恐怖との戦い
今の狂った神共とは違う。まだ神界にも、正義があった頃だから。
神が神以外の存在と争うのは、許されてはいけないことであった。
それでも私は、人間を救いたいと願う。羅刹は、自分がどうなってでも私の願いを叶えたいと思ってくれる。
そして調べて貰ったんだ。
神の中の神、鬼神のその中の大ベテランであるトップ。大神様の次に偉いと言われる存在。
そんなお方が、我が儘に応じて調べてくれた。
羅刹の素直な想いに応じて調べてくれた。
彼としては、ルールを破るような真似はしたくないと思っていただろう。だから、本気で何か止むを得ないとなるような事情を探した。
どんなに探しても、見つかりはしなかったのだが。
何より大神様が、あいつのことを正式に悪と定めた。全てを知る大神様でも、あいつのいいところを見つけられはしなかったと言う。
スペックは低くないのだから、それを守る為に使えればよかったのに。
あの力、守ることも出来るあの力。ヒーローにもなれたかもしれないのに。
悪と言う道を選び、全てを敵に回した。人々を苦しめ、仲間と慕ってくれた魔物も殺し。何もかもを殺し尽くそうとし、神によって裁かれた。神によって裁かれる予定であった。
しかしその前に、私があいつを殺した。
それによって、私は神としての資格を失う。その上、あいつの罪が少し緩和されてしまったのだ。
だからこそ、私の手であいつは裁かないといけない。今の神界に革命を起こし、私は私の力で神となる。
そして新しい神として、あいつを裁かないといけないんだ。
それが私による罪滅ぼし。
神として絶対にしてはいけないことを私はしてしまった。そんな私に、神となる資格はない。資格を奪われ腹を立てていたけれど、よく考えれば当然のこと。
でももう大丈夫。
人間として孤独に何千年も生き続けた。神の力こそ失ったものの、老いが早くなる訳では無い。
若き姿のままであることに疑問を持たれてしまうので、数十年すら同じところに滞在は出来ない。一人旅を続ける、苦しい日々であった。
その日々を終わりにしてくれた羅刹。もう一度私の為に、全てを捨ててくれた羅刹。
その為にも、私は絶対に勝たないといけない。平和の為に戦うのは可笑しいと訴え続けた私だけれど、戦わないといけない。
全てを取り戻す為、全てを守る為、狂った世界を変える為。
私は覚悟しないといけないのである。
悪と呼ばれることを恐れてはいけない。笑いものとなることを恐れてはいけない。大好きな人間に恐れられることも、恐れてはいけない。




