優しさ
「え? 何をしたつもりもありませんけど……。どうかなさったんですか?」
悠馬じゃないの? じゃあ、誰が凜子を吹き飛ばしたのよ。それか、いつも通り悠馬が嘘を吐いているだけかしら。だって、明らかに悠馬の様子が可笑しかったもの。ただ、悠馬は凜子に触れていないのよね。そして魔法を使ってもいなかった。だったら、どうやって攻撃をしたのかしら。それが分からないわ。
「いいや、どうもしない。ちょっと風があったから、誰がやったのかと思っただけ。疑ってすまなかった。きっとただの風だよな」
そんな筈がないじゃない。吹き飛ばされる程の強風、いきなり吹く筈ないもの。それに、空中にいたならともかく地上にいるのよ? 風では飛ばされないわ。
「はい、きっとそうですよ。もう、失礼な方ですね。しかし勘違いしたのでしょうし、咎めたりはしませんよ。それで、ご用は何ですか? 着いて行くつもりはありませんが」
悠馬、どうしたのかしらね。嘘? 演技? それとも、何かが狂ってしまったの? 頑張り過ぎて故障した、みたいな感じよ。どうなのかしら。
「お許し頂きありがとう。優しいお前だから、着いてきたりはしてくれないのか? 断ったりして、仲間を無駄に傷付けるなんて。そんな酷いことしそうな奴じゃないのになぁ」
仲間を傷付ける? その言葉とほぼ同時に、私は捕まってしまっていたわ。凜子は私を右手で抱き、左手は炎で遊んでいる。私を焼き殺すつもりかしら。ふん、上等じゃないの。炎だったら自信があるわ。
「陽香さんっ! 早く陽香さんを放して下さい」
悠馬は私以上に余裕を感じていると思った。だけど、予想以上に悠馬は乱れていたのだ。らしくないわ。でも、演技って風にも見えないわ。
「放した方が身の為だと思います」
凜子に私を放すつもりがないので、悠馬は言い方を替えて再び頼んだ。でも、そんな挑発するようなこと言わない方がいいんじゃないかしら。
「僕が鬼神に戻る前に、お願いします……」
鬼神に戻ることが出来るの? 言い方を聞く限り、意図的にじゃないというようにも取れるわ。どうなのかしら。
「はっはっは、そんな脅しは無駄だ。それが不可能であることは分かっている」
笑う凜子。その様子は、本当に勝利を信じているかのようだった。
「……姫神様、うぅ。僕が、守るんですっ」
悠馬の後ろに、大きな影が見えた。そしてその影は私に襲い掛かってくる。そして気が付くと、私は凜子でなく悠馬に抱かれていた。
「大丈夫ですか? 怖くありませんでしたか? 怪我とかしていませんか?」




