心か表面か
「お前らみたいに汚い神を、ステッキが受け入れるかよ! 聖なる神にしか扱えないステッキだ」
失礼ね。そう、怒りたいところだったわ。でも、自信を持って違うと否定することが出来ない。聖なる神であるとは、自分でも思えないわ。
「いいえ。ステッキが受け入れてくれなくても、使用することは出来ますよ? 少なくとも、貴方を倒せる程度の力は出る筈です」
汚さを否定してはくれないのね。分かっている、分かってはいるのよ。人間界に逃げて来た時点で、汚いのは分かっている。いくら助ける為とか言ったって、結局逃げて来たんだわ。そんなの、私自身が一番分かっているわよ。
「あれ? どこに行ったのかしら」
魔王とのやり取りに夢中になっていて気付かなかった。後ろにいた筈の妖精がいなくなっているのだ。
「逃げたのではありませんか? 僕らと同じように」
その言い方、地味に傷付くわね。でも、本当にどこに行ったのかしら。逃げるだなんて、妖精はその程度なの? 自信があるように見えたのも、強がってただけなのかしら。
「本物の神の、神としての姿を拝むことが出来たんだ。あんな妖精共どうでもいい。もっと素敵な伝説に会えた」
ステッキで遊びながら、楽しそうに凜子は笑っている。何よ、何がそんなに可笑しいのよ。私達のこの無様な姿かしら。それとも、神に勝てたと喜んでいるの? ふん、だとしたらこっちが笑っちゃうわ。
「神は伝説じゃありません。ずっと、ずっと皆を救い続けてきました」
救い続けてきた? そんなこと言われたら、さすがの私だって笑っちゃうわよ。
「傷付け続けてきたんじゃないのか? いつ神が救ったのか、教えて欲しいな」
ええ、私もそれは思うわ。ずっと傷付けてきた、守ることなんて出来なかった。
「確かに鬼神は傷付けることしかできませんでした。しかし、女神は様々な世界を救ってくれています。いつも優しく微笑み、温かい手を差し伸べてくれます」
そんなことないわ。やっていることは、殆んど同じだったじゃないの。同じことをしているからこそ、一緒にいるんじゃないの。
「鬼神が壊したものを、女神は救ってくれるのです。しかし僕は、救われたものを傷付けてばかり……。そこは感謝しますよ、凜子さん」
どうして凜子に感謝するのかしら。羅刹の言葉の意味、私にはさっぱり理解できなかった。
「貴方のおかげで、僕も守ることが出来そうです。倒したくない、そうは思いますが。悪を倒すことで、僕は正義になれるのです。それは魅力的です」




