人を贔屓
「その弱い攻撃、何度繰り返すつもりなんだ? 殺気が全く感じられない」
やはり普通に帰ってくる凜子。そして羅刹に気を取られているうちに、今度は私が行く。
凜子を殺したりなんかしない。折角女神なんだから、女神の為のいい魔法があるじゃない。悪を浄化し傷を癒す、一人前の女神だけが持つことの出来る魔法。
今の私には少し負担が大き過ぎてしまうわ。でも、私はやるの。凜子を救う為、羅刹を救う為、私を救う為に……。
「殺気? ふふっ、何可笑しなことを仰っているのですか? 僕はずっと言っているではありませんか。殺すつもりはありません、と。貴方のことも救うのです」
なぜか凜子は羅刹の言葉に大爆笑。それも、ちょっと笑い方が腹立つ。もしかして、怒らせて殺させる為にこんな笑い方をしているのかしら。危なかった、危うく引っ掛かるところだったわ。
「笑わないで頂戴。私たちは貴方のことを救いたいの。それなのに、どうして分かってくれないの? 私たちの気持ち、どうして理解してくれないの? 貴方は何がしたいのよっ! 分かんない、なんで笑ってんのよ」
私はわざと取り乱して見せた。羅刹が驚いたような表情をしているから、気付いていないのでしょう。そして羅刹が気付いていないなら、凜子が気付いている筈がないわよね。
さすが私、天才的な演技力ね。さて、このあとはどうしようかしら。凜子を改善できるような言葉を投げ掛けないといけないのよね。ってことは、言葉を慎重に選ぶ必要があるわ。
「面白いからさ、楽しいからさ。何? 私は笑うことすら許されない訳か。はは、神様は厳しいなぁ」
うぅぅ、ムカつくわ。でも、本当に起こって取り乱したりしちゃダメ。冷静に、あくまでも頭は冷静でいないといけないわ。
「そんなこと言っていない。笑顔は大切だと思う。でもっ! そんな、人を馬鹿にするような……そんな笑い! 貴方じゃなくても許さないわ。誰だとしても、そうやって笑うような人は許さない」
特別ではない。まずそれを理解させないといけないわよね。
「姫神様、僕は神です」
私が考えていると、羅刹がいきなりそんなことを言って来た。どうしたのかしら、そんなの分かっているわよ。
「人を馬鹿にするようなって、でも僕らは神です。笑うような人は許さない、姫神様はそう仰られましたよね? それが差別という物なのです。どうして人だけをそう言うのですか? どうして人なのでしょうか」
なんで味方である筈の羅刹にそんなこと言われなきゃならないのよ。




