本当の敵は
「私は、魔物のことも救ってあげたい。全てを平等にする。その為に私は、人間ではなく魔物にまで落ちても構わない」
そして私はそんなことを言っていた。神が人間を庇い落とされ、今度は魔物を庇う? そこまで堕ちて行く神、今までいなかったでしょう。それでも私は、不平等な扱いを受けている種族を救いたいと思った。
不平等。古い神は古い仕来りに囚われて、不平等さに気付いていないのよ。特別なんかない。生んだのは私たち神なんだから、生まれつきの姿で差別することは許されないわ。
どうしてこんなことに気付かなかったのかしら。救うべきなのは人間だけじゃなかった。低い立場にいる種族を、救ってあげるべきだったんだ。妖精を懐かせて大神様のお気に入りになって、媚び売って過ごすなんて嫌じゃん。それに気付いたんだったら、それなら……っ。
「そうですか。姫神様がそう仰るのなら、僕も落ちていくことを躊躇いはしません。姫神様の為ならば、死さえも恐れはしないでしょう」
優しく微笑んで、羅刹は共感の言葉をくれる。もしかしたら、もっと前にこのことに気付いていたのかもしれない。そして羅刹は、それを私にも気付かせようとした。その為に、犯罪案をわざと出した。
「凜子と戦うなんてバカみたい。私たちには、他に戦うべき敵がいる。古い神を消し去り、新しい神になりましょう」
全くの同意権を持っていたんだわ。同じ過ぎて、戦いになってしまっただけ。お互い理解し合うことは容易な筈よ。
「その為にも、もう一度凜子に会わないといけない。私は本当の敵に気付いたから」
でも、どうやって会うと言うのよ。元々それを考えていたんじゃない。
「本当、なのか? 本当に私と同じ志の元、戦ってくれるのだろうか」
背後から、不安気な凜子の声が聞えて来た。彼女のそんな震えた声は初めて聞く。
「まだそこにいたのね。それで、そこで私たちの話を聞いていたんだ。ふん、いい根性してんじゃない。盗み聞きなんて、許せないわ。聞かれたからには、……共に戦うしかないわね」
素直に仲間にしてくれなんて言えなかった。その態度に凜子は真実であると感じてくれたらしい。今まで見たこともない笑顔で、私たちの目の前に現れた。
「それじゃ、一緒に行こう。本当の本当の本当に、罠じゃないんだよな? よしっ、着いて来い」
さすがに信じ切れてはいないようだが、凜子に疑っているような様子はない。こうしてみると、凜子はただの素直な少女なのだろう。素直に、魔物を救いたいと願った優しい少女なのだろう。




