悲しみに満ちた瞳
「確かに僕は、貴方達全て消し去ろうとしました。だけど……助けた理由、分かりませんか? 貴方達の中に希望を見つけたからです、確かな光を……!」
どうしてだろう。この悠馬の言葉は、嘘になんか聞こえないわ。でもこんなこと、悠馬は言いそうにないのにね? 何よ、確かな光って。
「私が新しい神になる、古い神の言葉なんてもう信じない。嘘ばっかり吐いて、人間達ばっかり庇って。もう騙されないから、待ってろよ。はっはっはっは」
悲しみに満ちた瞳、でもそこには決意が宿っていた。私達じゃ勝てない、あんな綺麗な……悲しい瞳の人に勝てないよ。今の私じゃまだ、凜子には敵わないわ。
そう思ってしまうほどの強さを、私は凜子の瞳に感じていたのだった。
「陽香さん、大丈夫ですか?」
悠馬の声で、私はハッと我に返る。そこには、もう何も残っていなかった。そう、私達以外は何も。
「ええ、大丈夫よ。でも悠馬、あの言葉はどうゆうことだったの? 確かな光って……」
私の質問はやはり禁句だったらしく、悠馬は微笑みを歪ませた。顔をよく見ると、驚くことに悠馬の目には涙が滲んでいた。その上、完全に怯えきった目をしている。
気付かなかったけれど、悠馬は凜子を恐れているということなの? う~ん、そうは見えなかった……強がってたってこと? ……かしらね。
「僕は鬼神と言う存在です、これは話しましたね?」
ええ、聞いたことあるわ。そう答えようとしたのだが、その前に悠馬が口を開いた。
「そして神は、誰に対しても平等にしなければなりません。しかし僕は人間達を可愛がって、凜子さんの言う通り庇い続けました。その結果、殆どの種族が滅んで行ってしまいました。それでも僕は、人間達を殺せませんでした。やっぱり何か、特別な扱いをしていたのでしょう。僕自身も、今はあれが平等だったとは思ってません。しかしなぜかあの頃の僕は、それでも平等だと思っていたのでしょう」
特別な、扱い……? どうして悠馬は、人間達を可愛がって庇ったのかしら。
「人間・妖精、妖怪・魔物、天使・悪魔、神。今残っている世界は、たったの四つしかありません。鬼神の僕が、壊し続けましたから。そうですね、人間を庇うのはよくありませんよね……。そもそも僕は鬼神、任務は守ることじゃありません」
悠馬の瞳は潤んでいたのだが、それでも彼は笑っていた。
「でも僕は一つだけ、一つだけ約束を守れたんですよ? 凜子さん」
最早悠馬は、空に向かって話しているような状態だった。
「僕、笑顔を見つけたんです。笑顔でいれたでしょう? 怒ることも、少なりましたよ? ほら、言ったじゃないですか。ずっと笑顔で……、って」




