邪悪な気配
「あら、スターちゃん? 囮になんて出来る筈ないでしょう? 貴方は我が村のストーンを守る、大切な妖精ですのよ。万が一があれば、我が村まで滅んでしまいますわ」
まあ、それはそうよね。大切な妖精、囮にするなんて相当の勇気がいるわ。でも囮と言うのは、いい作戦かも知れないわよね。
「だいじょーぶ、あたしに万が一なんてないよ。妖精の中でも、レジェンド様を除けば一番強いんだよ? 魔王なんかに捕まる訳ないじゃん」
最強と謳われていたであろう自分の力に、ただ自惚れているということでいいのね?
「スターちゃん」
悠馬が優しい微笑みで、その名前を呼んだ。とても優しそうなのに、妙に迫力がある声だった。
「その油断が、自分の身を滅ぼしてしまうのですよ。魔王は人間とは違います、いつまでも自惚れていないで下さい☆」
優しい声色のまま、悠馬はスターちゃんの体を右手で握った。スターちゃんは苦しそうに呻く。
「放して、ねえ放して」
スターちゃんがいくら呻こうとも、悠馬は微笑んだまま動かない。
「もうそれくらいでいいでしょう? 放して差し上げなさい」
しかし望海がそう言うと、悠馬は頷いてスターちゃんを解放した。
「僕に捕まりましたよね? 果たして貴方の抵抗は、通用しましたか? しませんでしたよね」
ショボーンとして、スターちゃんは頷いた。まあ妖精には、ストーンを守る以外の役目はない。だってストーンを隠すこと、それしかできないのだから。さっきみたいに掴まれたら、抵抗することなんてできないわ。
「危険なことは、分かりましたわよね? スターちゃん、村をお任せ致しますわよ」
それでいつになったら、私は喋れるようになるのかしら。
「……! ねえ、邪悪な気配がするよ。こっちに、近付いて来てるみたいね」
スターちゃんが、突然笑顔を消してそう言った。邪悪な気配? それって、もう魔王の部隊が来ているってことかしら。
「分かりましたわ、結界を最高にしますわね。悠馬さん陽香さん、見張りをお願い致しますわ」
望海はどこかへ走って行き、スターちゃんは光になって消える。悠馬は私に手招きして、走りだした。私も急いで、悠馬について行った。
「どこか高いところへ行きましょう、魔王の部隊をすぐ発見しなければ」
悠馬は高台のようなところに、駆け登って行った。私もそれに続く。




