失われた兄弟
私としても、妖精を守りたい。妖精に傷付いて欲しくない、それは本当の気持ち。だって妖精のことは、覚えているから……。
「望海さん、もう安全だと思います」
歩のせいで私達が沈黙を続けていた時、悠馬が駆け寄ってきて気まずい空気を破壊してくれた。
「浄化も終了致しましたし、相当のことがない限りご心配無用です」
ニコニコとそう言った悠馬は、歩の方に視線を向けた。そして不思議そうな顔をして、子供っぽく首を傾げた。素直な子供としか思えないような、そんな雰囲気で微笑みを浮かべている。
「あっ、私は山吹歩よ。えっと、……宜しく」
歩は私との時とは違い、妙にテンパった様子で悠馬に礼をした。
「僕は川崎悠馬です、宜しくお願いしますね。歩さん」
一方悠馬は普段通りニコニコと微笑み、ぺこりと礼をした後手を差し出した。
「……えっ、うん」
戸惑いながら歩はなぜか一人で頷いていた、そして悠馬の手は握られることがなく下ろされてしまう。
「どうして誰も、握手すらしてくれないんでしょうね」
不満げな顔をしていた悠馬だが、すぐに微笑み直した。そういえば私にも手を差し出してきたわよね? 自然に払ったけど。
「歩姉ちゃんじゃん、翼は無事か!?」
悠馬の後ろからあの少年が、そう叫びながら歩に駆け寄って行った。
「…………あっ、キミは……。ゴメン、私……翼を……助けられなかったの」
歩は悲しそうに目を伏せて、少年にそう言った。翼? 名前かしら。
「そんじゃ翼は、死んじったってんのかよ」
不安気に訊く少年の言葉に、歩は小さく頷いた。
「洋は? どうしたのよ」
俯きながらも歩は、少年にそう問い掛けた。洋? これも名前なのかしら。
「…………えっ、兄ちゃんは……。ゴメン、おれも兄ちゃんを救えなかったんだ」
あの死体の名前が、洋だってこと? 兄ちゃんって言ってたものね。うわ~、クソどうでもいい。
「それじゃ洋は、死んじゃったって言うの……」
少年は歩のその質問に、悔しそうに悲しそうに小さく頷いた。
「翼や兄ちゃんを殺した奴ら、絶対に許せない!」
唇を噛み締め涙を目に溜めながらも、少年はそう叫んで見せた。その姿がなぜだか、カッコいいような気がしてしまった。
「うん、私も絶対に許さない。翼や洋を……、それに村の皆を殺した奴ら。望海ちゃんを悲しませた奴らを……、絶対に許したりなんかしないわ」
歩は目に溜まった涙を拭いて、顔を上げてそう言った。その瞳に確かな決意を秘めていた、それが私にも分かったの。だからこそ私は、何も言うことが出来なかった。




