ステッキを翳せ
「出現までにはまだ時間がある筈、……それに。本当に光の魔物を召喚出来るならば、魔界の扉くらいどうってことありませんよ。僕の設定では、の話ですがね」
はあ? 何よ、悠馬の設定って。てか光の魔物って、そんなに強いの!? 闇の魔物も確かに強いには強いけれど、普通に私が戦えるレベルだわ。でも光の魔物って奴は、あんな大きな扉を消し去ることが出来るとでも言うのかしら。
「ここにある筈ですわ。ほら、ほらこれでしてよ! これがその筈でしてよっ」
望海が地面を少し掘ると、リボンなどが付いている魔法少女のステッキ的なのが出てきた。望海はそれを手に取って、軽く土を掃う。
「痛々しいですね。これを武器として使用なんて、恥ずかし過ぎて僕には耐えられません」
尤もな意見を、悠馬が本気で引いているかの目でステッキを見ながら言う。
「ご安心下さいまし、悠馬さんに使わせは致しませんわ」
そりゃまあ、そうでしょうね。望海がそう言わなくたって、誰も悠馬に使わせようとは思わないんじゃない?
でもその時、私は気付いてしまったの。こんな感じの武器、誰かが使っていたような姿。見覚えあるわ、相当最近よね……。
「陽香さん、何か良からぬことをお考えになっていらっしゃるご様子ですね。しかし陽香さん、考え直してみて下さい。そもそも僕が以前使っていたのはれっきとした鈍器であって、このようなリボンを付けた痛々しい武器とは違います」
そんなことを言ったって、私が口に出してないのに分かってる時点で悠馬もそう思っているんでしょ? それにあのステッキとこのステッキの差が私にはいまいち分からないのであって、鈍器とか言われたって『はぁ? バカじゃないの』と思うだけなのである。
「伝説と言われ村が大切にしてきた道具に向かって、このようなとか痛々しい武器ってのはあんまりじゃなくって? それに何を言おうと、悠馬さんが使用されていたのがもう片方なので御座いましょう」
望海がそう言ったんだけど、出もよく分かんないわねやっぱり。そもそも何なの? もう片方とか言っちゃってさ。
「それなら、僕の武器を今お見せしましょうか? リボンなんて付いてませんから」
珍しく可愛くむきになっちゃって、悠馬はあのステッキを出現させた。そして悠馬が持っているのと、望海が持っているので比べて貰った。
大きさやデザイン性とか、その辺はまるっきり一緒って感じね。望海の方はピンク色なのだが悠馬の方はレモン色、望海の方はリボンなのだが悠馬の方は花。違いなんて、そんなような物しか見つからない。
「確かにリボンは付いてないけど、お花だって一緒じゃない? 悪いけど」
この私さえまだ言ってなかった言葉を、歩は迷わず口にしたのであった。




