開く魔界の扉
「好きな人、ですか? 陽香さんではなく、女神様が恋をしていらっしゃったんですか……。そうですか」
それを聞いた悠馬の表情は、どこか悲しそうで切なそうに見えた。
「魔界の扉、開いてしまっています。もうあの状態なんでしたら、今からレジェンド様を読んで来たところで間に合う筈がありませんよ」
私と悠馬で怖れを誤魔化す為の恋バナをしていた時、ブックちゃんが掠れた声で震えながらそう言った。ブックちゃんの指差す先を見ると、そこにはあの大きな扉がある。出現とかどうのこうの以前に、扉はもう開いているように見えるわ。
「どうしてですかっ!? そんなに早く開く筈がありません。どうして、どうして? 取り敢えず、開くのを阻止しに向かいましょう。魔界の扉が開くのを抑えるのと、レジェンド様を呼んでくるのとで別れましょう。時間がないので、考える必要はありません。やりたい方をお願いします」
その扉を見て驚き慌て出す悠馬。えっと、どうすればいいんだろう。
「陽香さんは魔界の扉に来て下さい。ファイヤーちゃんはレジェンド様のところへっ! 他も早く分かれて下さい」
悠馬に呼ばれたので、取り敢えず私は扉のところまで行く。結局私達の方に来たのは、私と悠馬とブックちゃんと、それにフラワーちゃんだから大体半分の人数。
「それでは、全力で押さえて下さい。不可能だなんて思わないで、レジェンド様を連れて戻って来てくれるのを信じて待つのです」
悠馬が珍しく応援のような言葉を吐く。何と珍しいこともあるもんだね。
「妖精の力、魔物共に見せつけてやります! 妖精はペットじゃないんですからーっ!! 何が魔物ですかっ! 何が魔王ですかっ! クソーっ!!!」
うわ、ブックちゃんのキレ方が半端ない。掴まっているときに魔物に何をされたのか知らないけど、相当気に入らなかったらしい。でも確かに、妖精をあんな狭いところに閉じ込めていた時点で信じられないけどさ。
「このままじゃ開いてしまいます。もっと、もっと力を出して下さい」
もっと? 何言ってるのよ。滅茶苦茶全力よ、これ以上力を出すなんて無理だわ。でもそうやって言う悠馬自身も頑張ってるから、私も頑張れる気がするわ。
「魔界の奴らごときに、負けて堪るかーっ!! 底力見せてやるっ!」
こんだけ全力でやっているけれど、扉が開くのを抑えることなんて出来ない。少しだけでも、開くまでの時間を稼ごうかな程度にしかなっていないわ。レジェンド様が来たら、本当に扉は止められるのかって話ね。




