いつしか悪は
「魔王を殺す。やっぱり凜子の想いを遂げる為にも、アイツを完全に消し去る必要があるわ。羅刹、分かっているわよね」
低い声で呟くように私は言う。魔王を殺すと言った時点では、羅刹も凜子も驚いたような表情を見せていた。それでも、そのあとの言葉を聞いて分かってくれたらしい。
「そうですね。今でもまだ、僕達の邪魔をしているようです。情けを掛けたのが間違いでしたね」
同じトーンで羅刹も返してくれる。実際にアイツと会ったことがある訳では無いけれど、凜子も分かってくれていると思う。ただ彼女は、あのクズのことも救えなかったのかなどと言っていた。
「多くの命を奪った奴のこと、貴方は庇うの? 罪は償わせるべきだから、止めて頂戴ね」
凜子は、私が思っているよりもずっといい子だった。殺害という行為を嫌っていたから、この言葉により納得してくれると思ったのに。私の偽善とは違ったんだ。
「何か、事情があったのかもしれない。それこそ私のように、殺すつもりがなくても殺してしまうのかもしれないし。それではやはり、私も罪を償うべきなのであろうか」
そんなんじゃない。あいつは確かに、殺すことに悦びを覚えていたんだ。そう言おうとするけれど、私に断言することなんて出来なかった。あいつの話なんて何も聞いていないから、どんな理由で殺していたかは分からないのだ。
その理論で行ったら、私や羅刹だって罪を継ぐわなければならない。ましてや羅刹なんて、今まで何億何兆という単位の命を奪って来た。クズ魔王よりもずっと悪いことになってしまうじゃないの。
「彼のことは十分調べていました。しかし、貴方のような特殊能力は発見されていません。貴方とは違い、神には手を伸ばしても届かない程度の存在でした。未熟な僕ではなく力が万全であるベテラン鬼神が調べたもの、間違いは無い筈です」
殺したい。その為の力なんて、大きな力になる筈がない。自分が殺される覚悟を持っていたから多少性質が悪かったものの、雑魚よ雑魚。それに、こちらとしては殺すのに抵抗がいらなくていい。
本当に強いのは、守りたいと願い戦うもの。大切なものを守りたい、乱れ狂ったこの世界を変えたい。そんな思いで戦っていたから、凜子は強かった。私より正しい正義を掲げていたからこそ、自分が悪となることを恐れなかったからこそ。凜子は私よりもずっと強かったんだ。
「あの頃は神だってちゃんとしていたの。簡単に行動なんてしないし、させなかったわ」




