしてる」


とか愚痴を言いながら歩いていると狼の魔物の群れに遭遇した。警戒しているのか直ぐには襲ってこない。


「何で魔物がここに?」


地図によればこの辺りは安全な筈だ。


『あー、原因があるとしたら貴方の持ってるナイフですかね』


「何でナイフ何だ?」


『そのナイフってあの狼の牙ですよね?』


「そうだな」


『あの狼はブラストファングって言うのは知ってますよね?』


「ああ、本に書いてあった」


『何て書いてありました?』


「仲間意識が強く群れの仲間が殺された場合臭いを追って仇を・・・・・まさか!」


『そう、そのまさかみたいですよ。そのナイフの臭いを追ってここまで来たようですからね』


「つまり、戦いは避けられないと」


『ええ、奴等の臭いは最低1ヶ月は落ちないので逃げてもまた捕捉されますね』


「だったらここで憂いを払っておくか」


『牙の射程に注意して下さいよ!』


「分かってる!」


俺は腰元からナイフを引き抜き、魔力を流し込み起動・・させる。向こうは既に俺を包囲して狩りの準備をしている。周りを見て確認したところ群れは全部で五匹いるようだ。増援がくる前に決めたい。


「今まで使ってなかったからちゃんと使えるかな」


『重さは変わらないのでそこは問題ありませんが、ナイフを持ち変える時は十分注意して下さいよ』


「分かってる。射程見誤って自分を斬る様な真似はしたくないからな」


『向こうもタイミングを伺ってるみたいですね』


「奴等が動かないなら、こっちから行くさ!」


俺は物質強化を使い全身の皮膚とローブの強度を上げて、その上で身体強度を発動し目の前にいた狼に向かって踏み込む。その瞬間狼達が動きだした。


「くだばれぇ!」


『グアァァァァァ!』


互いに牙を媒介にして造り出した魔力の刃が何も無い空中でぶつかり合う。

ギィィィィン!と辺りに甲高い音が響く。

両手に持ったナイフを使って攻めていくが、如何せん向こうは牙に爪と手数が多い、それに加え群れでいるため常に全方位に気を配らないといけないので、精神的にもキツい。

少しでも脅威を減らす為、常に相手の懐に入り込んで攻撃を与えていくが、どれも毛皮に阻まれ致命傷にはならない。


「くそっ!ナイフじゃ火力が足りない!」


『ど、どうするんですか!?包囲網は段々狭くなってますよ!』


「こうなったら奥の手だ!」


『何かあるんですか!?』


「ラーン!広辞苑の形になれ!」


『何でですか!?』


「ナイフは毛皮に阻まれて届かないが、鈍器であるあれなら問題ないはずだ!」


『ああもう!分かりましたよ!やるからには絶対勝って下さいよ!』


「ああ、多分大丈夫だ」


ナイフを腰に戻すとラーンが袖から出てくる。そしてそのまま形体変化を行い広辞苑になる。

牙を左のナイフで受け流し、その勢いを利用し体を回転させ右手に構えた広辞苑で近くに来ていた頭を殴りつける。案の定鈍器の衝撃は毛皮で吸収出来ないらしく始めて体制を崩した。

そこに間髪入れずに強化した回し蹴りを頭に叩き込む。それにより頭が下がったので胴回し回転蹴りで地面に叩き付ける。グシャッと肉を潰す感触と共に目玉が飛び出しピクリとも動かなくなる。


「まず一匹!」


それを見て激昂したのか別の個体が攻撃をしてきた。怒りに我を忘れているのか攻撃はどれも直線的で先程よりは避けやすい。

腕を振り抜いた瞬間を見計らいバックステップで距離を取り、向こうが踏み込んで来るのに会わせて奴の顔に向けて砂を蹴り上げる。

目に入ったのだろう、一瞬動きが止まったので、首目掛けて跳躍し、脚を開き、左右の脚をそれぞれ反対方向に振り抜き、限界まで強化された脚力で首を挟む、首を切断する事は出来なかったが、首の骨は確実に折れただろう。


「二匹!」


血を吐き崩れ落ちていくのを横目に見ながら踏み込むのを躊躇っていた個体に肉薄する。

広辞苑で下顎を打ち上げ、左目にナイフを抉り込む魔力の刃が脳まで達したのか一瞬で動かなくなった。


「これで三つ!あと二つ!」


しかし、狼の魔物は普段二匹で狩りをしているのか二匹になった途端にコンビネーションが上手くなった。


「くそっ!捌ききれねぇ!」


皮膚とローブを強化している為、まだ致命傷は受けていないが、捌ききれない攻撃が一つ、また一つと裂傷を刻んでいく。

魔力はまだ有り余っている為、全身に掛けた強化を更に強化する。加えて思考加速を使い脳の処理能力を底上げし、感覚を拡張し一秒を何倍かに引き伸ばす。世界がスローモーションの様に見える。


「これならいけるか?」


『しっかりして下さいよ?貴方が死ぬと漏れなく私も終わりなんですから』


「分かったよ。そういやお前って治療魔法使えるのか?」


『生半可な奴等よりは使えますよ』


「だったら準備をしておいてくれ」


『死ぬ気は無いんですね』


「あったらもう死んでるよ」


『ですね』


これらの会話を一秒以内に終え、再び向かってくる狼に集中する。四方八方からほぼ同時に攻撃がくるので、片方に意識を割きすぎるともう片方に捕らえられてしまうので一匹に常に密着し、攻撃がくる範囲を少しでも減らす。

前方の狼の頭を蹴りで捉え、着地し、そのまま追撃を加えようとしたが突然膝から力が抜ける。


「んなっ!?」


その瞬間頭上をゴウッ!と後ろから放たれた爪が通り過ぎる。偶然回避する事が出来たが、次は無いだろう。そして、俺が戦える時間は残り少なくなっていた。

身体強化を使い肉体に過負荷を掛け続けた事と、けして少なくない裂傷からした出血による出血多量により視界が歪んでいた。

先程蹴りつけた狼は脳震盪を起こしているのか動かない。

残った一匹は体を沈めると、一気に飛び掛かってきた。


『グアァァァァ!』


それを横に転がる様にしてなんとか回避する。ボッと音がし、地面が吹き飛ぶ。

ナイフを右手に持ち直し魔力を集中させる。すると魔力による刃が大きくなり、地面を抉り始める。それを振りかぶるとこっちに向かって走ってくる狼の眉間目掛けて投げつける。


「オラァァァァ!」


ナイフは眉間に吸い込まれる様に飛んでいき、空中にいた狼を打ち落とした。

頭上を越えていき後ろからズザァァァァ、と大きな物が滑る様な音がした。振り向いて確認すると傷が浅かったのか起き上がった狼が再び走ってくる。その眉間に残っていたナイフをローリングサバットで深くまで押し込む。ミキィ!と頭蓋を貫通する音と共に狼の目から光が消える。

地面に倒れ伏せていた個体の頭部に踵落としをし、頭蓋を踏み潰した。


「これで・・・・全部・・・・か」


俺は地面に大の字に倒れる。


「あー、疲れた」


「ギリギリでしたね」


人の姿を取ったラーンが話し掛けてくる。


「死ぬかと思った」


「動かないで下さいよ。今治療しますから」


「ああ頼む」


「『リフトリート』」


そう唱えるとラーンの掌から出た白い光が体を包むと全身にあった裂傷が塞がっていった。傷口が急速に塞がっていく感覚は何だか妙な感じだった。


「何か変な感じがするな」


「その内慣れますよ」


「慣れるほど怪我をしたくないな」


「同感です。それより、この死骸の山をどうします?」


「用途があるもの以外は焼いてしまおう」


「となると牙と、この前は使わなかったけど毛皮ですかね」


「毛皮で何を造るつもりだ」


「顔を隠せる物があった方がいいでしょ?」


「なら防寒具にもなる物を頼む」


「ならマフラーでいいですか?」


「コートとかは造れないか?」


「任せて下さい!マフラーとコートですね?」


「ああ」


「んじゃ張り切って造っていきますか!」


そう言うとラーンは手刀で毛皮を剥ぎ取っていき、素手で牙を引き抜いていった。

あれ?あいつに戦わせれば良かったんじゃね?俺がそんな事を考えている内に剥ぎ取りを終え、牙でナイフを造り、コートとマフラーを編み始めた。


「どっから針を取り出したんだお前は」


「ん?針ですか?針は魔法で造りました」


「しかしお前編み物上手いな」


「大抵の事は出来ますよ?」


何て言うかラーンって広辞苑の枠から派手に飛び出てると思うんだ。

ラーンが編み上げたのはシベリア等の北方の地で良く見る毛皮のコートとマフラーだった。

早速それを体に掛けて寝る事にする。疲れてこれ以上起きてられない。

戦闘描写ってあまり得意ではないのですがいかがだったでしょうか?

楽しんで頂けたのなら幸いです。

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