数千年の想い
それもそうね。凜子が何と言おうと、私達が勝てば凜子は悪になるわ。そして悪を倒したのなら、私達は正義となることが出来る。
「それだから汚い神と言われるのでしょう? 私は救うわ」
汚い神をやめるつもりはない。でも、汚い神を見せるつもりもないもの。こうすると、私の方が羅刹よりも汚そうね。ふふっ、だって汚くたって構わないもの。
「いい神ぶらなくて結構。ステッキの拒絶、これで汚さは証明されてるんだ」
可笑しいわね。ステッキが私達よりも凜子を選んでいるとでも? それは有り得ないわ。だって凜子は神ですらないんだもの、少なくとも完璧に当てはまる存在ではない。ならどうして? 信じたくないわ。
「拒絶なんてされていませんよ。ステッキをお渡し下さい、使用して見せますから。それに、僕が拾ったんだから僕のものですよ」
拾った? あのステッキって、拾って来ていたの。大神様に譲り受けたって、そう言ってくれたじゃない。あの時は本気でカッコいいと、凄いと思ったのに。
「あっ、姫神様。騙した訳ではないのです。ただ、ただ……」
何よ。騙した訳じゃない? ただ何なのよ。もじもじしやがって、男がそんなもじもじしてカッコ悪いわ。
「ただっ、大好きな貴方の前ではそう言いたかったんですっ! 凄いって、思って欲しかったんです。たとえそれが嘘だとしても、…………ごめんなさい」
そう言って頭を下げる羅刹。頭を下げる前の表情は、とても恥ずかしそうにしていたように見えた。耳まで真っ赤にして、目には涙も溜めて。それを隠すように、頭を深く深く下げている。
「愛の告白か? はっはっは、私はお邪魔かな」
そんなことを言って、からかうように笑いながらも凜子は近寄って来る。どんだけ性格悪いのよ、こいつ。邪魔なのが分かるなら、この場で消え去ればいいのに。
「凄いとは思ったわ。でも、嘘だったとはね。まあいいわ、ステッキを拾ったことも凄いと思うわ。さすがね」
私の言葉には皮肉も込められていた。別に私は羅刹を傷付けようってつもりはないんだけど。でも恥ずかしくて、私はそう言ってしまっていた。
「振られちまったな? 可哀想な死神さん」
分かってる。こんなこと言ったって、愉しむのは凜子だけだって。そんなことは分かってるわよ。でもいきなりそんなこと言われたら、恥ずかしくなっちゃうでしょ? 仕方がないと思うわ。
「五月蝿い、違います」
怒りに震えているような様子の羅刹。違うと言って、凜子のことを睨み付ける。
「僕は死神じゃありません! ……………………鬼神です」




