女神と鬼神
「今はまだ、無理なんです。だけど魔王は、寂しいだけだと思うんです。彼女本人がそれに気付けば、人間と魔王だって助け合って暮らせます」
それはつまり、魔王を殺すなと言う意味? ふざけないでよ! 気付くときっていつよ、十年後? 二十年後? そんなの、一生来ないかもしれないじゃない。
「そう、なら貴方はどうしようって言うの? 築田村に行って魔王に会えて、何をしようって言うの?」
それは私にも、言えることね。私だって魔王を倒したい、ただそれだけだから。魔王に会えたら何をするの? そう言われたら、何も答えられないわ。でも自分が感じてることだからこそ、悠馬にも届く筈よ。きっとそうよ…。
「説得に励もうかと、思います。しかし話し合いの場が設けられるとは、僕も思っていません」
なら、どうしようって言うの? どうやって説得なんて、するって言うのよ。
「他の誰かが魔王を食い止めてる間に、語りかけようかと思っています。いやでも聞こえる声で、魔王に語りかけます。そして魔王の心に、届けたいと思っています」
バカじゃないの? そんなこと、出来る筈ないじゃない。
「貴方ねえ、誰が魔王を食い止めるって言うのよ。もしも出来る人がいたとしても、貴方が魔王とお喋りする為に魔王の攻撃を抑える人なんている筈ないわ! 不可能なことばかり言ってないで、もうちょっと可能なことを考えなさい。現実を見ないと、貴方も殺されるだけよ」
私がそこまで言ってもまだ、悠馬は微笑んでいた。何なのよ、そう言うの腹立つのよね。
「いいえ、その心配はありません。僕や陽香さんが、魔王ごときに殺されると仰ってるのですか? とても愉快なことを、ボケのおつもりですか?」
コイツ、私をバカにし過ぎなのよっ! ふざけるんじゃないわ、そのニヤニヤした顔が腹立つわ。
「何を根拠に、そんなふざけた事を言えているの? そこまで言うのなら、さっき闘えばよかったじゃないの」
私がバカにした言い方で返しても、悠馬はまだ笑っている。
「嫌ですよ、だって魔王攻撃するの気持ち悪いんですもん。それに僕は、魔王と闘いたいわけじゃないんです。言ってるじゃないですか、説得したいんですよ。それと根拠をと仰りましたね、しかしそれは考えれば分かることです。貴方は女神で僕は鬼神です。神が魔王ごときに負けるとお思いなのですか?」
そう言って悠馬は、クスクスと笑う。神? 女神って私が、それに鬼神って…。悠馬みたいな子が、そんな恐ろしい奴だって言うの? 信じられないわ。




