魔王と神
「正義と悪だったら、絶対に悪の方が強いんだよ。だって周りを気にしなくて済むから」
確かに凜子の言う通りだわ。でも残念ね、その前の段階よ。
「生物と神だったら、絶対に神の方が強いのよ。だって周りを気にしなくて済むから」
思い出したわ。私は、姫神よ。過去のことも、羅刹のことも思い出したわ。能力も魔法も、魔王の倒し方だって思い出したわ。
「陽香さん? いえ、姫神様……ですね。これも使えますか? 思い出しているといいんですけど」
羅刹が渡してくれたのは、リボンのステッキであった。
「ええ、思い出したわ。任せて、行きましょう」
二人で力を使えば、魔王なんて恐れることは無い筈だわ。ただ問題点としては、力を使い切ることが出来ないところよね。この体が不便だわ、そしてそれは羅刹もずっと思い続けてきたことなのでしょう。
「はい。陽香さんの姿をもう必要としないのでしたら、力を解放することも可能です」
最後に”悠馬”は微笑んだ。それに”陽香”は微笑み返した。そして悠馬の姿は失われ羅刹となり、陽香の姿も失われ姫神となっていた。
肩に掛かる綺麗な黒髪、全てを闇へと誘う漆黒の瞳。不気味に笑う口、それなのにどこか優しそうな表情。だぶだぶの黒い布に包まれた細い体、その手に握られた可愛らしい花のステッキ。この懐かしさを感じる姿こそ羅刹って感じだわ。
「……あ」
驚きの表情を浮かべる凛子。前にもいたわね、魔王を名乗る人間。
「あの時は本当に、全てを破壊してしまったわ。でも気付いたの、それじゃ魔王の思い通りだって。今回はもうそんなことしないわ。もう繰り返さない、絶対に」
守るんだ、人間も妖精も……魔族も。魔王を守ることは勿論、闇の魔物たちもしっかり守り通して見せるわ。
「はい、そうですね。僕だってもう分かっています。絶対に守りましょう、全てを」
微笑み合ってステッキを握り締める。そして二人同時に唱え始めた、全てを守る為に呪文を。成功するかは分からない、もしかしたら私達が神じゃなくなるかもしれない。少ないチャンス、全力で! 必死に呪文を思い出し、唱え続けていた。
「全てを守る? 笑わせるな。お前は全てを壊す鬼神だ。全てを絶望へ導く、それがお前の任務だろ? こちら側の筈だ」
でも、ここまで知っていてただの人間? さすがにそれじゃ片付けられなそうね。
「お前らに使える訳がないだろ! そのステッキが」
気付いたときには、ステッキを奪われてしまっていた。どうやら、前回の魔王とは訳が違うみたいね。ただ殺したい、ただ壊したい。そんなんじゃない、凜子はそんなんじゃないのね。だから私や悠馬に反抗できる、だから神を否定できる。




