殺された兄
え? ”dark stone”が存在しているの?
「それは、魔王が生み出したものなの?」
それとも、人間が生み出してしまったものなのかしら。
「いいえ、彼女が魔王となる前からそうでした。犯罪や争いの多い町だったそうで、悲しい事件や戦の果てに…ストーンは穢れてしまったそうです。そして今魔王は、恐らくその町を拠点としていることでしょう」
人間が生んだ、悲しみのストーン。そして他のストーンたちも、そうされて行ってしまうのかしら。人々の魂や血によって…。
「ドラゴンが現れましたわ、陽香さんも悠馬さんも来て下さいまし」
望海に呼ばれて私たちは、ストーンがある湖まで案内された。そこには魔物が溢れ返り、大量のドラゴンたちが火を放っていた。
「こいつらくらいなら、止められるかもしれません。村人たちの避難を、宜しくお願い致します」
「了解いたしましたわ」
頷いて、望海は湖から立ち去っていく。それを確認した悠馬は呪文を唱え、よく分からない棒を出現させた。えっと、ステッキって言った方が分かりやすいかしらね。魔法使いって言うよりも、魔法少女って感じのね。
「ガオー! ガオガオ」
可愛らしい姿をしたドラゴンなのだが、攻撃の威力はバカにならない。強さだけは保証付きね、見た目は可愛らしいのだけど。
「ガーオー!」
そう吠えたドラゴンは、私達の方へ突進してくる。悠馬はそれを軽々と避け、私も余裕で回避する。しかしドラゴンの目的は、私達ではなかったようだ。
「……! 狙いは村人です! ドラゴン程度の奴では、聖なるストーンには触れられないのでしょう。だから村人たちを殺し、先に”dark stone”にしてしまおうと考えたのですね」
説明をしながらも悠馬は、ドラゴンを止める為に走り出した。私はただ、それを追った。
「ここは陽香さんに任せたいとこですが、大丈夫ですか?」
そうね、こいつ一匹くらい私が殺りましょう。
「ええ、問題ないわ。悠馬、貴方はこれ以上ドラゴンが村へ来るのを止めて頂戴」
「はい」
悠馬は走り去っていき、私は戦闘の構えを取る。ドラゴン一匹くらい、私にだって倒せるわよ。覚悟しなさい! 雑魚め。
私はドラゴンの弱点である筈の、耳元を思いっ切り蹴り上げた。
「ガオッ」
ピクッと反応してドラゴンは、可愛らしい悲鳴を上げた。
「ガオー!」
しかしその後興奮して、住宅街へと突っ込んで行った。
「キャー!」 「助けてー!」
逃げ遅れた人々の悲鳴、早く助けに行かないとね。私は全速力で走り、ドラゴンを追った。しかしその途中で、何かに躓いて転んだ。こんなところに、何があるって言うの?
私は足元を確認する。そこにあったのは、死体であった。
てか今まで会ってきた人が反応しなかったせいで忘れてたけど、私物凄く血だらけなんだったわ。ほら、あの鳥型モンスターの。
「お、お前! 兄ちゃんに対して、なんて酷いことすんだよ。兄ちゃんは、優しくていい人だったのに!」
え? 建物の陰から幼げな少年が飛び出て来て、私目掛けてナイフを振るって来る。
「何の話よ、ねえ! 何を言っているの?」
私はナイフを取り上げて、少年を押さえつけた。こんなもの持って暴れられて、怪我でもしたら堪ったもんじゃないわ。




