最後の光
「…!?」
しかし上に辿り着く前に、悠馬は立ち止まった。酷く驚愕したような、そんな顔をしている。私が不思議に思っていると、大きな爆破音が聞こえてきた。
「何? 何があったのよ」
驚いてそのまま上に戻り、私は下を眺める。何もない、でも私も気配を感じる。っ! 真下に、すぐ真下にいるわ。
「陽香さん、読み違いです。すいません、早く助けに行かなければ! スターちゃんが、スターちゃんがっ!!」
悠馬にしては珍しく、取り乱しているようだわ。そこまでの緊急事態ともなると、最早私は気付けないから慌てなくて済むわね。
「分かったわ、早く行きましょう」
私達は退き返し、下へと駆け下りて行く。すると無かった筈の大きな穴が開いていて、そこから梨乃が沢山の魔物を連れて現れた。
「もう会わないことを期待していたのですが、また会ってしまいましたね」
ニコッと可愛らしく、梨乃は私達に微笑み掛けてきた。
「貴方、誰ですか? いつ、僕と会ったのでしょう」
えーっと、あの時の少年とは別人設定なのね? でもまあ、それが通るなら私もそれがいいと思うわ。
「お忘れですか? まあ私には関係ありませんし、会ってないということにしておいてあげましょう」
そう言って梨乃は、私達に手を振った。てくてく子供らしく、どこかへと歩いて行ってしまう。
「凄い魔力、まあ……一応追いましょう」
驚愕の表情を浮かべながらも、悠馬は梨乃の方へ走り出す。しかし可笑しいわ、どうなっているの? 私と悠馬は走っている、にも拘らず歩いている梨乃に追い付けない。それどころか、梨乃との距離は開いて行くわ。
そして私達が梨乃に追い付いた時、梨乃の右手にはスターちゃんが握られていた。隠れていた筈なのに、どうやって探しているって言うの? 迷わず向かったわよね、どこにいるか分かるってことかしら。
「妖精は貰いますね? それと、”star stone”を渡していただけるとありがたいのですが……」
ニヤニヤ笑いながら、梨乃はスターちゃんを握る手に力を込める。
「あたしはだいじょーぶだよ、だって強いもん。だから絶対、ストーンは守ってね。最後にあたし、こいつの正体を教えてあげる。後は頼んだからね」
どうゆうこと? さすがの梨乃も、笑顔を少し崩していた。
「最強スターちゃん、なめないでよね」
スターちゃんが辛そうにあはっと笑うと、強い強い光が放たれた。そして光が無くなった時、梨乃は全く別人に変わっていた。青ストレートで綺麗に、太股辺りまで伸びた髪。頭には二本の角を生やしている。その上梨乃は凄く子供っぽかったのだが、滅茶苦茶大人っぽくなっているわ。身長は私より上くらい、だから大体165cmってとこかしら。歳はもう、二十歳くらいに見えるわね。
「夜叉姫様、どうなさったのです?」
は? 悠馬は、訳の分からない事を言っていた。夜叉姫様? 何よそれ。
「スターちゃんにここまでの力があるとは、私も驚きましたわ」
てか、この大人な声は何なの? どうゆうことよ。
「ストーンはまた、後で取りに来ますわね。もう会わないことを期待、いいえ。また会いましょう、羅刹さん」
フワッと微笑んで、フワッという感じに女性は消え去った。魔物たちも、スターちゃんも一緒に。確かに笑顔の感じは、ちょっと梨乃の面影があったかもしれないわね。




