許さない逃がさない
「はっはっは、それはそうだな。いいこと言うじゃないか、死神さんや」
ちょっとした失言よ。でも、凜子ではなく羅刹に指摘されたと言うところが気に入らないわ。どうして羅刹が。
「いいえ、僕は鬼神です。死神ではありません。神の中の神、鬼神でございますよ」
そんなのどうだっていいわ。てか、羅刹だってそうよ。相手をバカにするような笑い方、気に入らないわ。
「無意識のうちに人間を上に見ていますよね? それがいけないのです。そこから改善していかなければ、凜子さんを説得することは不可能でしょう」
そうやって、私を陥れて自分をよく見せようって言うの? 信じられない、やっぱり鬼神って汚いのね。信じた私が悪い、騙される方が悪い。どうして私は鬼神なんて信じたのかしら。
「ねえ、姫神様。なんでも人のせいにしていないで、自分の罪をお認めになられてはどうでしょう。いい加減もう子供ではないのです」
そんな適当な言葉じゃ、凜子を説得することなんかできないわよ。残念だったわね、貴方が汚い神であるという認識は変わらないわ。
「どうして分かってくれないのです? 僕は貴方を思い、変わって頂きたくてこう言っているのです。それなのに、どうして目を合わせてくれないのですか? まるで罪人のようではありませんか」
五月蝿いわね。私にも信じようと言う気くらいあるわ。変わらなきゃいけないことだって分かっているわ。でもその為には、羅刹の方が変わらなきゃいけないんじゃないかしら。人のことを言う前に、自分が変わりなさいよ。
罪人だなんて失礼ね。そんなこと、ずっと前から分かっているわよ。私は醜い神、罪を犯し人間界まで逃げて来た神。そんなこと、ずっとずっと前から分かっているわよ。
「いつまでお喋りしているんだ? 私もいい加減暇じゃないんで、そろそろ行かなきゃいかん。世界征服へと」
その言葉が聞こえたときには、もう凜子はどこにもいなかった。逃げられた、のかしら。でも、どうやって消えたと言うの? 魔王を名乗っている若者が、調子に乗りやがって。少しばかし力を手に入れたからって、自惚れてるんじゃないわよ。
「世界征服、止めないといけませんね。どうしましょう」
そう言う羅刹にも腹が立つわ。どうしましょうじゃないわよ、まずやるべきことは決まっているじゃない。
「妖精たちを取り戻すわ。あいつら、どこに逃げたのよ。許さない、この私から逃げられるとでも思っているのかしら」
どうすればいいのかしら。私がどんどん悪人に近付いて行くのを感じるわ。




