悪と悪
「酷いですっ! 凜子さんは私を拾ってくれた。羅刹さんは私を救ってくれた。二人のこと、私はこんなにも大好きなのにっ! それなのにどうして……」
凜子も神になり掛けてしまおうとしている。羅刹は正真正銘神そのもの、神の中の神。夜叉姫は神ではないの。
確かに、神を除けば最上級だわ。でも残念ながら、神に比べたらちっぽけな力よ。調子に乗って神を呼び出したりするから、軽い思いで神を呼んだのが悪いのよ。だから、こうやって後悔するようになってしまったんだわ。
呼ばれて簡単に言ってしまった私たちだって悪いかもしれない。だけど、それもあるけれど。ストーンの力まで使って神を呼び出すなんて。勿論逆らうことだってできるけど、無駄に力を使いたくはない。それだったら、言ってあげた方がまだ楽に済む。そんなことを思って、呼ばれた場所に行ってしまった。
それが悪かった。そのことだって認めるわ。でも、無理矢理に呼び出したのは夜叉姫だわ。今更私達のせいにされたって困るわね。
「お前のことはいい奴だと思ってる。力があるから、な。魔力に惹かれて拾った。可笑しいか? 魔王を名乗るものに、優しさを求めたのか? まさかな」
凜子の言葉に、梨乃はもう泣きそうである。それでも必死に涙を堪えている。可哀想に、神と関わったことを後悔するがいいわ。あの頃の自分を呪うがいいわ。
でも、いくら後悔したって変わらないわ。もうこうなってしまったから、どうしようもないの。残念だけど、貴方はここで全てを失うしかない。大人しく自分の家に帰ったらどうかしら? 今帰ればまだ、傷は浅く済むかもしれないわよ。
「この私が、憐れみそいつを助けてやるとでも? 魔王なのに、はっはははは」
そりゃそうよ。これだけ堂々と魔王を名乗っているのに、それに気付かなかったのかしら。もしかして、特別に私だけ魔王に救われたんだ。とか思ってるの? お姫様は本当に困ったものよね。
「僕のことも、助けてくれた優しい人だと思っていたのですか? 鬼神なんですけど、それには気付かなかったのでしょうか」
こっちもいかにも悪そうね。魔王と鬼神って、助けてくれるようには思えないでしょう? 恐怖、そんな感じじゃないでしょ。人には害しか与え無そうじゃん。
「物を壊すしかしない僕が、救う筈ないじゃありませんか。確かに姫神様のことは大好きです。彼女のことは救いたいと願います、守りたいと願います。しかし、他の奴なんてどうでもいいのです。助けたのはたまたまですよ。ふん」




