戦は終わっていない
「驚きましたね。本当に、以前現れた魔王を名乗る男とは訳が違うようです。この世の中の理不尽を必死に訴え、低い地位に立たされているものを救おうとする。神すら腐ったと言うのに、ここまで素敵な人間が生まれるとは。本当に、驚きですね」
凜子のあとを飛びながらも、なんだか羅刹はベタ褒めであった。ちょっと嫉妬もしたけれど、羅刹の言葉には私が一番共感を覚えている。
「そうね。人間を救ったけれど、人間は何も変わってくれなかった。結局、魔物への差別が強まっただけだったんだ。凜子はそれに気付かせてくれた。感謝しないとね」
これで分かった。そう、凜子は敵ではないんだ。凜子は敵ではないけれど、魔王は敵よ。魔王を倒すことで、凜子を救ってあげなければいけない。
「どうして魔王と名乗るの? 確かに魔物、つまり魔の王になるのならば魔王だわ。それでも、もっと他に何かあった筈じゃない」
どう考えたって、魔王と聞けば人は嫌がる。いつの間にか、魔王と言う存在自体を嫌っている。
「魔王を名乗り暴れた野郎がいて、そのせいで人間は魔王と言う響きを恐れた。そしてそれを神が、つまり私が救ったの。それから人間は魔王の上に立った気になっちゃって、魔物を奴隷のように扱うようになった。ごめんなさい、元を辿れば私が悪いわ」
あの男を完全に消し去らないといけないわね、そうすることで凜子を救うんだ。彼女には魔王になって欲しいと思う。文字通り、魔の王で魔王。決して、悪者なんかではないの。
魔王は悪い。こんな式が、人間界では成り立ってしまっている。それを私たちの力で打ち壊し、凜子には人間にも慕われる魔王になって欲しい。それが魔王を、あの男を本当に倒したということになるのでしょう。
しかし、これだけ時が経ってもまだ影響するなんて。あいつ、いつまで私に憑りついているつもりなのよ。自惚れていたのは知っているから、呆気なく殺されて悔しいのは分かるわ。それでもいつまでも地味な邪魔を続けて、カッコ悪さの塊じゃないの。魔王を醜い者のように言うあいつの影響がまだ、むかつくぅぅう!
「腹を立ててはいけません。貴方が不快な思いをすることを、今でも地獄で望んでいることでしょう。人間界に下りる前に久々に地獄へ寄ったのですが、僕が行った途端に噛み付いて来ましてね。彼はかなり執念深いようです」
それだけずっと私たちを想ってくれてるなら、それはそれで嬉しいけどね。あいつの記憶に深く私の名を刻み付けることが出来たってことでしょ? そしてそれによって、彼は永遠にこの世には帰って来ない。つまり、今でも私が封印しているとも取れるじゃない。




