怪物の呻き声
「しかし僕の本当の名前を思い出すまでは、悠馬と呼んで下さって構いません」
本当の、名前…? じゃあやっぱり悠馬と言うのは、偽名だったということなの? いや、それは少し違うのかしら。
「ぎゃるああ」
暫く無言のまま歩いていると、所々に低い木が見え始めた。
「ぎゃるらぁあ!」
それと幻聴だと信じているのだけれど、少し前から怪物の呻き声のようなものが聞こえてきているわ。
「ぎゅらぁ!」
その声は、だんだん近づいてくる。どこ? どこにいるの? 分からないわ、辺りに全く邪気を感じられない。
「ぎゅあぁぁあ!」
見つけた、下ね。私の読み通り、地面の下から怪物が攻撃してきた。私は危機一髪で、何とかそれをかわす。そんなに大きな怪物じゃなかったし、強くはないのかしら。でも不思議ね、鳥型なのに地面を移動するなんて。
「陽香さん、倒しますか?」
地面から怪物が攻撃してくるのを、ヒョイヒョイ避けながら訊いてくる。どんだけ余裕なのよ、バカにし過ぎじゃない?
「めんどくさいわ、倒して行きましょう」
売られた喧嘩はね、殆ど絶対買う主義なのよ。
「分かりました、では陽香さんは攻撃を宜しくお願いします。僕はアイツを地面から誘き出します」
指示されるのは好きじゃないけど、了解しておいてあげるわ。
「準備して下さい」
仕方なく指示に従い、麻痺魔法を溜め始める。そして私が麻痺魔法を溜め終わった頃に、悠馬は上手く鳥型モンスターを上空まで誘き出してくれた。これだったら、地面に戻るまでに時間があるわ。その時間にソイツを、動けなくしろってことね。私は素早くそのモンスターに駆け寄って行って、絶対に外さない距離で溜めていた魔法を放つ。
「きゃるるぅ」
よしっ、当たったわ。飛んでいたそのモンスターは落ちてきて、地上に死体のように倒れていた。
「体が麻痺しているだけ、まだ生きているわ。確実に仕留めましょう」
「はい、それにこれなら食材にもなりそうですし」
え? 食べる気なの? えぇ、これを? 確かに鳥っぽいし、食べれなくもなさそうだけど…。
「食べるの?」
そのモンスターを殺しながらも、私は悠馬に問い掛ける。
「食べないんですか? だって、食べ物ありませんし…。貴重な肉ですよ」
いや、そうかもしれないけどさ。
「僕はてっきり、狩りなんだと思ってました」
でも確かに、それはそうかもしれないわね。私だって、そんなに沢山の食糧を持ち合わせてはいない。それにこのモンスターの肉が、美味しいってことだってあるかもしれないじゃないの。ええ、そうよ。




