戻れなかった
「これ以上は無理です。しかし、まだ到着しそうにありませんね」
苦しそうに悠馬がそう言ったと共に、私達は吹き飛ばされ魔界の扉は完全に開いてしまった。
「どうしましょう、無理でした。麓の村が危ないですね、助けられないものでしょうか。…………助けましょう。もう僕は諦めない、そう決めたのに諦めかけてました。何ともならなくても、何とかするのです。魔になんか屈しないのです、絶対」
助けましょうって言ったって、どうすれば助けられるのよ。屈しないなんて言ったって、どうすれば屈していないことになるのよ。
「陽香さん、まだ力は残っていますか? 妖精たちも。村人の避難を急ぎましょう」
もう扉から魔物は出て来ている。それも、かなり夥しい量だわ。どうやったって村を助けられる気はしない。助けに行ったりしても、すぐに私達が死んでしまって同じよ。私は同時に三匹ほどで限界だし、さすがの悠馬だって百匹を相手にすれば苦戦もするでしょう。まあいくら悠馬でも、魔物百匹と戦うなんて信じられないしね。だけど溢れ出ている魔物の量は、最早何も見えないくなっているレベルよ。
村の真上にいる筈なのに、黒い魔物が溢れていて村は全く見えないわ。数えるなんてする気になれない数。少なくとも千匹くらいは軽く超えていそうね。
「どうして誰も動かないのですか? だったら僕が一人ででも行きますよ」
余程興奮しているのか、珍しく良い判断が出来ていないと思うわ。だから突っ込もうとする悠馬を私は止めた。必死になって止めた。どんなに振り払われそうになっても、私の両手は悠馬の左手を離さなかった。
「止めないで下さい。いやぁ、いやぁ! 嫌なんです。もう見たくありません。もう、何も出来ずにいるのは嫌なんです。僕は十分生きました。人間を守り死ねるのなら本望です。そんな素敵な死に方、通常の鬼神ではできないことです」
死んででもここの人間を守るっていうの? 元々人々は死んでいるのに、こんな村に住民なんてほとんど残っていないって言うのに。
「落ち着いて。まだ貴方は死ぬべきではないわ。だってこの村を一時的に守ったところで、魔王を倒さなきゃまた攻撃されて同じことだもの。逝くにしても、平和を作ってからにして頂戴。途中で放り出すなんて無責任だとは思わないかしら」
必死に説得を続けていると、やっと悠馬も正気を取り戻してくれたらしいわ。
「すみません、僕としたことが……。しかしここまでされては、魔界そのものを許す訳にはいかなくなってきますね」




