猫を被る
こんな奴らには、私だって負けたりしないわ。死ね、死ね死ね死ね死ね。
「ゔらぁ! ぐるぁ!!」
叫びながら私は、黒く蠢く姿を見ないように殺していく。気持ちが悪い、気持ち悪いのよっ! 有り得ない。
「陽香さん望海さん、耳を塞いで下さい。少しだけ、少しだけの間で大丈夫ですよ」
悠馬の指示に従って、訳の分からないまま耳を塞いでいた。周り中が真っ暗になり、視界も完全に奪われてしまう。何? 今何が起こっているのよ。手で耳を塞いでいるだけで殆ど何も聞こえない、だから轟音が発されているわけではないってことよね。
暫くすると徐々に視界が戻って来て、目の前には悠馬の姿が見えた。何か口を動かしているのだが、耳を塞いでいるので何を言っているのかは分からない。すると悠馬もそれに気付いたのか、私の手に自分の手を乗せて耳から離す。
「もう大丈夫ですよ、ほら」
微笑む悠馬がそう言って私の前から退くと、そこには少し前まで大量発生していた蛆虫の面影はほんの少しもなかった。
「何をなさったんですの? 一瞬で元の姿を、取り戻させることが出来るなんて……。退治しただけではなく、倒れた木々まで元に戻っているでは御座いませんの」
そう言われてみれば、そうなのかもしれないわね。でも悠馬がすることに、今更驚いたりはしないわ。だって悠馬だもの、何だってしそうなところじゃない? 何でも出来そうだもの。
「少しだけ力を、……使っちゃいました。テヘッ」
私の耳元で、悠馬は無邪気な笑顔でそう言った。憂いを隠したような裏のあるようないつもの笑顔じゃなくて、幼い子供のような無邪気な笑顔でそう言った。その笑顔も悠馬が意図して作ったものかもしれない、だけど可愛らしい子供だと感じてしまうような素敵な笑顔だった。
「これで少しでも、お役にたてたなら嬉しいんですけど……。村人を全然守れませんでした、だからね」
今度は望海のところまで歩いて行き、低い身長を利用して望海を見上げる形を作って言う。
「気になさっていらっしゃったんですの? 悠馬さん達は、助けて下さったんですのに……」
助けてって、何か助けたかしらね。でもまあ望海だってそう言ってるし、気にすることないわよね。
「お二人がいなければ、何も助からなかったかもしれませんのよ? 私もストーンも村も、何も……」
望海がそう微笑んでくれて良かった、咎められていたら私は罪を感じてしまったかもしれないもの。これ以上に……。
「取り敢えず、生き残った人を探しましょう。折角殺されずに済んだんだから、すぐに保護しましょ」
村人達の生き残りを思うでもないけど、いい人の気分になったので私はそう言っておいた。味方になる人は、取り敢えず味方にしておかないとよね。