少女の悲しみ
「そんなに悪い人だったの? その人のことを、助けてあげることは出来なかったの? 加害者と被害者、簡単に決め付けちゃダメだよ」
何を言っているのかしら。凜子は、あのクズ魔王さえも救うべきだったと言うのね。まあ、女神としてはそうするべきだったのでしょう。平等さを求めるべきであり、片方に手を貸すだなんてあってはいけないことであった。
でも私が好きな人間を、苦しめるあいつがどうしても許せなかった。その前から魔物を下に見ているところはあった訳だし、それを先になんとかするべきだった。そう考えれば、あいつに手を貸した魔物の気持ちは理解できる。
それでも、あいつは救う為に戦っていた訳ではない。魔物を救う為に戦うでなく、欲望のまま人を殺していただけだった。そして人を殺し終いには共に戦ってくれている魔物すらも殺し始めて。
結局魔物はあいつの命令に従うことしか出来ないでいて、苦しむ結果になってしまった。それは魔物たちの見る目が無かったとしか言えないわ。でも元々生じていた不平等さは、完全に神に非があるわ。
「一部を見ただけでは、どちらが悪いかなんて判断できないでしょ? 桃太郎は鬼退治に行ったけれど、本当は村人が鬼を襲ったのかもしれないよ。浦島太郎は亀を救ったけれど、本当は亀が子供を苛めていたのかもしれない。どちらが悪かなんて、咄嗟に判断は出来ないよ」
どこまでいい子なら気が済むのよ。いい子ではあるけれど、相当不器用な子みたいね。そんな素敵な持論があるのに、それを伝えることが出来ないのね。
その気持ち、よく分かるわ。固定観念から抜け出すことが出来ないで、話を聞くことを諦めてしまうの。どんなに説明したって、理不尽な言葉で返されて片付けられて。それでも伝えたいと思い、凜子は武器を取ってしまったのね。
「人間を悪と決めつけることも出来ません。殺してしまってもいいのですか? そこは認められませんが、説明頂けないでしょうか」
命の尊さを、羅刹は誰よりも知っている。だからこそ、簡単に殺してしまうと言う行為が許せないのでしょう。それはたとえ何であっても、命を奪うような行動はしないで欲しいと願うのでしょう。
何度も祈りを聞き感動の場に直面して、生き続けて欲しいと羅刹も願う。まだ生きていて欲しいと願いながら、目を閉じ武器を振り下ろすんだ。救いたいと願い、小さな手でその命を絶つ。私にその苦しみが全て分かる訳ではないけれど、一つだけ言える。羅刹は殺したくて殺している訳ではないということ。
「あれは違うの。私がどんなに訴え掛けても、皆は聞いてくれなくて。どうしても悲しくなっちゃって。涙を零すと、人間達は死体と化しているの。初めはそれを嘆き、さらに多くの人を殺めてしまった。そのことに気付いて、私は強くなろうと思った。決して泣かないと決意し、笑顔を手にし口調も一生懸命強くした」




