新しい神
「はい、ここは人間達の世界ですから。そこへ侵略してきたのですから、魔物たちは悪者ではないのですか? だから僕達が、退治していただけですよ」
悠馬が余りにもニコニコしてるから、凜子は少しだけ不快そうな表情を浮かばせた。しかし直ぐに、満面の笑みを浮かべ直した。
「侵略しているわけではないさ、それに逆説もあるだろ」
逆説? へえ、聞いてやろうじゃないの。
「いいえ、ありません。ここは元々魔物たちの世界だったのだが人間に乗っ取られた、とでも言いたいのですか? しかし残念ながら、その可能性はありません」
ニコニコニコニコ、満面の笑みのまま悠馬は完全に否定した。
「なぜだ? 昔神が何を思い何をしたか、そんなのがお前に分かるってのかよ」
ニヤニヤニヤニヤ、気持ちの悪い笑みを浮かべて凜子も言い返す。
「はい、分かりますよ。だって世界を作り出して種族で分けたのは、僕自身ですからね……。結構昔のことですが、そこまで大きなことは中々忘れられませんよ」
さすがに悠馬のその言葉には、凜子も驚きの表情を見せた。
「私も覚えている、その記憶はあるわ。戦いはダメ! って……」
凄い昔に私と悠馬とあと……大人版の梨乃だわ。その三人で生き物たちの戦いを……、それで世界を分割して……種族別に……覚えているわ。
「陽香さん、本当ですか? 覚えていて下さったんですね、やっぱ優しい方です」
その時理由は分からないけど、私は何だか嬉しかった。
「ははっ、あの話は本当だったのかよ。世界の侵略は神が直々に止めに来る、そして全てを壊されてしまうって……。でも私はもう神に屈しないから、宜しくな」
もう神に屈しない……もう? どうゆうことなのだろう。
「神の怒りに触れないように暮らすなんて嫌だ! 人間達ばっかり自由なのに、私達だけそんなのは不平等だ。だから私はそれを変えてみせる、私が新しい神になるんだ。古い神なんて、古い神なんて……私が消し去ってやるさっ!!」
悲しそうに悔しそうにそう叫んだのだが、その後は普通の笑顔に戻っていた。
「それは反省していますよ、そして僕はそれを変えて見せます。その為にも戦っているのですよ、僕も古い神の決まりと言うのは好まなくってね……」
嘘だ、悠馬の言葉は確実な嘘だ。反省なんてこれっぽっちもしていない、ただ悠馬は凜子を……。まあそれは仕方ないだろう、だって私達が古い神本人らしいからね。消し去ってやるとか言われれば、不快にもなるでしょう。でも今は落ち着かせておく為に、悠馬は適当な事を言って話を合わせているんだ。私はそう思うわ。
私もその古い神に入っているのかもしれないけど、生憎私にその記憶は殆どないわ。だから何を言われたとしても、自分が言われてる気がしないわね。