召喚
「やっぱり、試してみるしかないのでしょうか。まだ完全とは程遠いですし、危険だって伴います。しかし、僕は皆を守りたいから……」
ステッキを右手に持ち、悠馬は何か高速で唱え始めた。
「陽香さん、貴方も分かる筈です。女神の記憶、これで蘇って来るでしょう。少なくとも呪文だけは、忘れたりしていない筈ですよ」
呪文を唱え終えたのか、ステッキに何かを念じながらそう言って来た。そしてその言葉と同時に、私の手の中にもステッキが出現した。
「……任せて」
頭の中に知らない言葉が浮かんできたので、それが呪文なんだと思った。だから私は、安心させるためにそう声を掛けた。頭の中に次々と浮かんでくる言葉を、私はただ声にしていった。すると、それが終わった時に強い強い光が放たれた。
「こんにちは」
光が無くなると、そこには数匹の魔物のようなもの。しかしその魔物は黄色く、なぜだか言葉を話せていた。勿論顔などはないが、人型も私の知っている魔物よりもはっきりしているわ。もしかして、これが光の魔物って奴なのかしら。
「お久しぶりですね。もう一度呼んで戴けるなんて、驚きです」
もう一度? 以前にも呼んだことがあるということかしら。だからなぜか呪文を知っていた、そうゆうことなのね。
「はい、僕ももう一度呼べるだなんて思っていませんでした。驚いています」
悠馬はそれを知っているのね。まあ、当然かしら。
「雰囲気がお変わりになられましたね。何かあったのでしょうか」
今度は私の方を向き、そいつらはそんなことを言って来た。ってことは、私も以前に呼んだことがあるってことかしら。
「分からないわ。ごめんなさい」
でもそんなことを言われたって、記憶がないもんだからどうしようもないわ。こんなの知らない。私は光の魔物だなんて、その存在すら知らなかったんだもの。
「女神であった記憶がないそうなのです。しかしこの通り、力は十分にあります。神として扱い、しっかり仕えてくれますよね」
神として扱われるのも、困るっちゃ困るんじゃないかしら。でもまあ、配下が出来たって言うのはいいことだわ。
「はい、勿論でございます。それに、貴方様は記憶も御有りなのでしょう? 仕えない理由が無くなってしまいます」
礼儀正しいのね、これが光と闇の違いなのかしら。そもそも、外見からしてこっちの方が上位存在っぽいしさ。だって人型がはっきりしてるもん、あっちなんか崩れてるもん。溶けてるみたいだもん。




