魔界の扉
「……陽香さん、あれ見て下さい」
悠馬は右の方を指差していた。私は悠馬が指差す先を目で追い……、何よあれ。
「この気配を発生させているもの、そう考えていいのかしら」
森の奥深く、湖がある所よりもずっとずーっと奥深く。多分そんなところに、それはあった。
「はい、そうでしょうね。僕も初めて見ましたが、魔界の扉でしょう」
巨大な黒い扉のようなものの周りに、黒い真っ黒い霧のようなものが渦巻いている。しかし気持ち悪いとかは思わないわ、むしろ美しいとすら思えるくらいね。
「魔界の、扉? 何よそれ」
私がそう問い掛けたとき、歩が振り返って悠馬の代わりに答えてくれた。
「その名の通り、魔界と繋がる扉。でもそれも伝説のようなもの、今は関係ないわ。いくら魔王が動き出してしまったとは言え、アイツは望海ちゃんみたいに伝説に頼るタイプには見えなかったわ。心配無用じゃないかしらね」
そうかしら。私には、伝説とか好きそうに見えたわ。でも夢見るんじゃなくて、伝説を伝説ではなくすような……それくらい頑張っちゃいそうな感じだったわ。
って、魔界!? 直接魔界と繋げるなんて、さすがにそれは大胆な行動過ぎるわ。そこまでリスクの大きいこと、わざわざしたりするかしらね……。もっと少しずつ、もっと地道に痛めつけて行く性質だとばかり。
”私はもう神に屈しない”そう言った彼女は、悲しそうだけど強い顔をしていた。あそこで私達と会ったこときっかけに、本格的に動き出してしまったのかもしれない。
「てか、何そんな悩み込んじゃってるのよ。そんな伝説の話より、もっと現実の話をご覧になったら? 何の話してたのかは知らないけどさ」
良かった、話自体は聞かれていなかったのか。ん? てか、聞かれちゃいけないのかしら。
「別に、魔界の扉が本当に出現するとは思ってませんよ。ただの妄想話です、お気になさらずに」
私が微妙に戸惑っていると、悠馬が誤魔化しておいてくれた。
「望海さんや歩さんに、あれは見えていないのでしょう。彼女たちは、何を言っても人間です。まだ気配程度にしかないのなら、魔界の扉も見えませんよ」
人間には見えないの? でも気配程度にしかないならってことは、普通にこれから出現まで行って人間にも見えるようになるってことかしら。
「完全に出現してしまう前に、何とか僕らで片付けてしまいましょう」
片付けるって言ったって、あんなのどうしろって言うのよ。ここから見たって巨大なんだから、近くで見れば更に大きいんでしょうね。何よ、どうしようもないじゃない。




